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LostTechnology ~幼帝と保護者の騎士~  作者: CB-SXF6
本編(建国38年~建国47年)
54/76

極秘任務 三

 宿の一室。


「皇帝陛下はそもそもどうやって、リザードマンを捕獲したんだ?

 生け捕りなんてそうそうできる事じゃないぞ?」


 ディートハルトは、この任務の事を聞かされた時からの疑問を口にした。

 情報によると、帝国が捕えたリザードマンの数は全部で78体にも及ぶ。

 実験により死亡した数、21体。

 ディートハルトが決闘で倒した数、1体。

 脱走した数、24体、内4体を討伐。

 残りは、今回の件を受けて全て薬殺となった。

 しかし、それだけのリザードマンを一度ではないにしろどうやって捕えたのか?


「俺の様な末端の局員には、情報はあまり降りてこないが、おそらく帝魔大のトップエリート達を使ったんだろう。

 何せ、この国の魔道学や魔道技術は大陸トップだろうからな。

 帝魔大にはCマスターがゴロゴロいるしBマスターもちらほらいる。

 ハルトヴィヒ閣下もAマスターだったよな」


 BマスターやAマスターとは魔法使いのランクを表わす言葉である。

 魔道師でなくても、魔法を使える者はいるため、こう称される。

 魔法は、その規模や威力によってランク分けされており、E~Sまである。

 そのランクの魔法が使えるものを『E~S』マスターと呼ぶ、ちなみにハルトヴィヒはAマスターの闇術使いであり、ルードルフはBマスターの火術使いであった。

 一般に、並の人間が一生懸命に努力して覚えられる魔法はC魔法までとされ、並の人間が覚えた例が無いわけではないが、基本的にB魔法以降は生まれ持った才能の世界とされ、Aマスターは正に天才の証といえる。

 ハルトヴィヒは騎兵としても一流であるが、魔道師としても一流であったのだ。


「親父の話はするな……」


 ディートハルトの表情が暗くなる。

 幼少の頃、ハルトヴィヒに闇術を教えられたが、習得できたのはE魔法止まりであった。

 国を支えるべく、政治や経済などについても色々と教えてきたが、その殆どを理解できず、ディートハルトはやさぐれていった。

 そんな時、喧嘩に明け暮れるディートハルトを叱り、

『真っ直ぐ誠実に生きていれば、必ず欠点を補ってくれる者が現れる。

 成績は気にしなくていい。だから人を傷つけるな!』と諭したのがヴェルナーである。


「じゃあ、話を変えよう。

 興味があるか知らんが、帝魔大というか帝国には、Sマスターも一人いるって話だ。

 噂の域を出ないけどね」


「Sマスターが?」


 Aマスターを超えるSマスター。

 もはや破壊兵器として扱われるレベルであり、軍事利用されるのが目に見えているため、Sマスターを自称する者はいないし、国も極秘で扱うためいたとしても表には出てこない。

 ちなみに、S魔法を超える魔法を極大呪法と呼び、それを使える者をアーチマスター(Arch Master)と称する。

 ここまでくると、実在するのかが疑わしいレベルであり、その扱いは伝説の類である。


「そのトップエリート達に罠でも張らせて捕獲したんじゃないかと俺は見ている。

 魔法のみならず博識な奴が多いからな」


「魔道師か……

 なら、今回の討伐にはそいつらを使えばいいじゃないか?」


「街中で火術はまずいだろ。火災になったら大惨事だぞ?

 相手がリザードマンとなれば、住民がパニックを起す可能性もある。

 下水の様な密閉された空間で火を使用するのも色々と危険がつきまとうし、火術師以外の、術師は数が少ないから失いたくないんだろ」


 魔道師は高威力の破壊魔法を使えるが、リザードマンに接近されたら一瞬で命を落とすだろう。

 下水の様な場所では何が起こるかわからない。


「要するに、俺達は消耗品か、挙句に姫まで巻き込みやがって……」


「まあ、そうだな。

 だが、この国では……」


「皇帝が正義だって言いたいんだろ?」


「まあな。

 そりゃ子供の頃は不敬罪上等だったけど……」


「ふうっ……」

(今回の件は、あのじじーの事だから、研究施設や物的証拠は全て消されているだろう。

 俺が証言したくらいじゃ、どうにもならん。

 だが……リザードマンを生け捕りにできれば? 動かぬ証拠となる?

