あんけ~と
「ディ~トハルトォ~!!」
アグネスがディートハルトの居室の扉を声を荒げて叩く。
その騒々しさに、ディートハルトは目を覚まさずにはいられなかった。
(うるせ~な……)
眠い目を擦りながら、扉を開ける。
アグネスは、勢い良く部屋に入ってくる。
「それで……そのお怒りの理由を聞きましょうか?」
ディートハルトは椅子を用意すると、欠伸をしながら腰を掛けた。
その時、おかしな事に気づく、二人、プリンセスガードを連れている筈だが、その二人が入ってこないのだ。
「姫? フロレンツとハンスは部屋の外で待機なんですか?」
「うむ、部屋の外で待つようにいっておる」
「何でまた?」
「話があるのは余の方じゃ! 侍女達に、『あんけ~と』という奴に協力して貰ったのじゃ!」
アグネスの手には紙の束が握られており、その紙が怒りの原因だろう。
「はあ……『アンケート』ですか……
それが、どうしたのですか?」
アグネスはディートハルトの興味のなさそうな態度に遂にブチ切れる。
「それがどうしたのではないわ~!
お主、下から三番目ではないかぁ~~!」
テーブルに紙の束を叩きつけ、絶叫するアグネス。
流石のディートハルトも下から三番目という言葉には引っかかるものがあった。
「姫、一体何のアンケートをお取りになったのですか? 誰を対象に?」
「そんなもの、侍女達にプリンセスガードの印象について『あんけ~と』を取ったに決まっているではないか!
誰が一番の好印象なのかをな!」
(決まっているとか言われても……)
「拝見しても?」
「勿論じゃ! それを見て己を反省せい!」
どうやらアグネスはディートハルトの成績が悪かった事に憤慨しているようである。
「ふむっ……」
ディートハルトは紙の束を手に取り目を通す。
紙は全部で8枚で、プリセスガード一人につき一枚でアンケート結果を纏めてある。
アンケートといっても、単純に好感度の点数と、印象について書かれているだけであった。
なお、点数の横に、順位も記載されている。
勿論侍女達の名前などは書かれていないので、誰が誰をどう思っているのかはわからない。
好感度の点数を合計し、順位をつけるとディートハルトは下から三番目という何とも言えない位置に君臨していたのであった。
自分の評価を読んで見る。
『姫様に意地悪しすぎ!』
『子供じみてる』
『いい人とは思う』
『姫様に気に入られているからといって調子に乗りすぎ』
『悪ふざけに、変なこだわりがある』
『子供っぽいところは確かにあるけど、なんだかんだで頼れる』
『プリンセスガードのリーダーがディートハルト様で本当によかったと思っています』
主に子供っぽいとの事が書かれていた。
(う~む……
こうして書かれると流石に凹むな……
褒めてくれるのはコレットさんかな?)
否定的な言葉だけではないので、好意的なものだけを考えるようし、自分の中で落とし所をつける。
気になったので部下の評価にも目を通す。
(最下位は……
ルッツか……)
『気がついたら傍に立っていて怖かった』
『不気味!』
『何を考えているわからない』
『喋っているところを見たことがない』
『本当は優しい人だとわかっています』
(不気味がられているのかアイツは……
アレじゃ仕方の無い話かもしれんが……
下から二番目は……ハンスか、まあ察しはつくが……)
『わざとらしい気遣いがうざい』
『何かにつけて、食事に誘おうとするのがちょっと』
『ノーコメント、ここには書けません』
『髪型がぶっちゃけダサイ』
(ノーコメはコレットさんだな……
アイツは、行動すればするほど、女性が去っていくタイプか……)
唐突にディートハルトは首位が気になってきた。
(一位は……
見たくない見たくはないが……おそらく……)
途中を飛ばし、一位の紙を取り出す。
そこに書かれていた人物は、予想通りカミルだった。
(やっぱりー!
クソッ! 何故あいつが……あいつだって俺と同じくらい……
いや、俺よりも性格が悪いはずのに……)
ディートハルトは悔しさを噛み締めながら、評価コメントに目を送る。
『さりげない気遣いが素敵!』
『いつも、労る言葉をかけてくれる』
『さわやか!』
『カッコいいけど、かわいさもある』
『要領がいい』
(う~む……
これがイケメンという奴なのだろうか?
アイツは俺に意地悪ばかりしてくるんだがな……
2位は……マジか……)
2位はローラントだった。
唯一年配の騎士でこの結果は意外だった。
『頼りがいがありそう!』
『紳士』
『結婚したい!』
『ナイスミドル!』
『背中を見ていると安心できる』
(クソッ! 書かれている事に異論はないが……
そういや、イザークは……)
『頼りない』
『気が弱そう』
『真面目なのはわかるけど』
『頭が良いとは思うけど、どこか固い』
『有事の際、本当に大丈夫って思ってしまう』
(5位か……
書かれている事には同情するが、俺よりも順位が上というのが生意気だな……)
テオフィルやフロレンツの二人は、『特筆すべきところはない』とか、『普通』といった可もなく不可もなくといった評価だった。
「いや~、耳の痛い言葉ですな……」
「『耳が痛い』ですむかバカモノ~! そう思うなら改善せんか~!」
アグネス的には、ディートハルトに一位を取ってほしかったわけだが、まさかの下位だったのが気に入らない。
「しかし、姫! 人が私をどう思おうとそれは自由というか、致し方のない事では?」
「む~!」
「まあ、姫が良い結果を期待していたという事だけは、ありがたく受け取っておきます」
「お主に期待などしとらんわ~!」