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僕の勲章たち

 興奮状態では疲れを忘れるのか、たくさんのアビリティーやスキルを取得した恩恵でステータスが一気に底上げされたからなのか、結局夜中いっぱい野山を駆け回った。


「カールはずっとこんな世界を経験してたんだな……」

「ばう!」


 拾ったドロップカード四枚を見ながら改めて自分の能力アップを実感する。


――――――――――


 正直僕はミラの動きに付いていけなかった。

 でも、カールは違う。僕を守りながら戦うほど、カールの能力はミラを超越していた。


 そしてカールの血を【捕食】経由で取り込んだ僕の体はカールの【飛行】を除く全ての能力を受け継ぐ。

 ところが種族の差とは残酷だ。同じ能力を保持していたとしても、同じステータスには到達できない。竜に連なるカールと()()の人間とでは基本性能が大きく違う。


 しかし、カールの血を舐めた僕には竜力の他にもカールには発現しなかった【竜戦士】というアビリティーが追加された。

 説明書きには『竜の加護を受けし者』とある。なんか違う気がするが……別にいいか。


 これによりやっと生身の人間の枠を抜け出し、カールと同等レベルまで強くなった。


「くぅ~ん」


 自分は取得できなかった能力を覚えた僕にカールが寂しそうな声をあげる。


「カールは【竜戦士】を得なくても十分強いから気にするな」

「くぅ~ん」


 頭を撫でながら説得しても気にしているらしい。

 カールは自分の境遇を救った僕を守るため、貪欲に強さを求めている。

 僕もあの時カールをモンスターカードにしていなければ、今でもカルア村で野ウサギを狩っていただろう。もしくは、無謀にもオーク狩りをして身を滅ぼしていたかもしれない。

 僕だってカールに感謝している。まずはカールの足を治すのを目標にこれまでも、これからも頑張っていくつもりだ。



「さて、お喋りの時間は終わりだな。また食べられない鳥さんの登場だぞ」

「くぅ~ん」

「せっかく戦うんなら食材カードを残すモンスターがいいよな……」

「ばう!」


 シルバーレインから真っ直ぐ北東に進んだ先に見えてくるイオルリ火山に来ている。

 信じられない事に、火山口から流れ出る溶岩の川で水を飲むように溶岩を飲んでいる鳥がいた。

 隙だらけだったので、矢を脳天に浴びせると、急所に当たり息絶えたのか、そのまま溶岩の川に倒れてしまう。次の瞬間その場にドロップカードが現れるがすぐに燃えるという惨事が起きた。ちなみに鳥の頭に刺さった矢も溶岩に落ちたため回収不可。


 火山に住むモンスターだけあって、火属性のモンスターしかいない。

 その頂点にして最強。山頂には今回の目的の火竜と呼ばれる竜が生息する。

 その火竜は火を食べると傷が癒えるという逸話があった。

 溶岩を飲む変な鳥がいたのだから、これは期待できる。


 だが、道中で問題が発生。火のモンスターと矢の相性が最悪だ。数回射れば再利用不可能になってしまう程度には燃やされる。

 燃やされてしまう故に矢の不足が加速。



 再び現れたのが全身に火を纏う鳥。【ファイアーフェザー】という火を模した赤い羽根を一枚落とすだけの食べられない鳥だ。

 遠距離での攻撃を得意とするようで【炎の息吹き】というスキルを多用する。この炎、一点集中を狙っているのか一直線に進むだけで簡単に避ける事ができた。地面に当たれば周囲に炎が飛び散り危険だが、その時にはすでに離脱が終わっている。

