破落戸
やけに長いなと思った。
10秒程で下に激突して死ぬんだと思っていたのに。
「長い」と考える余裕さえある。
そして……
何かの膜を突き破ったかんじがした後、真夏実の意識は薄れた。
バシャーン
真夏美は大きな音を立てながら川に落ちた。
真奈美に意識はない。
その川はかなり深く、川底に激突する事がなかったおかげで体に傷はない。
しかし、そのままだったら溺れ死んでいたかもしれない。
川の回りには10人程の男達がいた。
男達はいきなりの水しぶきに呆然としていた。
「い、今の人だよな。どこから来たんだ。」
そんな声を囁きあってある。
その中でも体が大きく偉そうな男がそばにいたネズミっぽい顔の男に言った。
「おい。」
その一言に、ネズミっぽい顔の男は、へいっ。と言い、川に潜って行った。
すぐにネズミ顔は真夏実を連れて川から出てきた。肩に抱き上げたまま偉そうな男の前まで持ってきて、その前に寝かせた。
「頭ぁ、女だ。女。うわぁ、えらいベッピンじゃねぇか。」
遠巻きに見ていた男の中の一人が言った。
男達は女ということが分かり、興奮しはじめる。
「これは……」
頭と呼ばれた偉そうな顔をした男は真夏実をなめ回すように見たあと、上機嫌にニヤけはじめた。
「テト。温風の魔方陣と魔力封じの腕輪あっただろ?あれ持ってこい。」
テトと呼ばれたネズミ顔がさっと動く。
「頭ぁ、魔力封じの腕輪結構高くありやせんでした?」
「おい、バク。この女、何だと思う?」
「何って、ただの変な格好の女じゃないんすか?いきなり、どっから来たんでやんすかねぇ」
バクと呼ばれた男が答える。
グヒヒ
いつも以上に下品な笑い方をする頭。
そして、皆に聞こえるように立ち上がって声を張り上げる。
「よく聞け、お前ら。この女は異世界人だ!俺が狙ってた獲物だ。ここらへんでよく釣れるって聞いて張っていたかいがあったぞ。こいつをあいつら奴隷商に売れば大金が手に入るぞ。」
頭の声に、回りの男達がウォーと叫ぶ。
「お前達。この女には絶対手を出すなよ。手を出したやつはその場で死刑だからな。俺たちの大金ちゃんだからなぁ」
頭が叫んでる下で、テトが温風の魔方陣を発動させた。
一瞬で濡れている真夏実が乾く。温風の魔方陣は対象者を乗せて少し魔力をそそげば簡単に発動出来る。対象者の頭から爪先まで濡れているもの全てを乾かすのだ。
「テト。何してんだ。早くその腕輪はめちまえ。異世界人がなんかすげー力持ってたりするのは知ってるだろ?」
テトは頭のいう通りに真夏実に腕輪をはめた。
この世界において、異世界人はさほど珍しくはない。10年に1度は生きている異世界人が見つかるからだ。異世界人の死体でいえば2~3年に1度は見つかる。
この世界には魔法がある。
そして世界には魔力が溢れている。何かささいなきっかけ(力のある魔物の死体からだったり、強力な力のある魔法使い同士の衝突からだったり、自然発生だったり)から魔力溜まりができ、そこから異世界への道が繋がると研究者達は発表していた。
魔力溜まりの濃度は、場所によって異なり、すごく濃い魔力溜まりからこちらの世界に通じた異世界人は、その魔力に耐えられず死んだりする。もし耐えられても、この世界には魔物がいる。魔力溜まりを通ってくる際に魔力の祝福を受けていたとしても、右も左も分からない異世界で最初に遭遇したのが魔物であれば、あっさり魔物に殺されたりするのだ。
それらの条件をクリアして、生存して見つかる異世界人は現地の人々より強い力を持ってる事が多かった。
そんな異世界人が偉業を達成することも多く、異世界人がすごい力を持っているいうのは常識であった。
頭は魔力封じの腕輪をはめた真夏実をいやらしい目で舐めるように見た。
エルフを捕まえて一攫千金あてようと目論んでいたが、ちょろっと聞いた不確かな情報を頼りに、こんな辺鄙な所で1週間ボーッと過ごした甲斐があった。
生きてる異世界人。
黒髪で整ってる顔。
さて、いくらで売れるだろうか。
あいつら、いい商品には、ケチケチしないでそれなりの金をくれる。この女は特上だ。
今から笑いが止まらない頭だった。




