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LostTechnology ~幼帝と保護者の騎士~  作者: CB-SXF6
本編(建国38年~建国47年)
21/76

旅行 道中

 本日の教育時間が終わるとアグネスはライナルトにある願い事をした。


「爺上~! お願いがあるのじゃ~!」


「おおっ!? わしの可愛いアグネスよ。何なりと申すが良い」


「メソガエアへ行きたいのじゃ~」


「メソガエア? どうしてまた?」


「母上縁の地だからじゃ。どんなところか気になってのう」


「ほっほっほっ! そういう事か。

 では、特別にわしがアグネスをメソガエアに連れってやるぞ~?」

(他州を見させるのも丁度良い機会やもしれんな……)


「流石爺上なのじゃ~!」


「このくらいわしにとって……」

(うぐっ!? む…むねが……)


「……爺上? どうしたのじゃ?」


 顔色の悪くなったライナルトを心配そうに見るアグネス。


「な…なんでもないのじゃ。メソガエアの旅行を楽しみにしてるがよい」


「わかったのじゃ~!」


 アグネスは一転して笑顔になると部屋を駆け足で出て行った。


(……くそっ!)


……――……――……――……――……――……――……


 馬車の中。


「…………」

(気まじい……)


 メソガエアに向う馬車で皇帝と同席となり、予想だにしなかった耐え難い空気を必死に耐えるディートハルト。


「爺上~!」


「なんじゃアグネス?」


「分からない事があるのじゃ~」


「申して見よ」


「どうして、帝国の首都なのに、オルテュギアは王都と称するのじゃ?

 帝国なら帝都であろう?」


「ほっほっほ~!

 流石は、余の孫アグネスじゃ!

 そこに気付くとはの~」


「当然じゃ! じゃが、わからんものはわからん!」


「よいかアグネス、確かに王都オルテュギアは大都市で、世界で最も大きな都市ではあるが……

 所詮『大都市』、つまり『メトロポリス』に過ぎぬ」


「ふむっ……」


「オルテュギアを中心に、ヘスペリア、リビュア、マルガリテフェル、バルティア、クリセの6州それぞれを王都と引けをとらない『大都市』まで発展させる。

 そうすれば、この7つの都市群は巨帯都市『メガロポリス』と呼ばれるのじゃ。

 その都市群を長城で取り囲む事で、中原全体が巨大な城塞都市にして我が城となり、この城塞都市を帝都と呼ぶのじゃ!」


「おお~~っ!!」


「これが余の帝都構想じゃ! 皇帝たるもの野望は大きく持たなくてはならぬ」


「流石爺上~! その構想、神の如しじゃ~!」


「ほっほっほ~~!」


(何が、メトロポリスにメガロポリスだ。

 伝説の遊戯シムシティでもしてるつもりかよこのじじーは!

 帝都構想(笑))


 シムシティとは古代の人が楽しんだとされる遊びである。

 自分が街の支配者となって、架空の街を築き発展させ、人口を増やして楽しむ遊戯だったとされるが、ボードゲームなのか、カードゲームなのか、どういう遊戯だったのかは全く分かっていない。

 考古学者の間では何かと議論になる事の多い謎の遊戯であった。

 わかっているのは、架空の街を発展させ人口を増やしていくとランクアップしていき、そしてその最高ランクが『メガロポリス』というわけである。


「ハハハハハ!! 夢のまた夢でしたよね!」


 ライナルトは結局のところ、大陸統一を断念し、その後で築いた長城も、ヘスペリアからメソガエアまでで、中原を一周しているわけではなかった。

 王都を除き他の州は大都市まで発展しているとはいえず、今言った構想は儚き野望でしかなかったのである。


「小僧! 貴様死にたいのか?」


 ディートハルトの言葉に対し、皇帝は殺気を込めて言葉を返す。

 ディートハルトはその瞬間、死を覚悟せざるを得なかった。

 

「はっ!?」


 死を覚悟したその瞬間にディートハルトは目を覚ました。

 馬車の中であり、心配そうにイザークが見ている。


「どうしました?」


「陛下は?」


「何言ってるんですか、陛下は王都に残って私達と侍女だけで、姫様をメソガエアに連れていく事になりましたよね?」


 ライナルトはアグネスを連れてメソガエアに行く事を検討したが、結局は王都に残る事にして、ディートハルトが引率してアグネスをメソガエアまで連れて行く事に決まった。


「そうだったな……」

(何年か前の悪夢が現実になった様な夢を見るとは……)


