ワイバーン
隣町の『タウルス』近くにワイバーンが飛来した。
突然の襲撃に逃げ遅れた町民が被害に遭う。さらに運が悪い事に町民を道しるべにしてワイバーンを町まで招き入れる結果となった。
緊急クエストとして討伐に出た冒険者が数名犠牲になるが、辛くも撃退に成功する。
隣町という事でカルア村の冒険者ギルドでも少なくない動揺が走った。
しかしながら、タウルスとは違いカルア村の冒険者の質はかなり落ちる。それは周辺に生息するモンスターの最大ランクがDランクである事に起因していた。つまりこの村の冒険者では束になってもワイバーンは倒せない。
僕は急いでタウルスに向かう。タウルスに行くにはオークの森に続く門を利用。最近よく行く狩場の先にタウルスの町が存在する。
方角は知っていても、実際にタウルスまでは行った事がない。そのため整備された道を進もうか、野山を駆け抜けようか悩みどころだ。
簡易的な地図を片手に考える。
馬車が通れるほどの道を疾走すれば、通常徒歩で三日と言われる隣町でも迷わずにたどり着けるだろう。
走ればその分だけ時間を短縮できるとは言っても限度がある。さすがに村に数日戻らないのは不自然だ。
それに最近ヴェールさんとよく喋る。喋ると言っても、手続きの間に二言三言、世間話をする程度だが……。
そのため一日に一度は冒険者ギルドに顔を出しておきたい。
そうなると取れる選択肢は一つしかない。
山越えをして真っ直ぐ突き進む!
山を避けるように作られた道はどうしても移動距離が長くなる。
最短距離は至って明快。
しかし、バカ正直に登山する気はない。多少は山頂付近を避けて通りやすいルートを選ぼうと思う。幸い旧道と言われる今では使われる事のない道は存在する。
この数日間オーク狩りをしてカールが一五と二〇を一気に超えた。
一五で【捕食】、二〇で【誤魔化し】を取得する。
【捕食】というアビリティー。
説明によると『食べた物が血となり肉となる』ある意味では当たり前の内容が書かれていた。
戦闘にはほぼ貢献できていないカールでも食事はたくさん食べる。食費が多くなれば家計に響きそうだが、昔の野ウサギ狩りに比べると格段にモンスターの発見率は上がっている。
そのためカールには【豚肉(並)】を売ったお金で色々な食材カードの肉を食べさせた。
本来のウルフと違い、索敵と食事ばかりをしているため【気配察知】や【捕食】になったのか?
スキルとは使用したいタイミングで能力が一時的に発揮されるタイプのもの。
それに対して、アビリティーとはオンとオフが存在せず、常時ノーリスクで発動し続けているタイプのもの。
食事の恩恵が常に上がる?
いやいや、意味がわからない。
【噛み付き】はスキルだ。【捕食】はそれに付随した能力に思えるのに、なぜかアビリティー扱い。不思議で仕方ない。
レベル五毎にしか取得できない能力をとんだゴミアビリティー枠として使ってしまったと言うことか……。
【捕食】に関しては、いつか詳細がわかるだろうっと、今回は棚上げする。
【誤魔化し】はニオイによる追跡を困難にするスキル。【誤魔化し】と【隠密】の併用は逃げる上では最強コンボだ。
【誤魔化し】で嗅覚を遮断。【隠密】で気配を遮断。しかし、実体は存在するため発見は可能だ。方法は五感の『視覚』と『聴覚』をフルに活用する事。あとは……人間には不可能だが、蛇のような感覚器官で『熱』を感知するぐらいか……。
オーク狩りに時間を割いている間に不思議な事が起こった。
カールのアビリティーやスキル欄に五の倍数とは異なるタイミングで能力が複数覚醒していた。
【ジャンプ】、【聴力アップ】、【体当たり】、【殴る】、【咆哮】、【雄叫び】など。
これらはカールが普段全く使わない能力だ。
カールに聞くと、食材カードの肉を食べた時に取得したらしい。
あり得るのは【捕食】のアビリティー。
全部を食べずとも一部を食せればいいのかな?
