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前哨戦

「どうやって町に入ろうか?」

「考えていなかったのですか?」

「調べ物をしたくて来ただけだからな……」

「調べ物ですか? ここって図書館の町ですよね? 何を調べるのですか?」


「【狂戦士】を無効化する方法だ」

「えっ? わたしのためにわざわざここまで? 無駄足になる可能性もあるのに……。ありがとうございます、ご主人様。わたしはこのご恩を返せるでしょうか……」


 恐縮してしまったミラは俯いてしまう。


「気にするな」


 フードの上から頭に手を置いて落ち着かせる。

 確かにミラのためというのももちろんあるが、主に自分のためだ。

 ミラと対等の関係でお付き合いがしたい。その上でゆくゆくは結婚を……。


「ご主人様のギルド証はまだ更新されていませんのでDランクのままです。今回はわたしのギルド証を使ってパーティーメンバーという事にしましょう。多少の手続きは省けると思います」

「わかった」


 ここは町だから『一般向け』と『冒険者用』の出入口が分かれていない。市民と一緒に列に並んで順番を待つ。

『それ以外』の要職たちが来た場合は列を無視して優先される。

 村は訪れる人が少ないため出入口で行列になる事は少ないが、基本は町と村で同じシステムだ。


 僕がDランク、ミラが元Bランク。

 ランクが高いギルド証を前面に押し出す方が手間が少ない。

 ところが、ミラの容姿を見た門番の男二人がローブの中の確認を迫る。

 鼻の下を伸ばしやがって……。


「わたしなら大丈夫ですから……」


 大丈夫じゃない、大丈夫発言に我慢の限界が来そうだ。拳をギュッと握って耐える。

 ミラはまず背負っている布団を台に乗せた。


 ここで僕が暴れて入町を拒否されれば、今後【狂戦士】について調べる手段がなくなってしまう。

 深呼吸だ、深呼吸。

 自分のため、ミラのために耐え抜くしかない。

 だが、ミラは僕以外の目に触れるのは嫌だと言った。


 ミラが僕の様子に気が付いて微笑む。

『大丈夫ですよ』っと耳元に顔を近付けて小声で言う。

 僕にはそれが全然大丈夫に聞こえない。


 やはり順番を間違えた。

 Aランク試験に合格してからのんびり図書館の町に来ていれば審査を素通りできたはずだ。


 引き返そうか悩んでいる間にミラがローブを脱ぐ。

 僕は目を軽く閉じて門番たちの顔を無理やり見ないようにした。見てしまってはきっと殴り飛ばしてしまう。

 しかし、僕の予想していた展開とは違い、周囲にどよめきが走った。


「「ヴァルキリー装備!」」


 門番が同時に驚きの声を出すと慌ててギルド証を返してくる。

 ミラは勝ち誇った顔をしながらギルド証を受け取ると、ローブを再び着た。

 そんなミラを僕は無言で凝視してしまう。


――――――――――


「ふふふふ。女の一人旅の時はもっとセクハラをされたものですよ。鞄の中身を全部チェックされて下着を盗まれた事もあるのです」


 聞いてもいないのに、武勇伝を語り始めた。

 下着を盗まれたって、それは立派な窃盗ではないのか?

 その都市の門番は本当にそれで許されているのか?


「きちんと冒険者ギルドに訴えて門番を処罰しました! 下着は……証拠の品とか言って返ってきませんでしたが……」


 きっと証拠の品とか言った奴も処罰すべきだぞ!


「それはどこの都市だ。今から僕が行って成敗してやる!」

「うふふふふ。もう過去の話ですよ」

「だが……」

「わたしは本当に大丈夫ですから、そんな悲痛な顔はしないでください。それにヴァルキリー装備のおかげでヘイクディ・クララさんの再来と思われたかもしれません。今回はご主人様に守られました。えへへへへ」

「でも、無理やり連れて来なければ……」


 あんな不愉快な思いをさせずに済んだ。


「もうっ! 次にわたしを置いていくような発言をしたら、いくらご主人様でも怒りますよ! わたしがご主人様と一緒にいることを望んでいるのです。これぐらいで気に病まないでください。それよりもどこかで食事を取りましょ? お腹に物が入れば元気一〇〇倍ですよ!」


