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LostTechnology ~幼帝と保護者の騎士~  作者: CB-SXF6
外伝(建国元年~建国7年)
16/76

建国前夜

5話程、外伝が続きます。

 49年前。

 クリセ州の騎士団の一つに過ぎなかったフォルスター騎士団は、バルティア州、メソガエア州を平定し、当時から既に世界最大の都市であった王都オルテュギアを陥落させた。

 その騎士団長であったライナルト・フォルスターは中原4州の支配者となり、ライナルト帝国を建国。

 自身を皇帝と称した。


 この世界において、皇帝も王も支配者という意味では同義であり、やる事も実質的な違いはない。

 だが、王が領民に対して、良い国作りますよという意味合いで称するのに対し、皇帝は世界に覇を唱えるという意味合いで称するのに使われる。

 つまり皇帝を名乗るという事は、世界各国に対して宣戦布告をしているのと同義なのである。


 また、国家の主が自国を「騎士団」と称したり、自身を「騎士団長」と称する場合は騎士道に則って悪と戦いますよという事を意味する。

 中原の東部に位置するクリセ州は、中原において、魔族が支配する東の大陸ディオスクリアに最も近く、元々は騎士団連合が治めていた。

 遥か昔の話ではあるが、クリセに集った大小無数の騎士団は、魔族討伐を掲げ、ディオスクリア大陸に侵攻したのである。

 結果は惨敗、戦死者数は8割を超えた。

 その後も、魔族の侵攻に備えるという名目で、騎士団連合はクリセの地に止まり続けた。

 騎士団連合に属する騎士団の中にはクリセを離れたい騎士団もあったが、騎士団には宗主国が存在し、クリセ州に止まる事を余儀なくされる。

 騎士団連合はオルテュギアを支配する国家の王には逆らえなかったのである。


 そんな停滞を続けるなか、宗主国は腐敗し、幾度となく政権が交代する。しかし、騎士団連合はオルテュギア国の属国であり続けた。

 ある時、クリセ騎士団の一つであるフォルスター騎士団は、宗主国と他の騎士団に対し反旗を翻す。

 フォルスター騎士団には、エンケルス騎士団、クーニッツ騎士団、アーネット騎士団の三つが賛同し協力した。


……――……――……――……――……――……――……


 ライナルト帝国、建国前夜。

 大規模な式典を行うため、王都オルテュギアの宮殿に重臣達は軒並み集められている。


 宮殿内の大広間では、旧知の仲でもある二人の騎士団長が世間話をしていた。


「聞いたか? ハルトヴィヒ。

 セシリア殿が隠居なさるらしいぞ。」


 セシリアとは、帝国及び、その前身であるフォルスター騎士団を支えた騎士団の一つ、アーネット騎士団の騎士団長である。

 まだ39歳であり、決して引退する様な歳ではない。

 だが、建国の儀では、改めて皇帝となったライナルトに、騎士団長が騎士の誓いを立て、皇帝に臣下の礼をとる事が決まっていた。


「ああ、聞いた。

 建国に伴い世代交代といったところだな……」


「まだ若いのにな……」


「そんな事をいったら、私にしろお前にしろ、既に騎士団長ではないか……」


 ルードルフの父、ホルストクーニッツは既に家督をルードルフに譲っている。

 ある時、ホルストは戦場で大きく負傷してしまい窮地に陥ってしまう。

 父の代わりに指揮をとったルードルフであったが、父顔負けの戦術を行ってみせ、絶対絶命どころか形成を逆転させ自軍を勝利に導いたのである。

 すっかり気を良くしたホルストは団長の座を息子に譲り、自身はその補佐についた。


 一方、ハルトヴィヒの父は、敵から奇襲を受け戦死してしまう。

 父の弟であるアウレールは騎士団長になる事を拒絶し、副団長のまま、ハルトヴィヒを推した。

 ハルトヴィヒは騎士団長の座に就くことを余儀なくされた。


「それはそうだが……」


「それよりも……

 フォルスター騎士団を存続させるらしいぞ。」


 ライナルト自らが率いていた騎士団は、建国と共に解散となるのでは? と噂されていた。


「本当なのか?」


「何でも、ヴェルナー様を騎士団長に据えて、陛下ご自身は近衛騎士団を組織するらしい。」


「ヴェルナー様を?」


「私も耳を疑った。」


 唖然とするハルトヴィヒに苦い顔で答えるルードルフ。

 二人が疑問視するのも無理はなかった。

 ライナルトの長子であるヴェルナーは、ライナルトとはうって変わって、凡人の域を出ず、周囲からは既に凡愚として冷たい目で見られていたからである。

 ヴェルナーはルードルフやハルトヴィヒと同世代であり、ルードルフやハルトヴィヒのヴェルナーに対する評価は『使えない』であった。


「まあ、陛下のお考えはおそらく、騎士団長に据えて領地を与え、戦の指揮を執らせ、少しでも後継者として経験を積ませておきたいというところだろう。」

(あるいは都合よく、戦場に出して、戦死させるおつもりか……)