 いや駄目だ。今日だって負傷者が出たのに、生け捕りにする様な真似をすれば死人が出る)


 ディートハルトが葛藤していると、部屋の扉がノックされた。


「ディートハルト~!

 今、部屋でコレットとユリアーネとハンスとカミルでトランプをしているのじゃ!

 お主も参加する様に! これは命令じゃ!」


(何処の修学旅行だ!)

「姫! 今は大事な作戦を練っておりまして、その様な事をしている暇はございません」


「姫様! 只今作戦会議が終了しました。

 ディートハルト殿がそちらに向かいます」


 ディートハルトの言葉を遮ってクルトがアグネスに会議終了を伝える。


「うむっ! 待っておるからな」


「おい!」


「『レディー』は待たすもんじゃないぞ。ホラ行けよ!」


 ディートハルトは部屋から閉め出された。



……――……――……――……――……――……――……


 アグネスの一室。

 今日の任務で負傷したハンスも大事に至る事はなく、ゲームに参加していた。

 傷が完全に癒えるまでは後方支援的な任務に回される。


「ふっふっふっ……きおったな」


 不敵に笑うアグネス。

 円を組んでババヌキでもしているのかと思われたが、どうやら一対一のゲームを代わり番子にしていたようである。


「全く……

 この『ごくひにんむ』は遊びじゃないですよ?」


「たまには息抜きも大切であろう?」


「まだ初日ですが?」


「口の減らん奴じゃ、まあよい。

 相手を致せ!」


 ディートハルトはテーブルまで行き、アグネスと向かい合って座った。


「それで一体何を?」


 トランプでできるゲームは沢山ある。

 集団で遊ぶなら、ポーカーやババヌキ、大貧民などが無難な選択ではある。


「『スピード』じゃ!」


 ディートハルトの眉がピクッと動いた。

『スピード』はトランプゲームの中でも、文字通りスピードが問われる遊戯である。

 ディートハルトからすれば、アグネスに手の速さで遅れを取るつもりは全くない。

 アグネスの余裕に満ちた態度は、ディートハルトのプライドを刺激した。


「姫! 誰と戦うのかわかってゲームを決めておられますか?」


「無論じゃ!」


「舐められたものですね」


「赤と黒、どっちじゃ?」


 スピードはカードを赤と黒の2組みに分けて競うゲームである。

 アグネスは2組に分けられたカード、ディートハルトに見せる。


「では、黒で」


 アグネスは黒に分けられた手札をディートハルトに渡した。


「勝負!」


 二人は手札を4枚並べ。


「いっせーの……」


 掛け声と共にゲームがスタートした。

 スピードというか即座に状況を見極める力は圧倒的にディートハルト有利であったが、カードが思う様に続かない、逆にアグネスの方は連番になっている。


(ん? おかしい……)


 ディートハルトが不信を裏付けるかの様にカミルが冷笑している。


(はっ!? しまった!

 シャッフルするのを忘れた)


 黒を渡された時に、直ぐにゲームを始められ、特に疑問に思う事なく手札を並べた事を思い出す。

 黒のカードは、ディートハルトが不利になるよう順番を細工されており、赤のカードはアグネスが有利になる様、連番になるようカードを仕組んでいた。

 ディートハルトが体制を立て直す間もなく、アグネスはカードを捨てていきアグネスの勝利が確定する。


「余の勝ちじゃあ~!」


 アグネスは席を立って、部屋内をはしゃぎまわり、姫の勝利をスタンディングオベーションで讃えるカミル。


「いやはや見事な勝利でありましたな姫様!」


「これが、余の実力というものじゃ!」


「姫! もう一度勝負を」


 当然、今度は念入りにカードを切るつもりである。

 仕組まれ明らかに不利な状況で勝負させらている以上、条件が同じなら勝てる自信がある。


「……しかし、姫様。

 余りにもご無体です」


 ディートハルトの言葉を無視というか遮る様にして喋り出すカミル。


「ご無体? 何がじゃ?」


 それに対し、わざとらしく言葉を返すアグネス。

 大方事前に打ち合わせがされているのだろう。


「スピードでは、リーダーと姫様の二人だけの勝負になってしまい私達は蚊帳の外。

 こういう場なのですから、皆で楽しめるゲームにしなくてはなりませんぞ?」


「そうであったか~! 余もまだまだじゃのう。

 カミルよ何か皆で楽しめる良いゲームはないか?」


「はっ! ポーカーなどいかがでしょう?」


「うむっ! ではポーカーにする」


 その場にいる全員が円卓に座り、再戦はない事にされ、ディートハルトは面白くなかった。

 カミルがディートハルトの顔をチラっと見ると鼻で笑う。


(コイツ!)


