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LostTechnology ~幼帝と保護者の騎士~  作者: CB-SXF6
本編(建国38年~建国47年)
52/76

極秘任務

 王都オルキュギアのとある市街の路地裏。

 副宰相ホラーツは情報局や警護団(実世界でいう警察)を引きつれてある任務にあたっていた。


「ホラーツ様」


 下水道へと繋がるマンホールの蓋が開き情報局の人間が顔をだす。


「どうだ?」


「それが……全滅です」


 マンホールから上半身だけを出している情報局員の声は震えている。


「警護団では、歯が立ちません。

 エンケルス騎士団を投入すべきです」


「ぬうう……」


 ホラーツの表情は険しい。

 その時、情報局員の男は何かに足を掴まれでもしたのか、マンホールに引きずり込まれる。


「うわああ! ホ…ホラーツさ……」


 情報局員はまるで奈落の底に落ちるかの様にマンホールの闇へと消えていった。

 闇の奥から、断末魔が聞こえてくる。

 その後、耳障りな咀嚼音も聞こえてきた。


「ホ…ホラーツ様……」


 隣にいる警護団の男が声をかけるが返事はない。


(くそっ……まさかこの様な事態に……どうすれば?)


……――……――……――……――……――……――……


 三者授業が皇帝の体調不良で中止になってから一週間後。

 再開される事はなく、平穏な日常を取り戻していたディートハルトであったが、再び皇帝に玉座の間へと呼び出されていた。


(単独で呼び出しか……

 また、あの死闘をやれとでもいうのか?)


 リザードマンとの死闘を命じられた時の事を思い出す。


「本日呼んだのはな、お主に頼みたい事があって呼んだのじゃ」


(頼みたい事?)


 珍しく皇帝は、腰が低いと言うか、妙に馴れ馴れしい。


「頼みごとですか? 一体何を?」


「その前に、この前の三者授業であるが、お前を見直したところがある」


(見直したところ? 一体何を企んでいる?)


「お前があれほど帝皇論を熟読し、学んでいたとは、著者冥利に尽きる思いじゃった」


(あ~、あの事か……)


 皇帝はうんうんと頷きながら笑顔になる。

 ディートハルトはその作り笑顔が気色悪くてしょうがなかった。

 3回目の三者授業の後、次回からは帝国の聖書であり、教科書である帝国皇帝論を持参してくるようにお達しを受ける。

 ディートハルトはその日の任務を終えると、イザークの部屋へ急直行した。

 イザークから帝国皇帝論を借りるために。


「お前の事じゃから、てっきりワシの肖像画の書かれたページに落書きをしたりしているのではないかと思ったが……」


 幼少の頃、典型的なクソガキであったディートハルトは、ライナルトの予想通り、帝皇論を盛大に冒涜している。

 肖像画に落書きはおろか、目のところに折り目をつけて、斜めからみて観賞する事も行っており、通報されれば不敬罪で処罰されても文句は言えない。

 その事を思い出したディートハルトは几帳面なイザークの本書を借りることを思いついたのだ。


「その様な事をする筈がないではありませんか」

(あぶねー、やはり疑っていたか……)


「まさか、あそこまで几帳面に赤線を引いているとは思ってもいなかったぞ?」


 帝国皇帝論は、現在は廃止になっているものの、帝国魔術大学の入試に使用されていた。

 イザークは合格するために、重要と思ったところには赤線を引き、赤、橙、青の3色でマーキング、それ以外にも、より理解できるよう、四角で囲んだり、ページに折り目をつけて付箋にしたり、様々なカスタイズを行っていたのだ。

 言うまでもないが、肖像画のページに落書きをするような不埒な行為は一切していない。


「当然ですよ」


「それでじゃな……

 そんな愛国心の高いディートハルトに、極秘任務を与えようかと思っている。

 誇りに思ってよいぞ?」


(……なるほど。

 まずは煽ててって奴か……)

