傲慢娘
私は馬車の中で、飲んで食べて出した。
思えば丸2日ほど何も食べていなかった。
試験最終日の朝にお母さんが握ってくれたおにぎりを2個食べたっきりだった。
赤鬼の馬車の中で目覚めてからは数時間で細目に引き渡された。細目の馬車に乗って数時間で外が暗くなったので、意外と長く赤鬼の馬車の中にいたのだと思う。
昼夜の流れが一緒であればの話だが。
細目には色々質問したかったのに出来なかった。細目への恐怖が大半であったが、喉の乾きで喉がひりついて声が出なかったというのも多少あった。
今まで生きてきて、こんなに喉が渇いたことはなかった。
カゴの中に入っていたコルクで栓をした瓶の中身は水と甘いリンゴのジュースとワインのようなお酒だった。500ミリのペットボトルよりは大きめの瓶が10本。5本のお酒以外は全部飲んだ。食べ物はパンと干し肉が入っていた。量は多分、3~4人分は入っていた。全部食べた。
1回、本気で死のうとして死ねなかった。そして、1人じゃないことに安心感を得てしまった。
もう自分から死ぬ事はないと思う。
いや、ないと思うではなく、ない。
もう2度と身勝手な思いで命を道連れにはしない。
そう思うとこんな状況ではあるが、自然と食欲も湧きカゴの中身を全て平らげてしまった。
ポコちゃんの為には栄養を取らねば。
トイレは、パンと水を入れて試した。パンを入れて蓋をすると3分程開かなくなった。パンを入れて10秒数えて蓋を開けようとするを繰り返して18回後、蓋は開き中には何も入ってなかった。次に少し水を入れて同じ事を試した。水の場合は、10秒6回。つまり1分で蓋が開いた。中にはやはり何も入っていなかった。
一気に水分をとったせいで尿意は限界だった。安心は出来なかったが謎の箱に出した。
1分後、開けて確かめると匂いも何もなかった。
やはり、細目が言ったようにここは異世界なのかもしれない。
この真四角なトイレは、どこかの国の最新技術かもしれないが、馬車の窓から見える未開発的な景色とのギャップがありすぎる。
(異世界、魔法、奴隷……私どうなるんだろう)
不安しかなく、私はずっとお腹をなで続けた。
「この部屋で呼ばれるまで待っていろ。」
細目の手下の1人が私を馬車から降ろし着いた先の建物内の一室へ押し込めた。
すぐに部屋の中にいた1人の少女が、黒服づくめの男に突っかかった。
髪の色は金髪で腰まであり、天使の様に可愛らしい顔をしているが、目つきがかなりキツく、態度は傲慢。そのせいで可愛さが軽減されている気がする。服装は黄色のワンピースを着ている。
「ちょっとあんた。お風呂に入れる薔薇を持ってこいって言ってるのに、全然持って来ないんだけど!私はいつも体を最高の状態に維持しているのよ。少しでも金貨を上乗せしたいなら薔薇持ってきなさい。いいわね。」
金貨を上乗せという言葉に首を見ると、その女の子の首にも首輪がついていた。
「ああ。分かった。」
私を連れてきた男はめんどくさそうに頷き、部屋から出ていき、外から鍵をかけた。
私は部屋の入り口に立っていると、その少女が私をチラッと見て、
「何見てんのよ?私の事気安く見るんじゃないわよ。」
と言いながら、チッと舌打ちをした。
「あ、の。どこに居たらいいですか?」
私が聞くと、また舌打ちをして、
「知らないわよ。私に話しかけないで。」
と言い放った。
そこに、黒づくめの男が来て、少女に薔薇の花が入ったバスケットを渡した。
部屋を見渡すと、ベッドが3つ並んでおり、格子戸の嵌まった窓際に小さなソファーが置いてあったので、少女の様子を見ながら、ソファーに腰かけた。
少女は、私の事を気にすることはなく、その場でワンピースを脱ぎ捨て、裸で薔薇の入ったカゴを持ち、奥にあった扉のなかに入って行った。いきなりの事で、つい見てしまったが、すごく綺麗な裸体だった。
「ふん、下着は用意しないなんて、あいつら変態だわ。」
さっきと同じ型のピンクのワンピースを着た少女が乱暴にドアを閉め、扉横の四角い箱から液体の入ったビンを取りだし、ベッドサイドのテーブルに置いてあったグラスに中身を注ぎ一気に飲み干した。
すると、タイミングを見計らったようにドアが開き、さっきの男が入ってきた。
「食事だ。」
男は二つのカゴを持っており、先に少女の方へ1つを渡した。
「あら?そっちのカゴの方が多いじゃない?なんで?」
男が意味深に口を歪ませ、
「ああ、二人分だからな。」
と言いながら、私にもカゴを渡してきた。
「明日の朝までに風呂に入って全身磨いとけよ。入ってなかったら、俺が無理矢理入れるからな。」
どこか好色な響きを感じ、悪寒が走る。気持ち悪い。
オトコハコワイ………
吐き気がして、生酸っぱいものを無理矢理飲み込んだ。
目に見えて真っ青になった私を見下ろし、カゴを押し付けると男は出て行った。
「ふーん。二人分、ね。」
少女が近づいてきて、カゴの中身を見比べ、勝手にカゴを交換した。
「あんた、結婚してんだ。」
その少女の勝手に振るまいに茫然としていて、正直に、結婚はしていないと答えてしまった。
「はっ?結婚してないのに、妊娠してんの?なんでそんな女が私と同じ部屋なの?あんたにそんな価値あるの?うわぁ、売女と同じ空気吸ってるとかヘドが出るわ。気持ち悪い!!」
天使の様な顔の少女の口から飛び出す罵詈雑言に唖然としてしまう。
売女………あながち間違いでもない。
自嘲気味な心境になる。
しかし、初対面の会って間もない人に言われる筋合いは……顔を上げ、口を開きかけると、少女は見下した目で言った。
「まっ、どうでもいいけど。あんたはどっかの汚いオヤジの奴隷になるんだろうし。」
それは、ここにいる時点で少女も同じなのではないだろうか?
疑問が顔に出ていたらしい。
「ふん、私の事は、私を愛するお父様が助けてくれるわ。誘拐されただけで奴隷とかありえないもの。あんた、それ食べるんだったら、あっちのお風呂場で食べなさい。同じ部屋で食事とか気持ち悪いから。」
………私がこの人に何した?
どうして、ここまで貶められなきゃいけないのか。
でも、何かを反論しても100倍で反って来そうだ。私はノロノロと扉を開け扉の中に入った。




