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LostTechnology ~幼帝と保護者の騎士~  作者: CB-SXF6
本編(建国38年~建国47年)
36/76

三者授業 ニ

■世界地図

挿絵(By みてみん)


(戦争? どんな科目だソレ!)


 ディートハルトの軽蔑的な思惑とは裏腹にアグネスはワクワクしている。

 日頃から、世界に覇を唱えると豪語しているだけあって、戦にロマンを感じているのだろう。

 ライナルトは、世界地図を卓に広げた。


「アグネスよ。まずはおさらいじゃ。

 中原というか我が国が何処にあるかはわかるかな?」


「当然じゃ!」


 アグネスは得意げに王都のある中原を指差す。


「正解じゃ! では、よく一般には『中原を制する者が世界を制する』と言われておるのじゃが。

 これが何故だかわかるかの?」


「む~?」


 考え込むアグネスを見て、ライナルトはディートハルトの方へ目をやった。

 お前は答えられるか? の意であるのは明白。


「え~、それは中原が最も土地が肥えており豊かだからですね」


「何故、土地が肥えておると世界を制することができるのじゃ?」


「土地が肥えている……つまり、収穫量が大きければ、それだけ動員できる兵も多くなります。

 戦争の法則というか、戦いの法則といいますか。

 兵力が多ければ多いほど、犠牲は少なくなっていきます。

 勿論、現実はそう単純じゃありませんが。

 大雑把に言えば、大軍を動員して一気にケリをつけるのが、犠牲を最小限にでき、こちらの兵を減らすことなく相手を駆逐できます」


「なるほどのう」


 アグネスは感心したように頷いている。


「さらに、帝国領はワシが築いた長城で守られておる。

 この長城により、守備に残しておく兵を最小限にできるのじゃ」


 帝国領は、もっとも他国に囲まれているといってもよく、いくら土地が肥えているといっても、全兵力を一箇所に集中できるわけではない。

 しかし、長年かけて築かれた長城によって、例え本軍が遠征中であっても、その隙をついて攻めるというのは難しいものがあった。

 

「おおっ! 流石爺上じゃ~! 後方の憂いはないということじゃな!」


「ほっほっほ~~!」


 アグネスが目を輝かせ、ライナルトも凄く嬉しそうしているが、ディートハルト的には素直に喜べない。

 戦争とは悲惨なもの。


「ですが」


「「む?」」


「スキアパレリ大陸が、城や砦が一切無く、平地や草原が無限に広がる地であれば、確かに我が国の騎兵隊で全てを駆逐できるでしょう。

 しかし、現実は地の利や得て不得手がつきものです。

 兵や経済力だけで勝てるとは限りません」


「では、次に何処を攻めるかじゃ、アグネスは我が国の周りにはどんな国があるかわかるかな?」


 ライナルトは、ディートハルトの突込みを華麗にスルーした。


「当然じゃ!

 北に空白の地セラニウストロスの荒野があるが、ここには特に人は住んでいないから無視しても問題ない土地じゃ。

 北東にはゼフィリア半島、ここは中原から離れておるし無人の地だから同じく無視してよい土地。

 東に魔族の住む地である、魔大陸ディオスクリア。

 南東に、世界最大の島であるパボニス島、確かカエル族のググ王国という国家がある筈じゃ。

 南に、大森林アウソニア、エルフ族の住む地でアルフヘイムといったかの。

 西に、世界最大の山地アルシア、ドワーフ族の支配地でアポイタカラ。

 北西に、ヘラスを支配するクーニッツ騎士団。

 こんなところかの」


「その通りじゃ、ではアグネスよ。さらに突っ込んだ質問をしよう。

 アグネスじゃったら。まず何処を攻めるのじゃ?

 難しく考えないでよい、こういうのはインスピレーションが大事なんじゃ」


(インスピレーションが大事!?)


「む~……」


 アグネスは世界地図を睨みながら考え込む。


「ここじゃ!」


 アグネスは、世界地図を指差した。


(そこは、一番最後だろ!)