 単体相手なら全く脅威ではない。


 複数出てきたら、仕方なく弓の出番だ。

 筋力値が一気に上がって『黒限』を軽く引くだけで最大まで引き絞れてしまう。竜力に関してはまだ使い方を把握できていないため試せていない。


 今回は一体。足元の石を一つ拾って鳥に向かって投げる。

 昨日までの矢よりも速く飛ぶ石。

 次に覚える能力は【投石】スキルかな? なんて馬鹿な考えが頭を()ぎった。


「カール、墜落してきたが、石は翼を(いた)めさせただけだ。火に気を付けろよ!」

「ばう!」


 下手に近付くと纏っている火がこちらを攻撃してくる。

 僕の石だけで倒すには一〇回以上当てなくてはいけない。

 カールが落ちてきた鳥に【引っ掻き】をする。

 服なら簡単に燃え移るだろうが、カールの素早さなら、毛並みが燃える前にヒットアンドアウェイができた。


「お疲れ様!」

「ばう!」

「さすがに何戦もすると左前足の毛がちょっと焦げてるな。家に帰ったら焦げた部分をカットするか……」

「ばう!」


 嬉しそうに胸に飛び込んで来たカールを撫でてやる。もう【竜戦士】でご機嫌斜めだったのは直ったようだ。


「今ならオークキングに勝てるかな?」

「ばう!」

「そうか。勝てるか。どこかに現れないかな……」


 タウルスの町を襲った事件『モンスター大進行』があった日、僕とカールは背後から攻撃をした。

『モンスター大進行』の大きな特徴ではあるが、ボスの討伐が終わると付き従っていたモンスターたちは地理尻に解散する。

 だからボスは最後に倒す必要があった。


「くぅ~ん」

「あはは。カールの索敵にオークキングの反応はなしか。ごめん、ごめん。朝日も上がったし、そろそろ帰るか」

「ばう!」



 さすがに途中で疲れたため、仮眠を取ってから昼頃やっと都市に到着する。

 顔見知りになった門番に『お前ら、きたねーな』って文句を言われた。

 例えるなら炭鉱へ送られた終身奴隷クラス。

 その上はあるのか? って思っていたら、意外にも山賊クラスというのが存在するそうだ。


 そのまま町を歩かれたくないって事で、バスタオルのような布を渡された。住民じゃない場合は、シャワーを借りられたのだが、住民は家で綺麗にしろという事らしい。



 いくらミラに好意を持たれていたとしても、さすがにこの姿は見せられない……。

 アパートに直行する。


「ヤバい。これは予想外だ」


 ミラの気配が【気配察知】にひっかかった。

 部屋の前でうずくまっている。

 ミラはローブで頭や体を隠しているが、あの下はギルドの制服だ。


「あの~。めっちゃ汚い格好だから、見られたくないんだけど……」

「ご主人様!」


 僕の声にハッと顔を上げて、数日ぶりに飼い主に会った子犬のように飛びついてきた。

 思わず受け止めちゃったけど、服汚れちゃうけど……。


「一緒に昼食を食べたくて……、部屋をノックしてもいないから、待ってたんです。でも、よく考えたら仕事で家にいなかった、ってどうしたんですか、その格好! 早く着替えましょう! 病気になっちゃいますよ」


 腕を引っ張って部屋まで誘導する。


「いや、汚いから、近寄らないで、ね?」

「わたしが嫌がるわけないじゃないですか! 早く脱いでください! すぐに洗っちゃいます!」


 外套を放り投げて、ギルドの制服を腕捲りする。


 僕は脱衣所でモンスターの大量の血が染み込んだ服を脱ぐ。ミラが脱いだ衣服を回収しようとこちらをじっと監視している。


「下着は自分で洗うから……」

「奴隷にそんな気遣いは無用です!」


 タオルで隠しながらパンツも脱いで籠に入れた。ミラは脱いだ服を全部回収して脱衣所を出て行く。

 僕はミラの何を見てきたのだろう。


 ミラは真面目だから、一度言い出すと最後までやり通す。命令すれば止まるだろうが、それではいつしか本当に主人と奴隷の関係になってしまう。


 ミラが僕を嫌うから汚い姿を見せたくない?