「極秘任務ですか?」


「要するに、ここだけの話にして、決してヴェルナーやハルトヴィヒに口外してはならん」


(そういう事ね……)

「まずは、詳細をお聞かせください」


「その前に」


 語尾を強めるライナルト。


「わかりました。

 皇太子様や父には決してこの事は口外しません」


「誰に誓う?」


(うぜえ……)

「私の主であるアグネス姫に誓って!」


「ふん、まあよい。

 この前の決闘でリザードマンと戦ったであろう?」


「はい、それが?」


「実はな……

 あれは、実験用に捕えてきた一匹に過ぎぬ」


「そうでしたか」

(まあ、想像はつくがな。

 今度は、3体纏めて戦えとか言い出す気かこのじじーは?)


「3日前の事であるが、実験用に捕えておったリザードマンが檻を破って逃げてしまったのじゃ。

 今も王都に潜伏しておる」


「は?」

(なにいってんだ? このじじー)


「だから、獰猛なリザードマンが、王都へ放たれ、民衆を食べておるのじゃ。

 それを討伐して欲しい」


(ちょっとまて? 大問題だぞ?)

「何故私が?」


「お前しかおらん」


「陛下お抱えの近衛騎士団がおりますよね?

 それにそういうのは情報局とか警護団の役目では?」


「お前はあいつらにリザードマンを討伐できると思うか?」


 形骸化した近衛騎士団の連中など、リザードマンにとっては餌でしかないだろう。


「……ちなみに、何体ですか?」


「……24体」


(多いな!)

「しかし、それだけの数だと、流石に騒ぎが大きくなるのでは?」


「リザードマンは知能が人より低いと言っても、獣ではない。

 あいつらは下水に身を隠し、夜になると人を襲うようだ」


(あの迷路の様な下水道に潜んでいるのか? 24体も?)

「なら、エンケルス騎士団を使えばよろしいでしょう。

 武闘派も揃っておりますし。

 父を筆頭に、私よりも強い者もちらほらいると思いますよ?」


「……エンケルス騎士団は駄目だ」


 皇帝は俯いて答えた。

 その皇帝の追い詰められた態度から、ディートハルトは何となくだが察しがついた。

 エンケルス騎士団は、騎士団長のハルトヴィヒを始め皇太子派なのである。


(どうやら皇太子様に、この件が漏れるのを恐れているようだな……

 まあ、異種族の人体実験なんて、皇太子派が認めるわけないし、秘密裏に実験した事が公になれば、色々と都合が悪いということだろう……

 リザードマンとはいえ、人体実験など、倫理的にも安全面でも問題あるからな。

 現にこうして国民の安全を脅かす事態になっているし)


 リザードマンの実験を知っている者は皇帝派でもごく一部の者達に限られる。

 つまり、この事を知らされていなかった者達が此度の事態をしれば、皇帝の不信に繋がり、皇太子派へ転じてしまうかもしれない。

 現在、派閥は拮抗しており下手に反転されると、皇室の過半数が皇太子派となってしまい、その結果、評議で退位を迫られるかもしれない。

 ライナルトとしては何としても秘密裏に処理したい案件であるが、手駒がいないという事態に陥っていた。


「この前、ホラーツに組織させた討伐隊は全滅した。

 お前しかおらんのだ」


 苦々しく呟く、藁にもすがる思いでディートハルトに頼んでいるのだろう。


「そう言われましても……」


「決闘で戦ったリザードマンはなるべく大きくて強そうな個体を選び、当然、武器も渡していないから。

 あの時の個体よりは遥かに弱い筈じゃ」


(なるべく強い個体を選んだって……

 やはり俺を殺すつもりの決闘だったのか)

「いくら一体一体が弱くとも数が違いますよね?」


「わしの近衛騎士団を一時的にお主の支配下に置き、自由に使ってくれて構わん。

 情報局も自由に使え」


「情報局はともかく、近衛騎士団なんか足で纏いにしかなりませんよ。

 パンとか買いに行かせるくらいしか使い道がありませんよね?