 思わず声に出して突っ込みたくなるが、皇帝の手前、喉元に止める。

 アグネスが指差した場所は、魔大陸ディオスクリアであった。


「ほう? 何故、そこを攻めるのじゃ?」


 ライナルトは、頭ごなしに否定はせず、まずアグネスの考えを聞きだそうとする。


「余は、大昔に魔大陸を攻めたという騎士団連合よりも強い存在じゃ!(キリッ

 それにここを落とし、魔族や魔王よりも強いとなれば、後は何もしないでも余の強さの前に平伏するであろう」


「流石じゃの~アグネスは……

 お前は、どう考えておるのじゃ? 自分の思う事を正直に言え」


 笑顔だった表情が一転し、まるで脅す様に問いかける。

 ディートハルトを試しているのが伺えた。


「え~では僭越ながら、自身の見解を述べさせていただきます。

 まず、いきなりディオスクリアを攻めるのは無謀すぎます」


 アグネスが何か言おうとしたが、ライナルトが手で制した。


「魔族と戦争になれば、最初の戦場になるのはおそらくアキダリア海、魔族は翼を持った種族。

 我が軍の主力は騎兵であり、我が国の水軍は悲しい事に貧弱であるため、海で戦うのは圧倒的に不利といえるでしょう。

 それに、最初に国力と兵力の話がでましたが。

 魔大陸ディオスクリアの情報が少なすぎて、実際、相手にどれ程の国力があるかは未知数です。

 つまり、もし中原と同程度の国力を有していた場合。大軍の恩恵が受けられません」


「む~!」


 アグネスは面白くなさそうに頬を膨らませる。


「続けよ!」


「はっ!

 次に、パボニス島ですが、こちらも色々と未知数です。

 カエル族は少数種族で、パボニス島は未開の土地も多く、国力は我が国が勝っておりますが。

 カエル族の使う音術はまだ知られていない部分が多く、今戦うのは悪手でしょう。

 それに、やはり水上で戦う事を得意としている種族のため、上陸前に叩いてくる事が予想されます。

 なんといっても、我が国は水軍が貧弱ですからな~。

 水上戦を得意とする敵に未知の魔法、本来の力の半分も出せずに撤退すると予測できます」


「次」


「南のアウソニアですが……

 正直申し上げて、森林のエルフ、山地のドワーフ、ついでに湿原のリザードマンを相手取るのは自殺行為です。

 兵がいくらあっても足りません」


「む~! エルフは帝国が押しておったではないか。

 リザードマンに横槍を受けて仕方なく撤退したと聞いておる」


「アウソニアのエルフ達がその後、何の帝国対策もしていないと考えられますか?

 敵国というものは死に物狂いで学習してきます。

 同じ手は二度と通じないと見るべきです。

 勿論、森林に火を放ってエルフのアドバンテージを奪えば、勝つこと自体はできましょうが。

 はたして、焼けた森となったアウソニアに侵略価値がありますかね?」


「では、ヘラスか?」


「え~、早いモン勝ちと申しましょうか。

 まだ、地方自治体が割拠していた頃のヘラスならともかく、既に、我が国最強の騎士団が制圧後、独立して国を創っております。

 我が国最強だった騎士団であれば、我が国では勝てないのが道理。

 まあ、互いに水軍は貧弱でしょうから、チュレニー海で泥試合になること請け合いで、漁夫の利を狙うエレクトリスの海賊達においしいところを全てもっていかれるのがオチでしょう」