「顔色悪いですよ?」


「いや、大丈夫だ」


 先程の悪夢が夢とわかり、次第に元気を取り戻していくディートハルト。

 宮殿勤めから解放され、気分は正にバカンスであった。

 数日前までは、皇帝も同行すると聞いて憂鬱だったが、急遽その話がなくなると気分は最高潮に達した。


(あれだけ、アグネスを連れて旅行するつもりだったライナルトさんがそれを断念したとなると……

 相当体調は重い様だな……)

「ん? 姫は?」


 気付けば、馬車の中にいる筈のアグネスがいない、いるのはイザークとアグネスの侍女コレット。

 馬車は4輪の大型幌馬車であり、4頭で牽引している。


「景色を見たいといって、前部の方へ」


 アグネスは馬車を走らせている御者のいる前部へ移動していた。

 ディートハルトが前部の方へ目をやると、御者を担っているローラントの横にアグネスが座っている。


「おおっ! 街の外は凄いのう! こんな景色は初めてじゃあ!」


 アグネスは街を出て広がる景色に歓声を上げていた。

 ディートハルトとアグネスは大型の馬車に乗り、部下が二人(御者含む)と侍女が1人同席している。

 中型の馬車を馬2頭で牽引し、部下1人(御者)と侍女1人。

 残りの4人の部下は馬に跨り、馬車の周囲をガードしていた。

 部下の編成は日によって変えているが、ディートハルトはアグネスにつきっきりである。


「しかし、メソガエアまでまだまだ日数がかかるのう。

 盗賊でも、襲撃してくれればよいのじゃが」


 アグネスは野盗との遭遇を心待ちにしているようである。


「姫様、盗賊と遭遇したいと申されますか、盗賊は危険にございますぞ?

 金を渡せば命までは取らない者もおりますが、生きて皮を剥ぐような残忍な者もおります」


 普通に考えれば誰だって、野盗などには遭遇したくもない。

 しかし、水戸黄門を聞かされて育ったアグネスからしてみれば、野盗などは退治して当然の存在であった。

 できることなら、私兵ともいうべきプリンセスガードに退治させ、町民や村人から拍手喝采を浴びたいとすら思っている。


「悪党を退治したいのは勿論じゃが、お主らの活躍もみてみたいしのう」


「ハハハ! 左様でございますか。

 このローラント、姫様にその様に期待されてしまっては、力が漲ってしまいますぞ」


「うむっ! 存分に悪を退治するがよい! ふはははははは!」


「ははははは!」


 一行は野宿するワケにはいかないので、街や村により宿を取っていた。

 宿の無い村では村長に金を払い、家、一軒をまるまる借りて過ごす事もある。

 アグネスは壁に耳をあて、村人達の話を盗み聞きしていた。

 貴族が、重税を取りたてている情報を掴めば、すぐさま成敗するつもりだったのである。

 しかし、そんな都合のいい展開があるわけでもなく、次第に元気はなくなっていった。


「退屈じゃのう……」


 前半こそ、意気揚々と景色を眺めていたアグネスであったが、毎日、平原を進み、代り映えしない景色に嫌気を覚え始めていた。

 馬車の揺れも最初は楽しかったものの、今では苦痛でしかない。


(馬車があるとはいえ、10歳の子供にはきつい長旅だったかもな……)


 ディートハルトは、日に日に険しくなるアグネス表情に今後の不安を感じた。

 そんな時、馬車の周囲を警護する騎馬に跨ったフロレンツから、報告が入る。


「リーダー! どうやら野盗の様です」


「何!? 数は?」


「おそらく30人はいるかと……」


 行商人を襲う野盗にしてはかなりの人数である。

 数百メートル先に、30人程の武装した集団が街道を塞ぐようにして待ちかまえていた。

 周囲は、平原といっても丘があったり、所々に木々が生えており、見晴らしは悪くはないがよくもない。

 半数は馬に跨っており、進行を反転させれば、直ぐさま追撃してくるだろう。


「馬車を止めろ! できれば穏便に話をつけたい」


 ディートハルトからしてみれば、並の野盗30人なら、一人で十分に倒せる自信がある。

 ただし、今回はアグネスがおり、守りながら戦うというのは、リスクが伴うといえるし、また野盗とはいえ、アグネスの前で血は見せたくなかったのだ。

 ディートハルトは馬車から下り、遠方にいる街道を塞ぐ集団と対峙した。


(あれで全部か? いや、周囲に伏兵を忍ばせている可能性もあるな。)

