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LostTechnology ~幼帝と保護者の騎士~  作者: CB-SXF6
本編(建国38年~建国47年)
33/76

死闘遊戯 四

 アグネスはチェックポイント『⑥』に到着していた。


「残すところ、後二つか~」


「ここって、エンケルス騎士団の詰所だよね……」

(……ってことは、次の番人はハルトヴィヒ様か……)


「たのもー!」


 アグネスが詰所の扉を開け、中に入るとそこには、全身を黒い鎧で身を包んだ暗黒の騎士がいた。


「ぎゃ~!」


 アグネスはダークナイトを目の当たりにし悲鳴を上げる。


(中にいるのは、ハルトヴィヒ閣下だろうな……

 あれが戦場で着ていた暗黒騎士団ともいわれた騎士達の鎧……

 誰もかれも、何でそんなにノリノリなんですか!)


「ふっふっふっ……よくぞここまで辿りついた。

 流石、皇帝の血を引く娘よ。だが、ここはここを通すわけにはいかん」


 暗黒騎士は悪役みたいな台詞をはき始める。

 アグネスは初見こそ怯えていたものの、闘志を取り戻し、暗黒騎士を睨みつけた。


「……現れよったな。邪悪な騎士めぇ~!

 イザーク! 余の代わりにあやつを成敗するのじゃ~!」


 闘志を取り戻したといっても自分で戦う気はさらさらなく、めんどくさいことはイザークに振ることにするアグネス。


「はい!? 私がですか?」


「お主は余の騎士であろうが! さっさと片付けるのじゃ!」


 当然といえば当然の命令ではあるが、宰相相手に剣を抜くわけにもいかず、困っているとダークナイトが先に動いた。


「第6問!」


 暗黒騎士はびしっと指を立てると、次なる問題を提示した。


……――……――……――……――……――……――……


 遂に大詰め、イザークとアグネスは最後のチェックポイント『⑦』に到着する。


(ここって……まさか……)


 イザークがあまり来る事はない部屋であるが、アグネスはここに来た事が何度もある。


「父上の部屋ではないか……」


(やっぱり!

 皇太子様に、今日の事を何かお願いするなら、決闘中止を訴えてくださいよリーダー!)


 アグネスはノックをせずに扉を開けて中に入った。


「ふっふっふっ……

 よく来たねアグネス」


(皇太子様までノリノリだ。

 おそらく、宰相閣下と皇太子殿下は、ディートハルト様の決闘を知らない……

 リーダーは、チェックポイントで時間を稼ぎ、その間に決闘を終わらせ部屋に戻るつもりだ)


「ち…父上……まさか父上までも……」


 実父の登場に臆しながら、一歩前に出る。


「では、第七問!」


 自国の皇太子自らが出題するという流れになり、思わず息を飲む二人。、


「イザーク君は濡れた下着に手を突っ込み、棒を触っている。

 さて、この棒とは一体なんでしょう?」


 イザークは問題を聞いて、あまりの衝撃的な内容に頭の中が真っ白となり、周りの全てがスローモーションになっているかのように見えた。


(え? ナニその問題?)


(実の父親が、実の娘に対して、そんな問題だしちゃっていいの?)


(ていうか、リーダーは自分の身も省みずにそんなしょうもない問題を皇太子様にお願いしたの?)


(皇太子様はそれを引き受けちゃったんだ)


(それで、その問題の人物がどうして僕なの?)


(誰か答えてよ……ねえ、誰か……)


 アグネスが問題の答えを言うため、手を挙げる。


(え? 姫様?)


(まさか、答えるの? 答えちゃうの?)


(いけない、一国の姫様が……)


(帝国の象徴である姫君が……)


(その答えを……)


(卑猥な事を言ってしまったら……品が失われる)


(姫様は上品であるべきでしょう?)


「答えは、洗濯物を干す竿……物干し竿じゃ!」


「正解!」


「え?」

(アレじゃなかったの?)