(フフッ……

 リーダー、勝負に勝つ策だけではなく、その後、逃げ切るまでの策を献策するのが軍師の役目)


 また、ディートハルトがカードを切ってきた場合は普通に勝負させるつもりであったし、赤を選べば勝負の前に互いのカードをシャッフルさせるつもりでいた。

 失敗しても、ハメようとしていた事に気づかれない、せこい策である。

 ポーカーが始まるが、皆アグネスの表情を見て、アグネスになるだけ勝たせる様に配慮する。

 コレットはディーラーを担当してゲームには参加せず、ディートハルトだけは必死に勝とうとしていた。

 アグネスの一人勝ちが続く……


(まるで接待だな……待てよ!?)

「姫! 折角ポーカーをしているんです。

 この際だから何か賭けませんか?」


 ディートハルトの口元がニヤリと笑う。


「ほほう! 余と賭けをしたいと申すか……

 別に構わんぞ、余に勝つ事ができたら余の権力で叶えられる望みであれば、それを叶えてやろう」


「いえいえ、漠然としたものとなると、色々と面倒が発生します。

 ここは、普通にお金としましょう」


「む~? 余は構わんが……

 余は基本的に金を持ち歩かん」


「投げ銭があるではございませんか」


「む? そういえばあれも硬貨じゃったのう」


 アグネスは自分の所持する金貨の価値をわかっていなかったが、あの投げ銭は、貴族など、特別階級の者達だけが使用する事を許された希少硬貨である。

 一応帝国民にとってはライナルトの肖像が刻まれた大変ありがたい金貨であり、その価値は通常の金貨の十倍、実世界でいうと10万円程の価値がある。

 アグネスは何かしらの工具を使って穴を開けてはいるが換金は可能だろう。


「余は構わんぞ?」


 その言葉を聞いてその場にいる全員が青ざめた。

 ディートハルトは一枚10万円のチップで勝負をしようと持ちかけそれをアグネスがOKしたからである。

 この場にいる全員が高給取りといっても過言ではなく、大損しても払えない事はないだろうが懐に大ダメージを受けるのは間違いない。

 流石にこの額で勝負するとなるとアグネスに勝たせるという接待ポーカーをやるわけにもいかなくなってくる。


「決まりですね」

(お前達は集団で俺をハメるという愚行を犯した。

 金を巻き上げられ、ゲドゲドの泣きっ面にしてやらなきゃあ俺の気がおさまらん)


 破産覚悟で、他の連中も道連れにするディートハルトの玉砕戦法であった。

 アグネス以外の全員の表情が強張った状態でゲームは再開した。

 接待ポーカーをするわけにもいかなくなったが、かといって大々的に勝つ訳にもいかず。

 勝負を降りてばかりのチマチマした戦いが続く。

 ディートハルトはそんななか、冷静に良いカードが揃うのを待っていた。


(『3』と『4』と『6』か……)

「二枚チェンジだ」


 チェンジしたカードは『2』と『5』であり、ストレートが完成する。


(遂にきた!)


 思わず『ポーカーフェイスという言葉を知らないのか?』と問い正したくなるくらい、表情が凶悪なモノへと変貌するディートハルト。


「よし! 残ったチップを全て賭ける」


 チップを全てテーブルに置くディートハルト。


「降ります」


「同じく」


「わ…私も……」


 カミル、ハンス、ユリアーネは早々に勝負を降りてしまう。


「む~?」


 降りてしまったメンバー、ディートハルトの余裕をふまえ、自身の手札を見ながら考え込むアグネス。


「姫……

 まさか、次期皇帝である姫君が勝負を逃げる様な真似はしませんよね?」


 ディートハルトはアグネスが勝負を降りない様、挑発する。


「むむ?

 それは余を挑発しておるのか?

 お主の言う通りじゃ! 余は誇り高き次期皇帝! 余に後退はない!

 よかろう、勝負じゃ!」


 言葉を受け、勝負を受諾する。


(姫! ボーナスをありがたく頂戴させていただきますからね~!)


 ディートハルトが手札を見せるよりも速く、アグネスがテーブルにカードを公開した。


「アグネスフラーッシュ!!」


(バ…バカなぁ~~~!!)


 ディートハルトは心の中でけたたましい断末魔を上げた。


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