奴隷商
赤鬼みたいな男に馬車から降ろされ、真夏実は1人の男に引き渡された。その男は中国系の顔をしていた。身長は低く真夏美と変わらないぐらいだ。長い青色の髪を後ろで三つ編みにしていて、目は開いてるのか分からないぐらいの細目だった。服装は上から下まで黒一色。
赤鬼みたいな男と細目は真夏実の前で話をしていたが、やっぱり何て言っているかわからなかった。
細目が上から下まで真奈美を値踏みするように見た。そして、赤鬼に向かって3本指を立てた。それに対して赤鬼は顔を赤くして怒り、真奈美に何か怒鳴り散らした。真奈美が何も言わないでいると、赤鬼が真奈美につかみかかろうとした。そこに細目が割り込んで赤鬼に何か言った。それに赤鬼はしぶしぶうなづいた。
細目が合図すると細目の下で働いているのであろう男がどこからか布袋を持ってきた。
その袋の重さを細目が確認して、赤鬼に渡す。赤鬼は中身を取り出して丁寧に数え始めた。
布袋の中身は金貨だった。赤鬼が丁寧に数えているので、真奈美も一緒に数えてしまった。金貨50枚。それを満足そうに布袋にしまい、赤鬼とその仲間はどこかへ去っていった。
………私は赤鬼に売られたらしい。
森の中で。
そして、細目が真奈美に色々話しかけてきた。
真奈美は言葉が分からなかったので返事ができなかった。
すると細目が後ろに控えていた男に何か言った。
しばらくして、変な格好をした男が来た。
ブラウンのローブで全身を覆っていて、肩まである長い杖を持っている。
細目がその男に何か言うと、その男は真奈美の前まで来て、いきなり真奈美の頭を掴んだ。そして、目の前で何かをブツブツつぶやく………
急に、真奈美の耳の中でキーンと耳鳴りがし、頭の奥が熱くなる。
次にローブの男は真奈美の首に首輪をはめて、またブツブツとつぶやいた。
一瞬の事だった。
「私の言葉が分かるかな?」
細目が日本語を喋った。そんなに流暢に喋れるんだったら、ずっと理解出来ない言葉で話してきたのは何だったのだろうか?
真奈美の表情で言葉を理解したのが分かったのか、細目は話を続けた。
「君はここがどこかわかるかね?」
どこか?わかる訳がない。
さっき降ろされて知ったが、私が乗ってたのは古い馬車だった。その周りには馬に乗った日本人ではない男達。
いつのまにか日本から連れ去られていたんだろうと私は思った。
どうやってかはわからない………
薬でも飲まされたのか?
私は首を横に小さく降った。
さっきいきなりつけられた首輪の後ろの部分がちくちくした。
「君は、異世界から来たんだよ。今そこのヨナスに言葉通じの魔法をかけてもらったんだ。ちなみに、今日から君は奴隷になったから。」
言葉はわかるのに言っている意味がわからなかった。
異世界?魔法?奴隷?
「あ、あの。」
声を出した私を無視して、細目はヨナスに指示を出している。私の身体検査をしろと。私に病気がないか、その他異常はないかを調べろと言っている。
異常………
その言葉でつい両手でお腹をおさえてしまった。
ヨナスが手のひらを私に向けて、またブツブツ言う。手のひらから青い光が出た。
その光が私に突き刺さった。痛くはない。
ヨナスが少し驚いた顔をして、
「ユン様、この少女、病気などの異常はありませんが妊娠してます。」
と細目に報告した。
そのことを聞き、細目がニチャァっと笑った。ゾワッと鳥肌が立つ。
「そうですか。そうですか。生娘じゃないのは残念ですが異世界人で妊婦。いいですね。妊婦。好きな人は好きですからね。」
いやぁ、いい買い物しましたねぇと言いながら、待機していた別の男に何か指示を出した。
私はまた馬車に乗せられた。
今では足のロープは切られている。その馬車はとても綺麗で2台繋がっており、私は後ろに乗せられた。
中はとても乗り心地が良さそうなかんじで、ふわふわのクッションが敷き詰められていた。
「普通、奴隷にはこんな待遇はしませんよ。ですが、あなたは特別です。三日後に大きな競りを開催します。この馬車はその競りに出られるお得意様をお迎えに上がるためのものだったのです。どうしても、見てほしい商品があるとあの野蛮な盗賊の手下が言うもんですから来てみれば、思わぬ掘り出し物でしたね。ここに、飲み物と食事が入ったカゴがあるので好きに飲み食いして下さいね。」
細目はそう言って、座っている私の前にカゴを置いた。
「それから、これ。」
そう言って、カゴの横に真四角の箱を置いた。
「これは、簡易トイレの魔道具です。この中に用を足すと、あら不思議。臭いも何もかも分解され微かな灰になるのです。ここから目的地まで約1日かかりますので、ここに小でも大でもして下さいね。」
細目は、また少しあの怖い笑いかたをして、最後にと付け加えた。
「あなたの首に着いてる首輪は今のところ、私がマスターになっています。もし逃げても、どこにいるかわかるようになってます。万が一逃げた場合はお仕置きしますからね。」
お仕置き、痛いですよぉ
と私を脅して細目は去っていった。
ドアが閉められ、馬車が動き出す。
私は首に手をやり、首輪が外せないかやってみた。ビクともしない。
いつのまにか着けられていた右腕の腕輪と一緒だ。無理やり外そうとするとピリピリ痛くなる。
動いている馬車の中でふわふわのクッションを一つ手に取りギュッと抱きしめる。
そのクッションからは薔薇のいい香りがした………
冒頭部分
赤鬼「おい、その魔力封じの腕輪を返せ!」
細目「では、その腕輪の譲渡代も含みまして、金貨50枚ではいかがでしょうか?」