「いいか、お前ら! 前方の連中はわざとらしすぎる。

 伏兵には気をつけろよ」


「了解」


「わかっていると思うが、姫の身が最優先、次に女性、次に馬、次に荷物、最後が自分達の命だからな?」


「わかってますよ。何があっても、荷物とリーダーだったら荷物を優先します」


「流石おまえら、それでいい」


 自分の身は自分で守る、俺に気遣いは不要。お前ら如きに助けられるいわれはない。

 ディートハルトはそう思っていた。


「ええ……リーダーの命と、昨日川で洗った私の肌着だったら私の肌着を優先します!」


「そうかカミル……後で覚悟しておけよ?」


「なんでですか!? 私は言いつけどおりに」


「おおっ! 遂に野盗がきおったか! 待ちくたびれたぞ!」


 アグネスはようやっと悪が現れた事に喜びを隠せないでいた。


「姫! 馬車の中にいてください。

 フロレンツ、テオフィル! 姫を馬車の中へ、それとお前達二人は姫の側を離れるなよ?」


「了解! 姫様、さあこちらへ」


「何をするのじゃ、余だって戦え……むぐっ」


 アグネスは二人に抱えられて馬車の中へ身を引っ込める。


「ローラント、二人を守ってくれ」


 ローラントに侍女二人を守る様に指示をだす。


「わかりました。指一本触れさせません」


「イザーク、ハンス、カミル……えーと、ルッツ。

 お前達4人は周囲を警戒してくれ。

 馬車に火を放たれると厄介だ」


「はっ!」


「とりあえず、無駄だとは思うが一応向こうさんと話してくる」


 野盗達は、ジワジワとこちらへ近づいてきていた。

 ディートハルトは徒歩で、野盗達の方へ歩を進める。


(奇襲してこなかったところを見ると、略奪ではなく姫の誘拐の可能性もあるのか?)


 普通野盗達は、死角となる場所で待ちかまえていたり、馬に跨って奇襲を仕掛けてくる事が多いとされる。

 人数の多さや、見やすい位置に陣取るなど計画性を感じた。

 もっとも、誘拐ではなく前方の集団はいわゆる囮で、周囲に隠した伏兵が本命という可能性もある。


「何の用だ?」


 声を張り上げて、前方にいる野盗達に問う。

 既に距離は50メートル前後まで近づいていた。


「へっへっへっ。荷物と女と馬の半数を置いていきな。そうすれば命だけは助けてやるぜ?」


「それはできない。金を払うから道を開けてくれないか?」


 野盗に金を払うなど、愚かな話ではあるが、流血は避けたいというのが本音だった。

 流石に、部下達に殺さないよう手加減して戦えなど自殺行為を命じる気はない。

 ある意味、野盗の命を思っての言葉だったが、野盗達はそれを聞いてバカ笑いを上げはじめる。


「金? 馬鹿かオメエ? オメエを殺せば金も馬車も女もそっくりそのまま手に入るじゃねーか!」


「殺せればの話だろ?」


「はっ! やっちまええ!」


 野盗のリーダーらしき男が号令をかけた。

 すかさず弓を得物にした野盗二人が、ディートハルトに矢を放つ。

 矢の軌道を読み、一本をかわし、一本を剣で払う。

 そして、剣抜いてかかってきた野盗の一人を両断した。


「え!?」


 両断された男は何故自分が斬られたか分からなかった。

 剣と剣がぶつかると思ったからだ。

 しかし、ディートハルトの剣は野盗の剣をまるで素通りするかの様に剣ごと体を斬った。


(ホントよく斬れるなこの剣は……)


 この前、買い物した剣の切れ味に改めて驚かされる。

 流石は世界最高峰の鍛冶師クロムの作だろう。

 野盗達に動揺が走った。直線状に放たれた矢を剣で払い、剣ごと体を両断するなど並の剣士にできる事ではないからだ。

 しかし、数でプリンセスガード達を遥かに凌駕している野盗達には退却するという判断はない。

 5人がディートハルトの方へ向かい、残りは馬車の方へ向かう。


「来るぞ!」


「分かってますよ」


 馬車の前方にいるハンスとカミルが向かってくる野盗達を迎え打つ。

 ディートハルトが警戒していたように、やはり周囲には伏兵がいたようで、木々の影や丘の影から野盗達が姿を見せ始める。


「ちっ!」

(やはり伏兵がいたか……)