「はっ!?」


 イザークが我に返ると、ヴェルナーとカミルが何か言いたそうにイザークを見ている。


「……イザークさん。

 一体、どんな答えかと思っていたんですか?」


 笑いを堪えながら意地悪に問いただし、ヴェルナーは助け舟は出さないよと言わんばかりにあさっての方向を向いていた。

 種を明かせば、イザークが固まる中、カミルは考え込むアグネスに、そっと気づかれない様に答えを耳打ちしただけである。


(そうか、そういう事だったのか……

 第七チェックポイントでからかわれていたのは、姫様じゃなくて私のほうだった。

 全くあのリーダーは!)



……――……――……――……――……――……――……


 ディートハルトとリザードマンの決闘も大詰めを迎えていた。

 ディートハルトは後ろに大きく飛び退き、距離を取る。

 一方、リザードマンも追撃はせず、敢えて距離を取らせた。

 互いに次で決着を決めようというワケである。

 それを察したのか、闘技場の声援やらヤジが一瞬にして止み、そして、両者が対峙したまま、しばしの間、静寂が続いた。


(このリザードマンは何故俺との決闘を受けた?

 生存を第一に考えるなら、逃げた方がまだ可能性はある)


 リザードマンは知能が低いといっても、会話をはじめ人間と意思疎通はできる。

 おそらく、帝国から戦いの打診があり、それを承諾したからここにいる。

 戦う気のない者をむりやり闘技場に出したところで、戦いを放棄し、観客席に飛び込んで逃げ込めば目も当てられない。


(だが、このリザードマンは剣を握り、俺と戦う事を選んだ。

 おそらく、それは座して死を待つよりも、逃げて死ぬよりも、戦って死ぬ方がマシだから……)


 ディートハルトは拉致されたリザードマンを殺す事に迷いはなかった。

 ディートハルトが戦いを放棄したところで、薬殺されるのが運命だろう。

 ヴェルナーに泣きついてこの決闘自体をなかった事にしていたとしても、このリザードマンの運命は変わらない。


(決着をつけよう……

 互いに悔いのないように……)


 意を決した様にディートハルトが動き、それを受けリザードマンも前へでる。

 ディートハルトは両手で剣を持っていたが、左手を剣から離す、一方リザードマンは片手で持っていたツヴァイハンダーを両手で持つ。

 誰もが『勝負!』と思わず叫びたくなるような瞬間であり、両者がぶつかり合うと同時に、激しい金属音が鳴り響いた。


……――……――……――……――……――……――……


「ふぅ~~、まさか父上まで出てくるとはのう」


 第七問を無事クリアし、アグネス達は廊下に出ると早速、揃った7枚の紙切れを順番どおりに並べた。

『Y』『A』『S』『H』『I』『T』『I』


「なんですかね? この言葉は……」


 聞きなれない単語にイザークは首を傾げたが、アグネスはこの言葉に見覚えがあった。


「む~? まさか……いやしかしのう」


「姫様? 何か心あたりが?」


「いや~、『ヤシチ』の事かと思っての」」


「ああ、カザグルマの……

 確かに、夜ミツクニが唐突に目を覚まして『ヤシチ』か? 聞くのがお決まりのパターンでしたよね」


 『ヤシチ』とはアグネスの愛読書『水戸黄門』に登場するキャラクターの一人で、隠密行動を得意としている。

 天井裏などに潜み、情報を入手してくる何かと使えるキャラなのだ。


「ハッ!」


 唐突にアグネスが何かを思い出したように目を見開く。


「どうしました? 姫様」


「奴の狙いが分かった! 余の部屋へ行くのじゃ~!」


「は、はい」


 アグネスは、駆け足で自室へと戻った。


「あそこじゃ!」


 アグネスは部屋の隅の天井を指差す。


「はい?」


 いきなり天井を指差されてもイザークには何がなんだかわからない。


「ディートハルトの奴は、お主が配属されるまで、天井裏に隠れて余を警護しておった」


「はい? 一体なんでそんな事を?」


「余が知るか!

