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LostTechnology ~幼帝と保護者の騎士~  作者: CB-SXF6
本編(建国38年~建国47年)
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決闘後編

■決闘 後編


 皇帝に近衛騎士二人を処刑するように命令され、剣を取るように促されたディートハルトであったが、剣を取れずにいた。


「……しかし」


「余に逆らうのか?」


 皇帝の声は低く冷たい、相手が誰であれ、自分の意に背くような真似をすれば容赦なく制裁を下す。


「……お言葉ですが、互いの首を賭けての決闘であったと申されるなら。

 この者達の首は私の物にございます。

 ならば、死を与えて楽にさせるのではなく、顔に落書きをし、生き恥を晒させ、苦しめるのが最上かと」


 皇帝に逆らう事など、愚の骨頂であったが、ディートハルトには二人が首を刎ねねばならない程の事をしたとは到底思えなかった。

 ましてや、既に二人はごめんなさいをして、アグネスはそれを許しているのである。


「ふははははは。

 面白い事を言うのう、ディートハルト!

 この者達の首はお前のものか……」

 よかろう! 確かにこの者達の首はお前のものだ!」


 その瞬間、金属の澄んだ音が闘技場に鳴り響いた。

 ライナルトは二人の首を刎ねようと剣を振り、それをディートハルトが自身の剣を抜いて防いだのである。


「……陛下。何卒……」


 とっさの行動とはいえ、反逆行為として受け取られても文句は言えない。


「ククッ……余の剣を受けるとは、やりおるのう。

 首がお主の物なら、身体は余の物じゃ、仲良く分かち合おうではないか。

 ん? ディートハルトよ」


 ディートハルトは、何故、近衛騎士が弱いのかをこの時理解した。

 皇帝はそもそも護られる必要がない。80を過ぎていようと、自分の身ぐらいは自分で守るのである。

 近衛騎士団とは名ばかりの集団であり、その実態は貴族が皇帝へ差し出した人質に過ぎなかったのだ。


(……イカれている。)

「姫様は二人をお許しになられました。

 命を取る程の事では……」


 ライナルトの口元が大きくつり上がる。顔は笑っているが、明らかに激昂していた。


「ふははっ! 余に意見するか小童!」


 感情的になったライナルトは容赦なくディートハルトに剣を振るった。


(これが80過ぎたじじいの太刀筋かっ!?)


 ディートハルトが受けた一太刀は、今まで受けたどの一太刀よりも重く速さがあった。


「どうした? 反撃せんのか?」


 ライナルトは、笑いながら剣を振るい続ける。

 皇帝を相手に剣を振るわけにもいかず防戦一方を強いられるが、技量の差は歴然で、皇帝でなかったとしても反撃する余裕はなかった。

 ディートハルトは致命傷こそ避けるものの、その身体には次第に傷が増えていく。


(鎧が……)


 プリンセスガードも近衛騎士団も護衛の嗜みとして軽鎧は着用している。

 だが、皇帝の剣戟の前では全く意味をなさなかった。

 これでは紙の鎧を着ているのと変わらない。


(目で追うのがやっとで、防ぎきれん)


 金属音とともに、ディートハルトの剣がへし折れた。


(まずい!)


 無防備になったディートハルトに向けて剣を振ろうとした時。


「ディートハルト!」

 