【豚肉(並)】だって仲良く半分ずつした。
後日調理した【ウサギの肉】も半分しか食べさせていない。
試しに僕の血を一滴与えてみる。
【隠密】は取得できたが、【弓術】は覚えられなかった。原因は不明だ。だが、カールが弓を使って戦うシーンが想像できないので、これ以上は言及しない。むしろ覚えられた方が扱いに困ったし、助かった。
いくら【捕食】でも覚えられる能力と覚えられない能力がある事は確認できた。
一滴でも摂取できれば能力を覚えられるなら……。無駄足になる覚悟で山の中を走り抜ける。
途中で何度かオークが現れたので駄賃代わりに頂いた。
オーク狩りをしてレベルアップした僕ならタウルスを日帰りできるはず。
日の出と共に走り出した僕たちは、昼過ぎに無事タウルスに到着した。
カルア村の人口を少し増やして店舗を多くした感じ。特別すごい変わり種した印象は受けなかった。
それでも武器屋と防具屋が分かれていたり、服の種類が豊富になったり、路上で商売する屋台があったりして驚いた。
武器と防具はおっちゃんが、服屋はおっちゃんの奥さんが、飯屋はマリッサさんが営んでいる。
カルア村では必要最低限の生活ができるように需要に応じて一軒は店を構えていたようだ。
屋台で人生初の串焼きを買い食いする。
町民の食べながら歩く行為に戸惑いながら、屋台の横にある椅子でカールと共に食事にした。
道行く人をゆっくり観察すると、武器を所持している人の割合がとても多い。
カルア村では武器を持ち歩く人は冒険者に限られる。十中八九間違いない。
しかし、町の中とはいえ、武器は持つが防具を付けない人が多く見られる。護身用か? 田舎に比べて都会は物騒らしいから仕方ないか?
軽食を終えて聞き取り調査だ。
町民数人に声をかけてワイバーンの戦闘跡地を聞くが、怪訝そうな顔をするだけで誰も教えてくれなかった。
弓を担いで皮鎧を着ているせいで警戒されているか?
「知り合いがワイバーンとの戦いで命を落としたんです。花をお供えしたいので……」っと言うと手のひらを返したようにワイバーンが討伐された方角を教えてくれた。
これで場所がわかったのはいいが、とっても心が痛い。
言われた方角に一〇分ほど移動するとわかりやすいぐらいの戦闘の傷跡が残っていた。
「いつかこの力で恩返ししてみせます!」
手を合わせて黙祷をする。
僕らの目的は戦闘をした際に流れ出た血だ。
一滴で効果があるなら、いけるはず。
ワイバーンが撃退されたのは昨日の事。まだ雨は降っていない。そのため至る所でわずかだが血を確認する事ができた。
動物虐待になるが、これも強くなるためだ。
カールに血の付いた砂を与える。
ガリガリ咀嚼して飲み込んだ。
水で洗って流れ出た血を飲んでもらった方が良かっただろうか? しかし、どれだけ水を飲めば血一滴扱いになるのかわからない。戦闘の凄惨さから考えて一〇ヶ所以上では採血ができそうだ。全部を【捕食】する前にカールが水っ腹になりそう。
「大丈夫か?」
「ばう!」
元気のいい返事が返ってきたし、本当に大丈夫だろう。この辺はカールを信じるしかない……。
さすが、ワイバーン戦に駆り出されるランクの冒険者だ。
有用なアビリティーとスキルをいくつか得られた。
【偽装】本来は見た目や服装を偽装するのに使うが、能力を【鑑定】スキルから偽装できる。これはアビリティーなので一度設定すると再設定するまでそのままだ。
オーソドックスなウルフのスキルを転用。レベルは一七で【噛み付き】、【引っ掻き】、【雄叫び】にした。これは野良ウルフを矢で攻撃した時の血糊から取得している。
次が【回復魔法(大)】だ。メリーさんが持っていた魔法。きっと後衛にも被害が出て血を流したのだろう。
【身体強化】これもメリーさんが持っていた。別のタイミングで取得したので、さっきの人とは別人だ。やはりあれほどの使い手は相当珍しいんだと思う。
あとは【鑑定】相手のステータスを見ることができる。ワイバーンの強さや能力を調べるには必要な人材だったと考えると最低一人はいると思っていた。取得できたのは大きい。
回復魔法以外にもいくつか魔法を覚えた。ただし納得いかない能力も取得した。なぜ【弓術】は覚えられなかったのに、それを覚えられた? っと思える能力。【社交ダンス】、【勘定】、【料理】など。他にも戦闘には関係ない能力が多数。
【社交ダンス】するカール……いつか見れるのだろうか?