 ミラ自身が門番の嫌がらせを気にしていないのに、僕がいつまでも引きずるわけにはいかない。ここは気持ちを切り替えよう。


「あぁ、そうだな。奢るから好きなのを食べてくれ」

「えへへへへ。実は職場の帰りだったので、そんなに持ち合わせがありませんでした。遠慮なくいただきますね」


 素直に懐事情を言うところはミラの美徳だと思う。

 ここはわたしが……、いや、僕が……みたいな問答をせずに済んだ。

 それだけじゃない、お金がないのを隠すために『お腹が空いていないからいりません』を言い続けられても困った。


 道すがら周囲を見ると、まだ早朝という事もあり店が営業していない。そのため屋台で食事をしている人が多かった。


「ご主人様は立ち食いでも大丈夫ですか?」

「僕は大丈夫だけど、むしろミラの方こそ大丈夫なのか?」


 屋台の椅子がどこも満席状態だから仕方なく立って食べている人がいる。

 席が空くまで待ってもいいが、椅子争奪戦に勝てるとは限らない。それなら最初から期待せずに立ち食いをしようという流れだ。


 僕は田舎の村出身で食べ歩き経験をしたのはついこの間だが、カールに連れられて色々な屋台を食べ歩いた。


「これでも元は冒険者ですよ?」

「…………そうだったな」

「あー。今の間は忘れていましたね? 誰のギルド証を利用して入町したか覚えていますか?」

「ミラのギルド証です」

「そうですよ! えへへへへ」


 考えればすぐに思い出せる。

 でも、ミラが戦闘しているイメージって【狂戦士】の時だけだ。あの姿は普段のミラからはかけ離れ過ぎていて合致しない。加えて仕事モードのミラならわからないが、甘えん坊のミラでは戦闘経験なしに感じてしまう。


