表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LostTechnology ~幼帝と保護者の騎士~  作者: CB-SXF6
本編(建国38年~建国47年)
55/76

極秘任務 四

 翌日、早朝より活動を開始し、活動拠点となっている貸し切った宿屋で報告書に目を通していた。

 アグネスは実質する事がないので、宿屋でコレットに適当な本を朗読させている。

 

「リーダー元気ないですね……」


 イザークはディートハルトの表情が暗い事に気づいた。


「ふん……」


 ディートハルトは答えずに鼻息を鳴らすとそっぽを向いて書類を読む。

 明らかに機嫌が悪い。


「昨日、姫様とポーカーで大勝負を挑んで、見事に大敗したんですよ。

 有金を全て巻き上げられて、只今、文無し中なのでそっとしてあげてください」


 横で見ていたカミルがまるで面白がる様に事情を暴露する。


「え!? 姫様が巻き上げたの!?」


「人聞きの悪い事を言うでないわ!

 そもそも、金を賭けようと言いだしたのはディートハルトの方じゃ!

 余に大勝負を挑んだのもディートハルトの方じゃ!

 ひとえに言って自業自得ではないか!」


 驚き恐れるイザークを見て声を荒げながら正論を言うアグネス。


「まあ確かに……自業自得ではありますね」

(仕事に支障がでなければいいけど……)


「うるさいぞ! 私語を慎め!」


「は…はい、わかりました」

(やつあたり……)


 ディートハルトの子供っぽい言動に、イザークは少し呆れ、カミルは笑いを堪えていた。 


「リーダー!」


 外で警護団を組織して情報を集めていたローラントが賭けこんでくる。


「どうした?」


 地図を広げ、ある地点を指差すローラント。


「昨日夜、この付近で、人とは思えない大きな影を見たとの目撃情報が……

 幸い襲われた者はいないようです」


「そうか、行くぞ!」


「はっ!」


 ディートハルトは気持ちを切り替えると言うか、嫌な事を早く忘れる為、任務に熱中する事にした。


「カミル、イザーク! 姫を頼んだぞ」


「畏まりました」


 姫がついてこない様にさせるための言動だが、アグネスの頬は膨れてしまう。


「余も行きたいのじゃ!」


「危険です。昨日のハンスの怪我を見たでしょう?

 犯罪組織はどんな凶器を持っているかもわかっておりません」


 アグネスにはリザードマンではなく、下水を根城にしている裏組織を討伐していると伝えていた。

 リザードマンがいるとなれば、『王都にいる筈のないリザードマンが何故いる?』という話になる。

 ライナルトは、リザードマンを知る者は一人でも少なくしろ厳命を下していた。


「しかし、余はこの任務の総大将!

 余が宿屋にいては兵の士気にかかわるのではないか?」


「ハハハッ! むしろ姫が現場に出られては皆が緊張してしまいます」


「なんじゃと!」


 ディートハルトの言葉にカチンとくる。


「姫はドーンと構えて、ここで吉報を待っていればよいのです。

 危険な事は全て私にお任せください」


 ディートハルトは目でイザークに合図を送る。


「さっ! 姫様こちらへ」


 合図を受けて、イザークとカミルが部屋の一室へ連れて行った。


「ふうっ……」

(姫の現場で指揮を執りたい欲求は、大きくなる一方だな。

 早く事件を解決せねば)


 ディートハルトは、部下と警護団を連れて目撃情報のあった現場へ向かった。


……――……――……――……――……――……――……


 現場近くのマンホールから再び下水へと降りる。


「ふうっ……」

(相変わらず臭い……)


 今回のメンバーはルッツ、テオフィル、フロレンツ、侍女のクラリッサ。


「いるな……」


 ディートハルトはリザードマンの気配を感じ取る。

 昨日警戒したとおり、リザードマン達は剣を装備していた。


「3体か……」

(勝てなくはない……

 後はどれだけ犠牲を減らせるか……)


 侍女のクラリッサも含め、死ぬ覚悟は出来てこの任務に就いている。


「戦うぞ。

 クラリッサ殿、援護をお願いします」


「畏まりました」


 リザードマン達が動いた。

 人間を遥かに凌ぐ脚力を活かして地を蹴り、壁を蹴る。

 ディートハルトはリザードマンの攻撃を剣でいなすと、闇の魔法を放つ。

 一体は魔法を受けて、大きく飛び退くが、続けざまに残りの二体が突っ込んで来る。


(狭い下水じゃ、左右に展開できん)


……――……――……――……――……――……――……


「イザーク! もっと面白い話をもってこんか!」


「す…すみません。只今」


 アグネスの機嫌は限界にきていた。

 宿屋でお留守番をさせられている事が面白くないのである。


「む~! 何故、余を連れていかんのじゃ!