 ただ『ヤシチ』みたいに天井に隠れて警護してたらカッコよくないですか? と切り出してきての。

 余が手を叩いたり声をかけたら、天井からすかさず降りてくるなら良いと合意した」


「はあ……とりあえず、あそこを調べればいいんですね」


 宮殿は壁は石造りの場所も多々あるが、床と天井は木造となっている。

 イザークはアグネスの許可を取った上で、梯子を調達してくると壁に立て掛けて上る。

 天井を押すと、確かに蓋のように開き、天井裏へと入ることができた。


「要するに仮眠室か……」


 イザークがプリンセスガードに配属された日、ディートハルトはそれまで一人で警護していたと聞いた。

 正直、どうやって睡眠をとっていたのか気になっていたのだが、その答えが天井裏だったという事だろう。

 おそらく、当時ディートハルトはここに毛布かなんかを持ち込み、天井から見張っておりますとでもアグネスには言って自身は寝ていたのだ。

 勤務中に護衛が寝ているところを見られてしまえば、即解雇どころか死刑の可能性もありえる。

 天井裏にいれば、寝ているかどうかは、天井裏を覗かれるまでわからない。

 ディートハルトは天井裏で隠れて守りますというヤシチの様なキャラを演じる事で、アグネスの子供心を満たし、自分は睡眠を確保していたというワケである。

 イザークは、天井裏においてある鍵を手に入れ下に降りた。


(これで、姫様は無事ゲームクリアというワケですね……

 後はリーダー、貴方が決闘をクリアしないと大団円とはなりませんからね)


 カミルはイザークが鍵を持って降りたのを見届け安堵すると同時に、ディートハルトの身を案じた。

 アグネスは鍵をゲットすると、ディートハルトの部屋へ向けて走り出す。


「はあ……はあ……

 長い道のりじゃった。全く手の込んだ事をしてくれおって……」


 唾を飲んだ後、アグネスは扉へ歩を進める。

 アグネスとは対照的に、イザークは何処か不安だった。

 部屋の中にディートハルトがいるとは限らないからである。

 遺書の様な手紙が置いてあるだけなのでは? という不安がよぎる。


「ん? イザークどうしたのじゃ?

 もっと喜ばんか! 長い旅もこれで終わるのじゃぞ?

 此度の働き、真に大義であった」


「ありがたきお言葉……

 そうですね、ここは笑うところですよね」


(リーダー、ここまでやっていなかったら、貴方を恨みますよ。

 大泣きする姫様を宥める事など、私にはできません)


 アグネスはドキドキワクワクしながら鍵穴に鍵を突っ込み扉を開ける。

 することそこには、部屋の中央でふんぞりかえるディートハルトが待ち受けていた。


「手の込んだ真似してくれおって覚悟はできているんじゃろうなディートハルト」


「覚悟? 一体何のことですかな?」


「とぼけおって~! ん?」


 アグネスはディートハルトのこめかみの辺りに傷がついている事に気づく。


「ディートハルト……その傷はどうしたのじゃ?」


「ああこれですか? 実は階段から転げ落ちてしまい……」


「そうであったか~、お主もドジよのう」


「いえいえ! お姫様程では」


「何で余まで、ドジという事になるのじゃ!

 まあよい、それで恥ずかしさのあまり、風邪を引いたという事にして、部屋に引き篭もったというワケじゃな?」


「……ええまあ、そんなところですね」


「安心せい! お主がドジなことぐらい百も承知じゃ!

 そんな事でお主を見下したりはせん」


「え~いや、階段から落ちたのはたまたまですよ」


「嘘をつくでないわ~!」


「嘘じゃありません!」


「~~~~」


「~~~」


「~~」


「~」


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