 ディートハルトは既に7人を斬り捨てていたが数が多い、全部で50はいるだろう、馬車に火矢を放たれたり、馬が暴走すると厄介である。

 伏兵相手に、侍女二人を守って戦うローラントであったが、多勢に無勢であり、野盗の一人に背後をとられた。


(しまった、背後に回られた!?)


 その時、侍女の一人コレットが、手をかざし魔法を放つ。


「スノークリスタル!」


 放たれた冷気は野盗を氷つかせた。


「なっ!?」


 非戦闘員と思われていた女性のまさかの攻撃に野盗達が動揺する。

 もう一人の侍女アデーレも、これ以上は非戦闘員の振りをする必要はないといわんばかりに攻撃に転じた。

 どちらも氷術の使い手であり、盗賊達が火矢を放っても直ぐに消火してしまい無効化する


「すまん、助かった。まさか、魔道師だったとは」


「姫様の側にいる以上、戦いはできます。

 姫様が火術を覚えているので、火事の対策はしなくてはなりませんし。

 こちらこそ黙っていて申し訳ございません。

 非戦闘員の振りをしていた方がいざという時、有利に働くと思いました」


 野盗達は軍隊ではない、当然だが、大義で戦うわけでも国を守る為に戦っているわけでもない。

 予想以上の反撃を受けると、浮き足立ち逃げ出す者も現われはじめた。

 弱者から略奪して生計を立てているわけで、強者から略奪するつもりはないのである。

 ディートハルトは前方30人の半数以上を一人で斬り捨てていた。

 野盗達は戦意を失い散開する。


「イザーク! 俺の馬を!」


 後方にいるイザークに馬を持ってくるように指示を出す。


「はっ!」


 命を受け、ディートハルトの馬に跨り、ディートハルトの元へ向かった。


「いいか! 俺は野盗の首領らしき男を今から追う。

 お前達はこのまま、この先にある村まで向かえ、そこから先へは移動せずに俺が戻るまで待機していろ」


「了解しました」


 ディートハルトは自身の馬に跨ると、盗賊の首領らしき男が逃げた方へ向かって馬を走らせる。

 首領の男は命からがらアジトとして使っている穴倉に逃げ帰っていた。


「はあ……はあ……何だよ、あの黒いの……

 こんなの聞いてねーぞ」


 今回の仕事は、仲間全員で行ったため自分以外は誰もいない、しかし、50人以上いた仲間が全て殺されたとは考えにくい。

 一人くらい、先に逃げ帰って来ている者がいてもおかしくないのだが、未だに戻ってこない仲間を思うと嫌な予感がしてくる。


「ここがお前らのアジトってわけか……」


 思い出したくもない声が聞こえてきた。

 振り返ると、仲間達を何人も斬り捨てた男が立っている。


「ひっ!」


「別に、荷物も人員も無事だったし、お前の事などどうでもいいが聞きたい事があってな……」


 男は黙って、ディートハルトを見る。

 まるで、死を覚悟しているようだった。


「お前達、俺達が通る事をまるで知っているようだった。何故あそこで待ちかまえていた?

 伏兵まで忍ばせて用意周到だったし、行商人を襲うのに、そこまで手の込んだ事をするとは思えん」


 男は答えない。

 答えないのは予測の範囲だが、そうなると嫌な事をしなくてはならない。


「あまり、拷問なんてしたくないんだが。

 一応、言っておくぞ? 正直に答えればこの場は見逃す」

 

 ディートハルトは手をかざし痛みを与える魔法を放った。


「ぎゃああああ!!」


 激痛で悶え苦しむ。

 男はどこにも傷ができていない事を恐ろしく思った。

 一体、自分は何をされたのだろうか。 


「おい! 正直に話せ!」

(闇の魔法が何故闇と呼ばれるのかわかる気がする。

 こんな魔法、使う方も精神を病むな。)