 余を一体誰だと思っている?

 今回の『ごくひにんむ』を爺上から直々に受けたのは余であるというのに!」


 アグネスは部屋から、自分以外の者を全て叩き出し、自室にこもってしまう。

 扉の前で、衛兵の様に立って警護するカミルとイザーク。


「まずい状況ですね……

 姫様の望みは自分が指揮をとって見事任務を達成し、拍手喝采を浴びる事……」


 苦々しい顔でカミルが呟いた。


「せめてリーダーがここに入れば、適度にはぐらかして終わるけど」


 ディートハルトは、今回の討伐の最大戦力であり、最前線以外の居場所はない。

 一方、アグネスは傷を負ってはならない身であるため、最後方以外に居場所はない。

 ディートハルトが側にいない事も苛立つ理由の一つであった。

 アグネスは部屋に誰もいなくなったあと、ベッドで不貞寝をしていたが、唐突にある考えが閃いてしまう。


「ふん、余の力を見せてくれるわ」


 アグネスの一室は宿屋の3階にある。

 出入り口は一つしかないため、出入り口を警護していればほぼ問題はないとプリンセスガードは考えていた。

 アグネスは音が立たないよう窓を開けると、外に身を投げた。


……――……――……――……――……――……――……


「ぐあっ!」


 テオフィルがリザードマンの爪に引き裂かれ悲鳴を上げる。

 交戦した3体の内、2体は既に仕留めていたが、新手2体に不意打ちをくらい、苦戦を強いられる。

 激しい交戦の末、2体を仕留め最後の一体となった時、リザードマンは梯子を上り、地上へ逃げた。


「まずい、街へ逃げたかっ!」


 ディートハルトも急いで梯子を登り地上に出る。


「お前らは地上に出たら陣へ一旦戻れ、俺は奴を追う」


 負傷者も出ているし、新手が来るかもしれないので、人名を優先し単独で相手を追う事を決断する。

 逃げた相手はそこまで強くないので、単独でも十分倒せるだろう。

 ディートハルトは部下に指示を与えると、リザードマンの後を追った。


「はっ! ご武運を」


 フロレンツが、先に梯子に上り、負傷したテオフィルを引っ張り上げる。

 その後、クラリッサが上り、昇降中襲われないようにルッツが警護した。

 一方、リザードマンはなりふり構わず逃走していた。運の悪い領民はすれ違いざまに爪で切り裂かれ重傷を負う。

 当然、領民たちは悲鳴を上げてパニックに陥る。

 被害を減らすため、一刻も早く仕留めねばならない相手ではあるが、身体能力が根本的に違うため、脚力では圧倒的に不利であり追いつけない。


(くそっ! 逃げ足が速い)


 諦めるわけにもいかず、必死に後を追う。


……――……――……――……――……――……――……


「ふっふっふっ……

 爺上から習った浮遊魔法がこんなところで役に立つとはのう」


 窓から飛び降りたアグネスは、地面に激突するまえに体を浮遊させる魔法を使って無傷で降りたっていた。


「さて、余も現場へ向かうとするかの……」


 しかし、アグネスにはディートハルトが何処にいるかはわからない、かといって目を盗んで外に出た身であるためプリンセスガードに聞くわけにもいかない。

 どうしたものかと思案していると、ある方角から町民のざわめく声が聞こえてきた。


「む!? どうやら向こうの様じゃな」


 アグネスはざわめきの聞こえる方へと走っていった。


……――……――……――……――……――……――……


 ディートハルトは、相手に裏路地に入られてしまい見失っていた。

 気配と勘を頼りに追跡を続ける。

 路地を出た瞬間、ディートハルトは人と衝突した。


「すまん! 急いで……」


 倒れた人間に目をやると知った顔であるイザークであった。


「イザーク何故お前がここにいる?」


 宿屋で姫を厳重に警護している筈の人間が外に出ていることなどありえない。


「ディートハルト様? そ…それが……」


 イザークは事情説明し、ディートハルトは激怒した。


「バカヤロウ! 探せ!」


「はいっ!」


 もし、アグネスがリザードマンに殺される様な事があれば、プリンセガードだけでなくこの任務に関わった関係者全て一族ごと殺され河原に晒されるだろう。

 ライナルトに『お前の自業自得じゃねーか』などと突っ込みを入れれば、その者とその一族も処刑され晒し首なってもおかしくない。


(くそっ! とにかく俺は奴を仕留めないと……)


 ディートハルトは町民の悲鳴を頼りに追跡を再開する。

 アグネスがリザードマンと遭遇したらどうするだろうか?