「わからなくもないが、いくらなんでも無理があるだろう。

 あの方は何をやらせてもダメなお方だ。

 努力家である事は認めるが、あの努力を見ていると、逆に才能の無さを痛感するな。」


 努力に応じた成長がないという事は逆にそれだけ才能のなさを意味する。


「全くだな……

 いかに親が凄くても、その才能を子が受け継げるとは限らない。」


 平然とライナルトの息子に対し悪態をつく二人だが他人に聞かれてもどうという事はなかった。

 それだけ、ヴェルナーはライナルトに冷遇されていたからである。


「そうはいうが、お前、ヘルフリート様のことはどう思う?」


 ヘルフリートとは第二皇子であり、ヴェルナーの弟である。

 小さい頃から、兄よりも武においても知においても優れ野心家であり、早い話、ライナルトのお気に入りであった。


「ライナルト様に似て、能力において将来性はあると思うが、悲しい事に次男だ。」


「争いが起きなければいいが……」


 無能な長男と有能な次男。

 二人は国家の行く末を憂わずにはいられなかった。


「ところで、セシリア殿が引退なさるという事は、ヴィクトリア殿が騎士団長になるのか?」


「それはそうだろう。

 長女だし、あの騎士団は珍しく代々女性が団長を務める家柄だからな。」


「ヴィクトリア殿と面識は?」


「従騎士時代というか、幼い頃に何度か……

 クソ生意気な小娘だったぞ。」


 クーニッツ騎士団とアーネット騎士団は元々縁があり交流が盛んに行われていた。

 その関係で、幼い頃、ヴィクトリアとは子供として何度か遊んだ事がある。 

 ちなみにエンケルス騎士団とクーニッツ騎士団も縁があり、ルードルフとハルトヴィヒは幼い頃からの悪友であり、何かと競いあった仲でもあった。


「ふむ……

 クソ生意気な小娘か……」


 一方ハルトヴィヒはヴィトリアの名前を知っているくらいで直接あった事はない。

 エンケルス騎士団とアーネット騎士団の関係は疎遠である。


「興味深い話をしておられますね。」


 唐突に二人の後方から女性の声がする。

 振り向くと、長身で金髪碧眼の女性が立っていた。

 伝承に出てくる様な、絵に描いたような女性騎士である。

 突然現れた、美しい女性にあっけにとられる二人の騎士。


「お久しぶりです。ルードルフ殿。

 そして、こちらはもしかして、ハルトヴィヒ殿ですか?」


「ああ……初めまして。

 エンケルス騎士団長のハルトヴィヒ・エンケルスだ。

 ひょっとして貴方が、ヴィクトリア殿か?」


「はい、アーネット騎士団・副団長のヴィクトリア・アーネットです。」


 ルードルフは固まっていた。

 大して気にもしていなかった小娘が、何処からみても絵になるような大人の女性に変貌していたからである。


「おい、どうしたルードルフ。

 面識あるとはいえ、挨拶くらいしたらどうだ?」


「あ…ああ……

 クーニッツ騎士団長のルードルフ・クーニッツだ。

 久しぶりだな、ヴィクトリアよ。」


 再会が嬉しかったのか、ヴィクトリアはルードルフを見て微笑んだ。


「……ヴィクトリア殿は副団長なのか?」


 ハルトヴィヒが疑問に思ったことを口にする。


「ええ……

 明日、母であるセシリアが私を騎士団長に任命し、私が陛下へ騎士の誓いを立てます。

 そうすれば、お二人と晴れて同格ですね。」


 その際には、現騎士団長の二人も改めて皇帝ライナルトに騎士の誓いを立てる段取りである。


「なるほど……

 私は成り行きで騎士団長となったが、いくらなんでも早すぎるのでは?」


「確かに母はまだまだ戦えますが。

 陛下も対等に近かった者に対して、臣下の礼はとらせたくはないのでしょう。」


「ふむ……」

(臣下の礼をとりたくないの間違いな気もするがな……)


 エンケルス騎士団も、クーニッツ騎士団も、アーネット騎士団もあくまで協力関係にあり、フォルスター騎士団は連合の代表にすぎなかったのである。

 対等に近かった者に対し、頭を下げるというのは誇りが許さなかったのかもしれないとハルトヴィヒは思った。


「それでは、私はこれで……」


 一笑すると、ヴィトリアは背を向けて歩き出す、二人の騎士はそれを黙って見送っていた。

 ある程度距離が離れたところで、唐突に振り返るヴィクトリア。


「ルードルフ!