 でも私はそういう趣味はないので結構です」


「褒美なら幾らでも出す!」


 ディートハルトは沸々と怒りが沸いてくる。


「陛下、自分のケツは自分で拭いてください。

 私は貴方の介護師ではございません」


「貴様!」


「姫に誓ったので、皇太子様や父には約束通り、黙っていましょう。

 それではこれで失礼します」

(退位も近いな! これはめでたい)


「民衆がどうなってもいいというのか!」


 ライナルトは怒鳴り声を上げるが、ディートハルトは動じない。


「エンケルス騎士団に依頼してください。

 彼らより適任はおりません。私はエンケルス騎士団の末席でもございますから。

 上官の命が下ればその任務は遂行しましょう」


 ディートハルトは一礼すると玉座を後にした。


……――……――……――……――……――……――……


 翌日。

 ディートハルトは朝の4時から朝の11時までの任務を終えると、昼の12時に眠りにつく。

 本日は、夜の9時から朝の4時までの護衛の任務もある日であり、夜7~8時までは寝ておきたいところだが、昼の3時になると部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。


「ディートハルト~!」


 アグネスは部屋の扉を両手を使って交互に叩く。

 その叩きぶりからして、テンションがかなり高いのが窺えた。


(……何か既視感を感じる)


 頭痛を抑えながら、部屋の扉をあける。

 案の定、上機嫌のアグネスがそこにいた。

 アグネスは部屋に入ると、護衛であるテオフィルとフロレンツを部屋の外で待機するように言い渡す。


「ディートハルト! 実は重要な話があるのじゃ!」


「……はあ。とりあえず、こちらにおかけください」


 ディートハルトは眠い目をこすりながら椅子を用意する。


「今日はなんと爺上から『ごくひにんむ』を仰せつかったのじゃ!」


(ごくひにんむ? まさか!?)


「余は見事この大役をこなしてみせるのじゃ!

 ディートハルト、そなたの働き、期待しておるからな!」


(あのじじー……)


 アグネスは笑顔全開に言い放った。

 ライナルトは、上官の命があれば任務を行うといったディートハルトの言葉を逆手にとり、ディートハルトの主であるアグネスに任務を与えたのだった。


『ワシのかわいいアグネスよ。

 今日は、お前に『極秘任務』を与えようかと思っておる』


『ご…ごくひにんむじゃと~!

 爺上は一体、余に何をさせる気なのじゃ~!』


 アグネスは極秘任務という言葉に目を輝かせた。


『ちょっと街を騒がしているというか、民衆を苦しめている事件を解決してほしいのじゃよ。

 勿論、プリンセスガードを自由に使って良い。

 どうじゃ? 引き受けてくれるかな?

 勿論、極秘任務じゃから、ヴェルナーやハルトヴィヒに口外しては駄目じゃぞ~?』


 事件という言葉に反応してしまうアグネス。

 愛読書である時代劇でも、殺人事件などを解決する作品は多い。

 アグネスは『銭形平次』を思いだしていた。


『わかったのじゃ~!

 大船に乗った気でいるのじゃ!』


『ほっほっほ~! アグネスは頼もしいの~!』


『どこぞの騎士と違って……』


 ライナルトはぼそりと呟いた。


『それでは、アグネス。この書状をディートハルトの奴に見せるのじゃ。

 決して中を見てはならんぞ、横から覗き見るのも駄目。

 手紙とはそういうものじゃ! 約束じゃぞ?』


『わかったのじゃ!』


 アグネスは、ライナルトから渡された書状をディートハルトに渡す。

 書状には、アグネスの気分を害することなく、危険に会わせることなく、速やかに事件を解決するように書かれていた。


「…………」

(素直に引き受ければ良かった……)


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