 アグネスが思わず名を叫んだ。

 ライナルトはその声を受けてか、首元で剣を寸止めする。


「ククッ……

 姫を護るべき騎士が、姫に護られていては世話がないのう?」


「……返す言葉もありません」


 悔しさを噛みしめ頭を下げる。


「ふん……アグネスに免じて、今日は許してやろう」


 皇帝は踵を返し、闘技場を後にした。

 二人の騎士は名家の出であり、その家は領地を与えられていたが、この一件で改易とされ、一族まとめて平民にまで身分を落とした。


……――……――……――……――……――……――……


 翌日。


「はい? ディートハルト様、長期休暇をとるんですか?」


 イザークが驚くのも無理はない、帝国で長期休暇を取る人間など殆どいないからである。


「ああ……ここ最近、色々あったから、クリセまで行って、海水浴でもしようかと」


 ディートハルトはそういって、本を広げる。


「なんの本ですか?」


「ああ、何でもこの古文書によれば、昔の人は、こういう木の板を海に浮かべて、波が来たらそれに乗っていたらしい」


 ディートハルトは本に描かれている、波の上に立つ人の絵を見せる。


「んなバカな! 波に乗れるわけがないですよ」


「だから、実際に海に行ってきてためそうかと」


「はいはい」


「まあ、留守の間はお前が皆を仕切れ」


「……わかりました。お任せください」


「なるほどのう! 海水浴とは今から楽しみじゃ!」


 いつの間にやら、アグネスがプリンセスガードの詰所に入り込んでおり、古文書を眺めていた。


「ハハハ! 楽しみ? 何を言っているかわかりませんね」


「む? どういう意味じゃ」


「姫はここに残って、いつもと変わらぬ日々を過ごすんですよ。クリセに行くのは私一人です。

 お土産沢山買ってきますからっ!」


「む~! 何故、余を連れていかんのじゃ、自分だけ楽しい事をしようとはずるいではないか」


「この前、ちょっと城の外に出しただけで、すんごい怒られましたからね。

 流石に、クリセまで連れてったら、死刑は免れないかと」


「余は行きたいと言っておるのじゃ」


「ダメなもんはダメです。

 でもまあ、皇帝陛下がいいよって言ったら別に構いませんけどね」

(まずOKしないだろうがな……)


「わかったのじゃ! 爺上にかけおうてくる、それまで行くでないぞ!」


「わかりました。返事は早めにお願いしますよ」


「うむっ! 待っておれ」


 アグネスは教育のため、皇帝の元へ行き、戻ってきた。


「喜べ、ディートハルト!

 余もクリセに行ける事になったわ~!」


「はい!? 皇帝陛下がOKしたんですか?」


「うむっ! 可愛い余の為ならクリセに連れていく事など何とでもないと言っておったわ」


「連れて?」


「爺上専用の馬車で余とディートハルトをクリセに連れってってくれるのじゃ~!

 いや~、今から楽しみじゃのう」


「そ…そうですか……」

(じじーがもれなくついてくるとは……)


……――……――……――……――……――……――……


 馬車の中、ディートハルトとアグネスは並んで座り、向かいの席には皇帝が座っていた。


「…………」

(気まじい……)


 馬車で皇帝と同席となり、予想だにしなかった耐え難い空気に必死に耐える。


「どうしたディートハルト、今日は妙に静かではないか……

 いつものへらず口はどうしたのじゃ?」


 ふと気がつけば、アグネスが俯くディートハルトの顔を覗き込んでおり、心配そうに問いかける。


(姫! 今は黙っていてください。)


「へらず口?」


 皇帝の眉がピクっと動いた。

 皇帝からすれば、護衛が姫にへらず口を叩くなどありえない。


「うむっ!

 ディートハルトはいつも余に屁理屈を並べ立て口ごたえばかりするのじゃ。

 これを正論でねじ伏せるのが中々難しくての~」


(正論を言っているのは俺の方でしょうが!)


 アグネスは日頃のディートハルトのやりとりを嬉しそうに語る。


「ほっほっほっ、中々面白いのう。

 じゃがなアグネス、一つ、思い違いをしておるぞ?」


「思い違い~?」


「皇帝が、下々の者を正論でねじ伏せる必要はないのじゃ。

 何故なら、皇帝が黒と言えば、例え白いものであってもそれは黒となるからじゃ」


「そうであったか~。

 余もまだまだじゃのう」


「ふっふっふっ、まあ、少しずつで良い!

 一歩一歩覇道を進むのじゃぞ?」


(やはりこのじじーは姫の教育によくないな……

 いっその事、ここで殺るか……

 さすれば、皇太子様が晴れて皇帝となり、国家は安泰。)


 ディートハルトは湧き上がる殺意を抑えきれなくなっていた。


「試してみるか? 小僧?」


 殺気を感じ取った皇帝はそれを返すようにして殺気を放つ。

 ディートハルトはその瞬間、死を覚悟せざるを得なかった。

 

 ガバッ


 ディートハルトはベッドから身体を起きあがらせる様にして目を覚ます。


「はあっ……はあっ……」


 周囲を見渡し、自身の部屋である事を確認し安堵する。


「夢か……」

(こんなんじゃダメだな。

 心身共に強くならなければ……)


 この日からさらに鍛錬に励むディートハルトの姿があった。

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