 クソ生意気な小娘で悪かったわね。」


 子供の頃と同様に喋ると、微笑みながら手を振って再び背を向けた。

 しばらく、二人はたたずんだ後。


「……まさか。

 あそこまで綺麗になっておるとは……」


 ルードルフはぼそりと本音を漏らした。


「鼻の下を伸ばしおって……おい、ルードルフ。

 言っておくが、貴様に遠慮はせんからな。」


「ん? それはどういう意味だ?」


「悪いが、貴様にヴィクトリア殿は渡せんという事だ。」


 ハルトヴィヒもヴィクトリアには見惚れていた。

 ルードルフと築いた友情はもはやどうでもよかった。


「はっきり言うではないか!

 従騎士の頃、私に挑んで地獄を見たのを忘れたのか?」


「それは、剣技の話だ。

 魔法なら私が勝つ!」


「いつから貴様は魔道師になった? 魔法が好きなら下馬したらいい。」


「あいにく、古典的な騎士の誇りなど持ち合わせておらんのでな。」


「武人の風上にもおけぬヤツよ。」


「陛下は我らに『勝て! 負けたら許さん!』としか命じない。

 武人かどうかよりも、陛下に勝利を捧げる事が重要だ。

 剣よりも魔法に重きをおいて何が悪い? だから貴様は猪武者なのだ。」


「そういう貴様はまるで『虎の威を借る狐』ではないか……

 言っておくが、女性は強い者に惹かれる。

 貴様に勝ち目はないぞハルトヴィヒ。」


 戦功においては、クーニッツ騎士団の方がエンケルス騎士団を凌駕していた。

 どちらかに嫁ぐなら評価が高いほうがいいのは言うまでもない。


「勝負はやってみなければわからない。」


「笑わせおるわ。貴様に与えられた地の事を忘れたのか?」


 ライナルトは建国と同時に、3つの騎士団に領地を与える事を約束した。

 自身は、世界最大の都市があるオルテュギアを押さえ。

 クーニッツ騎士団にバルティア州を、エンケルス騎士団にクリセ州を、そしてアーネット騎士団にメソガエア州を与えた。

 オルテュギア、バルティア、メソガエアは隣国と隣接しているが、クリセ州だけは隣国へ隣接していなかった。

 要は、エンケルス騎士団は魔族への備えとされ、要するにお留守番扱いだったのである。


「勝負の場すら与えられておらぬわ!」


「貴様……」


 この時、二人の友情は音を立てて崩れ去った。

 一触即発の空気となり、睨み合いが続く。


「面白いことになっているな。まさか建国を前に決闘でもするつもりか?」


 声を聞き、一瞬にして、背筋が伸び敬礼のポーズをとる二人。


「はっ! 陛下!」


「いえ! 決してその様な事は……」


 それぞれが慌てて弁明する。


「フッ……そうか。

 決闘するならもっと面白いことを期待する。」


「面白い決闘ですか?」


 訝しげに問うハルトヴィヒ。


「そうだ。

 建国の儀で、お前ら二人と余が決闘する。

 中々、面白い見世物になるとは思わんか?

 いっその事、今度騎士団長になるヴィクトリアをまじえ3対1でも良い。

 勿論、命の保証はせんがな。」


「お戯れを……」


「ライナルト様相手では、何人でかかろうとも勝負になりませぬ。」


 二人は揃って頭を下げる。

 それぞれが国家を形成してもおかしくない力を持った騎士団の団長が、ライナルトに屈服し、臣下の礼をとる事にはそれなりの理由があった。

 ライナルトは、馬術、剣術、魔術のどれをとっても、人間離れをしており、政治、謀略、戦略においても類い稀な才能を見せていた。

 強いカリスマ性を持つライナルトに逆らうなどという愚かな選択はなかったのである。


「まあよい。

 余は皇帝となって、中原と言わず、大陸を平定する。

 二人とも出遅れるなよ?

 ライナルト帝国の力を世界に見せ付けるのだ。」


「はっ!」


 二人は敬礼し、皇帝となるライナルトを見送った。

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