「今はご主人様の奴隷です。何を食べたいですか? わたしが並んで買って来ますよ」

「なら……目の前のこの屋台に並ぼう」

「わたしが一人で並びますよ。ご主人様はゆっくり休んでいてください」

「一人で並ぶより、二人で並んだ方が楽しくないか?」

「え? あ……はい。そうですね」


 ミラの手を握ったが【ヴァルキリーガントレット】の装甲があって、直には触れなかった。

 ミラが不思議そうに繋いだ手を見てから、妙案を思い浮かんだ顔で【ヴァルキリーガントレット】をカード化する。


「えへへへへ。きっとこの方が楽しいです!」

「あぁ。そうだな」


 ミラの手は冒険者の手だからスベスベではない。斧を振り回してできたタコがいくつもある。

 引退してからもストレス発散のために山に入っていたからタコは消えていない。


「ご主人様の手の方がプニプニしていますね」

「そうか? ミラの手の方が柔らかいと思うが……」

「斧タコがいっぱいですよ……」

「【ヴァルキリーガントレット】には女性に優しい機能はないのか? ほら、スカートみたいに……」

「えーっとですね。【完全保護】です。魔力を先渡しした分だけダメージを肩代わりしてくれます」

「それってヴァルキリー装備共通じゃなかった?」


 手なら手、足なら足にそれぞれ魔力を注がなくてはいけないが、一時的な絶対防御が可能だ。


「そうですが……。残念ながら他にはないですね」

「ないのか……。【回復魔法(大)】【状態異常回復】」


 ミラの両方の手のひらに手を(かざ)して皮膚の回復をさせた。


「えっ?」

「今後、斧を振り回す時は【ヴァルキリーガントレット】を装備しておけよ。マメができないように保護してくれるはずだぞ」


 ミラは手からタコが消えてビックリしている。

 下手にタコが消えると、今度はマメができて痛そうだからしなかった。


「あ、ありがとうございます!」


 手をグーパーグーパーしている。

 そんなに喜んで貰えるなら、もっと早くしてやれば良かったな。


――――――――――


 屋台料理は豚汁から始まり、豚汁で終わった。

 と言うのも、単純な話で買ったら横の屋台に並ぶを繰り返していただけだ。

 一つ一つにそこまでの量はないが、一つを二人で食べてたくさんの屋台を楽しんだ。


「たくさん食べたら、昔を思い出しました」

「昔?」

「はい。屋台の食べ物を制覇しようと仲間と勝負した事があったのです」

「仲間?」

「迷宮に挑む時に組んでいたパーティーです。今はどこで何をしているのか……」


「ミラ! ミラだろ? やっぱりミラだ。あぁ美しい黒髪を見るとついつい顔を確認する癖が付いたよ。君の黒髪は誰よりも美しい」


 屋台巡りをしていたら突然後ろから回り込んできた男に声をかけられた。

 ミラはいきなり髪の毛に伸ばしてきた手を華麗に避ける。


「その失礼な態度はカリテですか? 前にも言いましたが、わたしの髪の毛に触ろうとしないでください!」

「俺とミラの仲じゃないか。つれねーな」

「誤解を招くような言い方はやめてください!」


 ミラがこんなにも拒絶反応を示すのは初めて見た。いや、僕の事を暴漢だと勘違いしていた時以来か?


「Aランクになったし、今なら君に誇れる男になれたと思う。あの時の想いは今も変わらない。俺のそばで俺を支えてくれないか?」

「Aランクになったのですね。おめでとうございます。ありがたい申し出だけど、ごめんなさい。わたしはもう結婚を約束した人がいるのよ。だからわたしの事は諦めてちょうだい」


「なんだと? その男は俺よりも強いのか?」

「えぇ、カリテより強いと思うわ」

「Sランクの奴か? Sランクのどいつだ?」

「…………」


 自分より強いと言われて即Sランク冒険者を聞くあたり、このカリテという男は実力に相当自信があるのだろう。

 ミラの容姿を考えると口説く冒険者の中にAランクやSランクがいても不思議じゃない。

 しかし、ミラはその問いに困り果てている。


「僕がミラの旦那だ」


 ミラが巻き込んで申し訳なさそうな顔と名乗り出て助けてもらえた喜びとが入り混じった顔をしている。

 ただ、それもすぐにヤバいって顔になった。


「貴様がミラの旦那だと? 見たことのない顔だな。ランクはいくつだ?」

「……Dランクだ」


 更新手続きを行えば今すぐにでもBランクに上げられるだろうが、残念ながらまだ更新はしていない。


「Dランクだと? ふざけんなよ。ミラがそんな奴を選ぶわけないだろ! さてはミラの弱みでも握ったんだな!」


 ランクは確かに低い。弱みを握っているかと問われれば確かに握っているような気がする。

 その弱みを握っている状況が嫌だから、ここまで足を運んだんだ!