 逃げてくれるのが最良だが、この際、腰を抜かすのもいいだろう、最悪なのは向かっていく事である。

 そんなおり、『ぎゃ~~!』と叫ぶ少女の悲鳴が聞こえてきた。

 

(姫!?)


 ディートハルトが悲鳴の聞こえた大通りへ出ると、リザードマンの逃げ道を運悪く塞いでしまったのか、爪で切り裂かれたと思われる成人女性が地面に伏している。

 そして、その女性の息子らしき少年が親を助けるためなのか、リザードマンに向っていく。

 ディートハルトは全力で走るが、距離が遠い。


(駄目だ、間に合わない……)


 アグネスと同じくらいの少年に向けて爪が振り降ろされると思った瞬間。


「デッドショック!」


 闇の魔法が解き放たれた。

 リザードマンは闇に包まれそのまま絶命する。

『デッドショック』とは、闇術のA魔法であり、その名の通り、精神に過剰な衝撃を与え対象をショック死(心停止)させる。

 この魔法を使えるのはディートハルトの知っている限り、自身の父であるハルトヴィヒのみであったが、それを唱えた術者はハルトヴィヒではなかった。


「久しぶりだな……

 まさか、王都でリザードマンと会うとは思っていなかったが、いきなりお前と会うとも思っていなかったぞ」


 その者は黒い馬に跨り、漆黒の鎧に身を包み、悪魔を彷彿させるフルフェイスの兜をかぶっている。

 外見では誰かはわからないがその声には聞き覚えがあった。


「インゴルフか……」


 ディートハルトがその者と思しき名を呟くと、相手は兜を脱いだ。

 歳は30代前半、長身で黒髪の男性。


(さっきの悲鳴は? 姫の声によく似ていたが……)


 ディートハルトはアグネスによく似た悲鳴を聞き、気が気ではなく知人との再開はどうでもよかった。


……――……――……――……――……――……――……


「エンケルス騎士団……?」


 カミルは禍々しいオーラを放つ漆黒の軍勢に圧倒されていた。

 アグネスの悲鳴を聞き駆けつけたその先にいた者達。

 数は20騎程であり、少数ではあったが、見ているだけで体が竦む。

 野球で対決した者達や、宮殿で出会う者達とは何処か雰囲気が違う。


(クリセにいるエンケルス騎士団か?

 ハルトヴィヒ様のイメージが強烈すぎてすっかり忘れていたが。

 これが……暗黒騎兵と恐れられた……)


 アグネスは漆黒に染まった騎兵達をみて悲鳴を上げたのだ。


「カ、カミル!」


 暗黒騎兵に保護されていたアグネスは知った顔であるカミルを見つけると、よっぽど怖かったのか半泣きになりながら駆け寄ってくる。


「姫様! 御無事で!」


「全く! お主ら何処に行っていたのじゃ!

 余を置いてけぼりにしおって!」


 意地をはっているのか、自分が抜けだしたのではなく周りがいなくなったように主張するアグネス。


「申し訳ございません」


「姫! ご無事でしたか」


 ディートハルトが駆けつけてきた。


「遅いぞ!」


「申し訳ございません」


 ディートハルトは何が遅いのかさっぱりわからなかったが、無事がわかればどうでもよく頭を下げる。


「む!」


 アグネスは、ディートハルトの後ろに黒馬に跨った、黒髪の男がいる事に気づく。


「何じゃお主は?」


 男は馬から降りると、アグネスの前に膝をついた。


「お初にお目にかかります。

 わたくし、エンケルス騎士団副団長補佐をしておりますインゴルフ・エンケルスと申します」


「エンケルスじゃと?」


「姫、クリセにいる私の再従兄弟(はとこ)です」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