そしてメインディッシュの大きな血だまり。
ワイバーンの血だ。
カールが地面を舐めた途端、ガクッと崩れ落ちてそのまま苦しみ出した。
慌てて【ポーション】を出しても、首を横に振るだけで、飲もうとしない。こうなるともう僕には打つ手がない。僕に出来る事はカールの背をさすってやるだけ。少しでもカールが落ち着いてくれればいいが……。
幸い徐々に症状は治まってきたので、一安心。
覚えた能力はあるんだろうが、カールが扱い方に困っている。
さっきまで覚えたらすぐに使えたのに……。
一旦カード化してステータスを確認する。
とうとうカールの種族はGランクのウルフじゃなくなった。
ウルバーンという新種。レベル継続、ランク不明。
ステータスは一新されて目を疑うほどパワーアップをしている。簡単に言うと全ステータス一〇倍。正直ドン引きするぐらいには強い。
それだけじゃなく体力や魔力と並び、竜力という枠が表示されるようになった。
竜の力を備えてウルフを卒業できたのだろう。さっきの苦しみは肉体改変の類か……。
本来は事前準備がしっかりされてから進化現象が起こるからすぐに馴染むが、カールの場合突然変異の進化だったようだ。
他に気になるのは【飛行】というスキル。なぜか翼もないのに覚えた。【弓術】は腕がないから取得できなかったと仮定したのに、僕のアビリティーが惨めだ。
一日無駄にする覚悟で来たが、大収穫だった。
カールのカード化を解除して、調子を確かめる。
どうも背中が痒いらしい。
毎日カールを縮小化させて、お椀風呂に入れている。だから、原因は汚れ以外にあるのだろう。
とにかく僕の手に背を押し付けてくるので、掻いたり、撫でたり、揉んだりと色々やってやる。
「ばう!」
突然声を出したと思ったら、手から離れていく。
二、三歩進み距離を取る。
バサッと背中から翼が生えてきた。
半透明で触れる事はできない。だが、この実体しない翼を補っているのが竜力だと思われる。
広げた翼には薄い皮膜。色はカールの毛と同じ茶色をベースに黒色と白色で構成されている。
飛ぶための翼を得ていたから【飛行】は取得できたのか……。
最初はあっちにフラフラ、こっちにフラフラしていたが、五分もすれば自由に飛べるようになった。
空を飛べるとは実に羨ましい。
カールには右前足がないが、空を飛んでいれば特に関係ない。【引っ掻き】は左前足限定になるが……。
カールに外套をかけてやる。人間用なので顔しか出せない。サイズは合わないけど誰かに目撃された場合のカモフラージュになればいい。
僕はカールの後ろ足二本にぶら下がり帰路につく。進化前のカールでは力不足でできなかっただろうが【身体強化】も合わせれば僕をぶら下げたままでも、飛行モンスターにスピード勝負で勝てそうなぐらい速い。