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そのひとなるは勇者のママなり  作者: リーシャ
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胎動



今日は2学期の期末試験の最終日だった。

試験中は帰るのがいつもより早い。


私は駅のホームで帰りの電車を待っていた。



ポコッ……



はじめはその感覚が何か分からなかった。

お腹が空いたからお腹が鳴ったのかな?と思った。


しばらくしてまたポコポコッとお腹の中で何かが動いた。


ああ、これは………


目の前が暗くなった。



薄々気づいてはいたんだ。だって気付かない訳がないし。

今まではご飯なんて食べなくて平気だったのに、最近の異常なまでの食欲。

ここ1ヶ月お腹だけ出てきたし、お腹の調子もなんか常におかしかった。

大きめのカーディガンで隠してはいたけれど隠すのも限界になってきていた。


それでも………


成長期がまだ終わってないのかも。と誤魔化した。成長期がまたやってきたせいで、食欲が増したんだなって。そのせいでたくさん食べてしまうだけ。たくさん食べてるのに、あんまり運動していないからお腹にお肉がついただけ。お腹だけが太ったように見えるのは気のせい。


生理もないけど、いつも生理不順だったし、なんかストレスで生理来なくなるとか聞いたことあるし……

って、言い聞かせてた。



ポコッ


まただ………



電車が来た。いつものように電車に乗る。


足が震えている。すぐ隣には優先席。

いつもの時間だと座れないその席も、昼過ぎのこの時間だと空いていた。


私はここに優先的に座ってもいい“権利”があるんだ。そう考えてしまった。


でも、座らない。座れない。いくら、足が震えすぎて立っているのがつらくても。

電車のドアにもたれかかって、ドア横の手すりを掴み込む。


………認めたくなかった……。


夏休みが終わった頃から少しずつ変化していく自分の体。生理はもともと不定期で2~3か月来ないことはよくあったけど、先月、計算してみると4か月来てなかった。

4か月も来ていないのはさすがにおかしい……かも。

でも、もう少ししたら来る……かも。

来る、よね?

そう思ったのに来ないまま、あっという間に1か月が過ぎた。


認めたくなくて、確かめたくなくて。


明日には来るかも、来週には来るかもって、ずるずると日にちだけが過ぎた。



降りる駅を通り過ぎた。

電車に揺られ、ボーッと見慣れない景色を見送る。

どうしようとも考えられない。

だって、もうとっくに手遅れ(・・・・)になっている。

お腹の中の何かが動き、それを感じるってことはそこまでそれが成長してるってことだ。


(そういえば、お母さんが言ってたな。)


5年前と3年前に妹と弟を妊娠した時に。


「私はね。自慢じゃないけど妊娠で苦労したことないのよ。つわりも感じたことないしお腹の張りもあまりなかったし。体重も増えなかったし。真夏実の時も全然苦労しなかったわ。」


って。


その時は聞き流してた。全く興味なかったから。








母が5年前に再婚して、生活が激変した。


それまでの日常は………


母はスナックで働いていた。


いつも夜は家にいなくて、朝方に帰ってくる。

そして、そのまま昼過ぎまで母は寝ていた。


でも、私が学校から帰ってくると、いつもおやつを一緒に食べてくれた。その時間が大好きだった。


当たり前だと思っていた日々はいきなり終わった。


母が妊娠したのだ。


母が連れてきた男性は悪くない人だった、と思う。知り合ってまだ半年だと言っていたが、母をとても大切にしているのが傍目から見てもよく分かったし、母は母でその人にメロメロなのが分かった。


その人、今では義父になったその人は、私を邪険にした訳ではない。しかし、私を見る目の奥が笑っていなかった。

私を受け入れてはいなかった。


母は仕事を辞め、専業主婦になった。


それが夢だったらしい。


それを聞いて私は母の重荷になっていたんだと思った。

義父は外資系の仕事をしているらしく、それなりに稼いでいるらしい。

あまり会話をしたこともないし、知りたいとも思わなかったから新しい父のことはいまだによく知らないことが多い。

その人は母と結婚し、大きな結婚式をあげて、大きな家を購入した。母と自分の子のために。

めまぐるしく生活が変わった。


ずっと母と同じ部屋で過ごしていたのに、部屋の数が5倍になり、一人部屋を与えられた。


真夏も一人部屋欲しかったでしょ?って。


欲しいなんて言ったことも思ったこともなかったのに………


母と義父は一緒の寝室。

新しく誕生した妹と弟も母達と同じ部屋で寝ている。

3階まである大きな家の1階にある私の部屋と3階にある母達の部屋。声もあまり聞こえない。

まだ小さい弟が夜中に泣いているとかすかに声が聞こえるくらい。



言い訳にしかならないと思う。

私がそれをし始めたのことへの。


環境が変わり、心に穴が空いたかんじがした。

何か悪いことをしたかった。


母や義父や妹弟の前ではイイコにしている自分。

それが嫌だった。


悪いことをしたかった。ものすごく。

母が気づけばショックを受けること。


だから、私は不特定多数の男性に身を任せた。

お金をもらって、体を売る。

やってはいけないこと。

真面目そうに見えるのに。お相手からよく言われた言葉。

そんな言葉に笑ってさえいた。


誰も本当の私を分かるわけがない。って。





自業自得。それが全て。



知らない駅でふらっと降りて、ホームのイスに座る。

そして、お腹を触る………


「よし、決めた。」


ポツリと呟く。















「死のう。」



私は死ぬことに決めた。


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