 男はなおも答えなかったが、ディートハルトが止むを得ず、再び手をかざすと口を開いた。


「……ある男に頼まれた」


 男は、怯えながら語りはじめた。


「どんな?」


「さあ……素性はわからねえ。

 たが、大金を用意してくれて、略奪した物資も自由にしていいと言われた。

 そいつの身ぐるみを剥ごうとしたら、仲間が逆に殺されちまって……」


「殺された?」


「ああ……吹き矢かなんかわからねえが、物陰に潜んでいた相手の仲間にな。

 得体の知れねえ強さっていうか、勝てる気がしなかった」


 男の声は震えていた。


「単に俺達から略奪をしろと言われただけか?」


「いや、女子供には手をつけるなって言われた。

 そうすれば、報酬を払うし、女性を殺す様な真似をしたら、報酬はなしでお前達を皆殺しにするってな」


 うすうす勘付いていたが、話を聞いて大体想像がつくディートハルト。

 おそらく、皇帝が自分達を試したといったところだろう。


「そうか……お前の命は保証するが、この件に関してはオルテュギアで証言してもらうぞ?」


 ディートハルトは誰にでも聞こえやすく分かりやすく、声を大きくゆっくりにして喋った。


「しょ…証言? 何を?」


「今の話をある人達にして貰えればそれでいい」


 もし、皇帝が関与しているなら、この男を皇帝や皇太子、父親のいる前に連れていき証言をさせる。

 そうする事で、皇帝に少しでも恥を掻かせてやりたいと思ったのだ。

 皇帝に喧嘩を売る様な行為だが、元々嫌いだし、今回の件に関しては非常に憤っている。


「……それは困りますね」


 背後から男が現れた。


「情報局か?」


 当然皇帝が絡んでいるとなればその手足となって動くのは情報局である事は想像ついた。

 おそらく、プリンセスガード一行を監視する様に任務を受けているチームが編成されているのだろう。

 あれだけいた盗賊が首領以外、誰一人、帰っていないこないところを見ると、残りメンバーは証拠隠滅のため、野盗達の残党狩りをしているのかもしれない。


「そうです」


「どうしてこんな真似を?」


「主は『貴方達』が本当に『孫』を守れるのかどうかを気にしておられまして、『貴方達が本当に守れるのかどうか試せ!』と命を受けました」


 具体的に何をどうしろとは命じないところが皇帝らしく、ディートハルトの嫌いな一面でもあった。


「なるほど……

 それで野盗達を脅し、金で釣って襲わせたと……そういう事か?」


「そうです」


「『孫』を危険に晒すとは思わなかったのか?」


「女性二人が氷術師なのは知っておりますし、女子供には手を出すなと厳命してあります」


「こいつら盗賊が約束を守るとでも?

 素性がバレて『孫』を人質に取ったら?

 馬車馬が暴走して事故が起きたら?

 それ以前に、戦いの最中、流れ矢が『孫』に当たったらどうするつもりだった?」


 ディートハルトからすれば、どんなに用意周到に作戦を立てても思い通りに事が進まない方が当たり前であった。

 怖い話を読んで怖がらせようとすれば、勝手に話を遮って話に突っ込みを入れ始める。

 発火法で火を起して驚かせようとすれば、相手が既に火術を知っている。

 立てた作戦が、作戦通りに進むなど、小説の中だけというのがディートハルトの持論である。

 実際問題として、この件を皇帝が知れば、目の前の男は直ぐさま死刑だろう。

 あくまで皇帝はプリンセスガードを試せとしか言っていない、多少でもアグネスに死の危険が迫るような仕事を認めるとは思えない。

 証言の話をしてから、ようやっと姿を現したのも、このままだと皇帝に首を斬られてしまうから説得しようというものだろう。


「私たちは一行を常に監視しております。何があっても危険に晒す事などありえません。もしもの時のための光術師も雇っております」


「そうか……」


 ディートハルトは男の頬を思いっきりぶん殴った。

 男はぶっ飛び、壁に激突する。白目を向き、歯は折れていた。


「おい! お前達も災難だったな……

 その男はお前の好きにしていいぞ。じゃあな」


 ディートハルトは洞窟を後にして、イザーク達の待機する村へと向かう。

 ディートハルトは姫を守った騎士としてお褒めの言葉を頂戴する事を密かに期待していたが、悪党退治に参加させなかった事をアグネスは怒っており、待っていたのは叱責の言葉であった。


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