 僕だってミラと対等の立場で付き合いたい。


 悔しいが言い返す言葉が見つからない。

 今度は僕が返答に困る番だった。


「テメェのようなクズ野郎からミラを救い出してやる。俺と真剣勝負しろ!」

「カリテはAランクでしょ! Dランクと勝負してもいいと思っているの?」

「自分の発言に責任を持てよ。その男は俺より強いんだろ? なら、問題ねーじゃねーかよ。それともさっきの言葉は嘘で、俺から逃れるためか?」


 ミラが確かにカリテより僕の方が強いと言った。Aランク冒険者からみればDランク冒険者より弱いと侮られた行為だ。


「あぁそうか、ミラは金と結婚するような女だったのか……。なら、俺が倍の値段で買い取ってやるぞ?」


 ミラはお金のために身売りするような女じゃない。

 わかりやすい挑発だが、ここで受けなければミラが恥をかく。


「…………わかった。勝負しよう」

「ふん。そうこなくっちゃな」


 僕が勝負を受けるとミラが慌て出す。


「イルさん! こんな勝負受ける必要はありません!」

「ミラは黙っててくれ。僕はコイツがどうしても許せないんだ」

「イルさん! ダメです! Sランク冒険者になるのでしょ? ここで国の保護対象のAランク冒険者と不祥事を起こせばSランク冒険者の道が断たれますよ!」

「Sランク冒険者がなんだ! そんなものより僕にはミラの名誉の方が大事だ!」


――――――――――


 真剣勝負という事で、冒険者ギルドの模擬戦を行う闘技場を借りる。

 場所の利用料はカリテが支払った。本来は負けた方に支払い義務が課せられるのだが、今回のような一方的にケンカをふっかけた場合は例外になる。


「時間を置いたら、逃げる可能性があるからな。今すぐ始めようぜ。俺が勝ったらミラは俺がもらう、貴様が勝ったらもうミラには付きまとわない」

「それではご主、旦那様が勝った時の見返りがありません。それともわたしの価値は、その程度なのですか?」

「けっ! 今度は『旦那様』だと。もうそろそろその夫婦ごっこをやめたらどうだ?」


 ミラが掛け金をレイズしていく。いや、掛け金は変わっていないか。


 そもそもミラを賭けの対象にする事に納得がいっていないが、今後もミラの周りをウロウロされても困る。

 ここは腹を(くく)って我慢するか。


「そうだな……。俺の手元に【ヴァルキリーアックス】がある。見たところ【ヴァルキリーアーマー】を装着しているようだし、それでいいだろ?」


 ローブは着ているが、首もとには白い生地と赤いラインが見える。

 手には再び装備した【ヴァルキリーガントレット】の装甲が覆っているし、全然隠せていないか……。


 それより、この男うまいことを考える。


 自分が勝てばミラを手に入れ【ヴァルキリーアックス】を渡せられる。もし負けた場合でも僕たちのパーティー構成を考えれば【ヴァルキリーアックス】はミラが使う事になる。


 きっと【ヴァルキリーアックス】はミラのために手に入れたのだろう。



 ミラが僕に近寄り声をかけてくる。


「ご主人様、わたしはご主人様を信じています。カリテは……」

「ミラ、相手の情報を聞くのはフェアじゃない」

「ですが! いえ、わたしがご主人様を信じれば、助言など不要でした。必ず勝ってくださいね」

「……あぁ」


 ミラが僕とカリテの間まで歩み寄る。

 ミラ自身が開始の合図を出すためだ。


「別れのあいさつは済んだか?」

「別れのあいさつ? そんなものしてないぞ。今夜は背中を流してくれってお願いしていただけだ。気にしないでくれ」

「けっ! いけ好かない野郎だな。あの世で後悔しやがれ」


 カリテがモンスターカードを召喚していく。最大の五体だ。


 きっとカードホルダーで装着カードも使っていると考えて間違いない。

 手に指輪らしきものはなかった。つまり最低三枚のモンスターカードでステータスをアップしている。

 ミラもそれに気付いてこちらに駆け寄る。駆け寄りながら【ヴァルキリーガントレット】の上からはめていた指輪を外す。

 外した事で装備効果を失い、指輪が通常サイズに戻った。


「おっと。これ以上の情報交換はなしにしてもらおうか。ま、昔の俺しか知らないミラにいくら助言されても困らないんだがな」


 カリテが楽しそうにゲラゲラ笑う。

 ミラが指輪型のカードホルダーを渡そうとしていたのはわかっていたはずだ。それを何食わぬ顔で邪魔してきた。

 ミラは悔しそうな顔をして戻っていく。



「【カール】、オープン」


 普段は出しっぱなしにしているが、門番のところで一悶着あった。

 ミラを念入りに取り調べできなかった腹いせだと思うが、町中でモンスターカードのカード化を解除し続けてはならないと言われた。

 嫌なら入町を許可できないそうだ。


 一生出せないわけじゃないから、その場は了承した。


 ミラも僕の手札を理解してキュウちゃんを下げたのはわかるのだろうが、見た目の戦力差がすごい。


「なんだそのウルフ、前足が一本ないじゃないか。俺が新しいウルフを買ってやろうか?」


 またもゲラゲラ笑う。

 火竜の再生能力はアビリティーやスキルではなく、種族固有能力だった。種族固有能力は【捕食】でも覚える事ができない。



 朝一とは言え冒険者ギルドでミラの容姿を拝んだ男たちが観客席を埋め始めた。

 そんなギャラリーもカールを指差して笑っている。


「くぅ~ん」


 カールがごめんね。って謝ってきた。

 僕はカールの頭に手をやり落ち着かせる。


「笑いたい奴には笑わせておけ。僕はカールの強さを知っているよ。正直ミラよりもカールの方が信頼できる」


 今度はミラがダメージを負った。めんどくさいな。

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