「それでは、何処にも攻めれないではないか~!」


 アグネスはディートハルトの見解を聞いて怒り出した。


「いえ! あります」


「む?」


「ここです」


 ディートハルトは、セラニウストロスの荒野を指差した。


「む? 荒野ではないか……」


「はい、ここに植林でもして、荒れた土地と戦うのが、何処の国にも迷惑がかからず得策かと」


 どう聞いてもふざけた進言をしているが、その表情は至って真面目。


「ふざけるでないわ~!」


「正直に見解を述べたまでです」


 真顔で答えるディートハルト。

 彼は、決してちゃかしているのではなく、本気で戦争反対を訴えていた。

 一方、アグネスは怒り出したが、ライナルトは笑っていた。


「ほっほっほっ……ディートハルトはなかなかユーモアのセンスがあるのう」


「わりと本気でいってますがね。

 何処を攻めても我が軍、しいては我が国家に多大な犠牲が出るのが道理。

 4文字でいえば『戦争反対』以上です」


「臆したかディートハルト! お主はそれでも余の騎士か~!」


「よいよいアグネスよ。

 一度も戦場に出た事のないゆとり騎士に勇気を求めるのは酷というものじゃ」


「ち…違うのじゃ爺上。

 ディートハルトは決して臆病な騎士なんかじゃないのじゃ」


 少し泣きが入ったように慌ててアグネスが弁明する。


「わかっておる」


 ライナルトは、あえて否定せずに優しく接する。


「お言葉ですが陛下!

 陛下の見解をお聞かせ願えませんか?」


 お前はどうなんだ? と言わんばかりの質問。

 ディートハルトは皇帝が少しでも稚拙な見解を言えば、徹底的に論破するつもりでいた。


「ディートハルト! 爺上に対しなんじゃその態度は!」


「よいよい……

 では、余の見解を述べよう」


 ライナルトは、ヘラス地方を指差した。


「まずはヘラスじゃ!

 他の地方に関していえば、お主と考えている事はそう変わらん」


(ヘラスか……

 確かに消去法で考えればヘラスにはなる。

 しかし……)


「お主が考えている事は『我が国の水軍は弱い』であろう?」


「ええ……まあ……」


 皇帝の口元が予想通りと言わんばかりに笑う。


「それに関しても見解は同じじゃ……」


「なら……」


「だがっ!」


 ディートハルトが何か言おうとした時、まだ話は終わっていないとばかりに語気を強める。


「水軍を強化する事ができるなら話は別であろう?」


「水軍を強化?」


「おおっ!」


 ディートハルトは半信半疑といった感じだが、アグネスはその目を輝かせた。


「口で言うのは簡単ですが、どういう強化をすると言うのでしょうか?」


「それはまだ言えん、国家機密じゃ!

 じゃが、それではお主は納得できまい? だからヒントは言おう。

 早い話、ロストテクノロジーを使う。

 この辺に関してはおいおい話していこう。まだ授業は始まったばかりじゃからな」


「流石、爺上じゃ~!!」


(ロストテクノロジーを使って水軍を強化?

 海戦を制してしまえば、後は兵力にモノを言わせてヘラスをとるという事か……)


 現在、この世界において水上の戦いは、船の燃やし合いになる事が多い。

 船は木で造られているため、基本的に火術、火矢、焙烙などでいかにして燃やすかが重要となる。

 ライナルトが所持するロストテクノロジーとは鉄甲船の造船技術であった。

 高い魔法抵抗力を持つ金属ミスリルを鉄板状にし、船体に貼る。

 そうする事で、燃やすどころかあらゆる魔法を弾く無敵の船ができ上がるというわけだ。

 クーニッツ騎士団は帝国から独立した勢力であるため、火術を主体としている。

 鉄甲船の導入でこれを無力化しようという狙いであった。


「……では、今日の授業はここまでにしておこう」


 まるで軍議の様な授業が終わった。


(なるほど……

 ライナルトさんは、自分が死んだ後、速やかに姫に軍事を進めさせたいわけだ。

 そして、俺にはその補佐をさせたいわけか……

 あの水軍強化の話がハッタリではなく皇室の過半数が支持する様な場合、いよいよ戦争が始まるのか)


 今日の授業のアグネスを見る限り、版図拡大を諦めさせるのは骨が折れるとディートハルトは思った。

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