 冒険者が旅先で何日もお風呂に入れないなんて事はよくある聞く話だ。


 そしてミラは元Bランク冒険者。

 旅の経験は何度もあったはず……。



「ご主人様、ギルドの勤務があるので、わたしは戻ります。服は洗って干しておきました。あの~良ければ後でギルドの方へ顔を見せてくれませんか?」

「わかった、わかった。あとで行く!」

「ありがとうございます!」


 お風呂場を覗いちゃおうかな? とか不審な発言が聞こえてきたから慌てて了承した。

 仕事モードのミラは真面目で頼りになるが、甘えん坊が顔を出すと途端にダメな子になる。

 困った子だ。


 ゆっくり休んでから冒険者ギルドに行くか……。


 カールも汚くなったので、小さくして一緒に石鹸で洗ってやる。お椀風呂で汚れを浮き上がらせてから洗うと毛に付いて固まった血も落とす事ができる。



 冒険者ギルドに行く前に武具屋に立ち寄った。

 店の扉を開けると呼び鈴がなる。


「いらっしゃい」

「すみませーん。矢の補充に来たのですが……」


 背を向けて書類整理をしている男性に声をかける。

 今回のイオルリ火山で多くの矢を失った。


「一言に矢って言ってもなぁ。どの(なが)……」

「おっちゃん! どうしてシルバーレインに?」


 振り返ったその顔はどう見てもカルア村でよく見知った顔だ。


「おっちゃんだぁ? 初対面で馴れ馴れしい坊主だな。俺は礼儀のなっていない坊主には売らない主義なんだ! 悪いが帰ってくれ」

「待ってくれよ、おっちゃん。まだ三ヶ月しか経ってないのに、僕の事を忘れたの? 髭まで剃って珍しい」


「おっちゃん、おっちゃん。ってさっきから失礼な坊主だな。叩き出されたくなきゃ、出口は後ろだ。回れ右して出て行きな」

「……失礼しました」


 僕は頭を下げて謝ると、言われた通り回れ右をする。

 今までこんな事なかったのに、今日は虫の居所が悪いのかも……。


「二度と来くんじゃねー……ぞ? なぁ、その弓。その肩にかけている弓……。なんで坊主が持っているんだ?」

「え? これはおっちゃんが僕に売ってくれた弓じゃないか。名は『黒限』。おっちゃんが僕に教えてくれたんだぞ。よく見るとおっちゃん、ポッチャリした?」


 全体的に横に広がった気がする。

 具体的に言うと、幸せ太りしたらしいおっちゃんをさらに二割増しにした感じだ。


「やはりその弓は『黒限』か。なるほどな。坊主の言う『おっちゃん』は俺の事じゃない。そいつは俺の双子の弟だ」

「おっちゃんが二人? 確かにおっちゃんはいつも無精髭を生やして汚い面だったな」

「きりんの野郎は今も無精髭か。昔っから変わらないな。俺の名はぶたって言うんだ。さっきはすまなかった。許してくれ」


 カウンター越しにおっちゃんが頭を下げた。

 別人なら失礼な態度をとったのは僕の方だと思うけど、顔が同じだとどうしてもおっちゃんと喋る口調が抜けない。


「おっちゃんが若くしてボケたんじゃなくて、良かったよ。ところで、きりんとか、ぶたって?」

「あいつは昔からひょろっと背が高くてな。その上、俺たちのオヤジの帰りが待ちきれない時は、塀の上から顔を出してオヤジが通りを歩いてくるのを待っていたんだ。首を長くして待っていたからオヤジにきりんって愛称を付けられたんよ。俺は弟と同じ物を食っていたんだが、なぜか俺だけブクブク太ってな。オヤジにはよくぶたって呼ばれていた」

「へぇ~。あのおっちゃんにそんな過去が……」


「きりんの奴は元気にしていたか? お気に入りの弓を坊主に売ったんだから、もう旅は終えたんだろ?」

「『黒限』の前の持ち主はおっちゃんだったのか。それは知らなかった。おっちゃんは隣の隣にあるカルア村で『ぶきりたん』って店を切り盛りしているぞ。子供は五歳と二歳で二人とも女の子だ。いつも女房の尻に敷かれて毎日デレデレしているぞ」


「『ぶきりたん』か……。素直じゃねーな」

「なにかあったの?」

「この店の名は俺の代から兄弟の愛称にちなんで『ぶたきりん』って名前に改名したんよ。その時に一緒に店を経営しないか? って誘ったんだが見事に断られちまった」

「確か『長男じゃないから家を継がなくて良かったんだ』って言っていたぞ」

「……そうか。まぁ、幸せならそれで良い。もしあいつに会う機会があったら、ぶたが結婚おめでとうって言っていた事を伝えてくれ」

「わかった」


「あ、矢だったな。『黒限』なら……長弓よりの矢でいいか……。坊主は力に自信あるか?」

「あぁ。『黒限』を最大まで引けるぞ」

「そいつはすごいな。『竜のヒゲ』をそこまで引けるのか……」

「この弦って『竜のヒゲ』を使っていたの?」

「すまん、すまん。本物の『竜のヒゲ』じゃないんだ。ミミックスパイダーっていう普通のスパイダーに擬態するのが得意な蜘蛛からドロップする糸繊維を丁寧に束ねて作るんだよ。竜を倒してもヒゲはドロップしないしな。弓の世界ではそれを『竜のヒゲ』って呼んでいるだけだ」


 世間話を終えたら、ぶたのおっちゃんが矢を選んでくれた。

 今回はお詫びと弟の話を聞けたお礼にタダでいいそうだ。



 もらった矢を矢筒にしまう時。


「悪いがその古い矢を一度見せてくれないか?」

「どうぞ」


 矢なんて見てどうするのだろう?

 矢筒に残っていた五本を手渡す。おっちゃんにもらった樽から作り直した最後の生き残りだ。

 新しい矢を手に入れたし、もう古いのは破棄してもいいかもしれない。

 それに手入れはするだろうが、この先は矢を自作しなくちゃいけないほど収入は少なくない。


「この矢って自作か? それともきりんが製作した矢か?」

「小さい頃におっちゃんに作り方を習ってからはずっと自作です」

「自作か……。なるほどな。絶対に口外はしない。一つだけ質問をさせてくれ」

「……どうぞ」


「タウルスの『モンスター大進行』でオークジェネラルに矢を刺さなかったか? この都市の冒険者ギルドのギルドマスターがわざわざこれと同じ様な自作矢を三本持って一軒一軒聞いて回っていたぞ。きっと矢の補充には武器屋を利用するからって言って見つけ次第冒険者ギルドまで知らせるようにって通達まで置いていった」


 弓の消耗品である矢の補充をするなら武器屋は欠かせない。周辺地域の武器屋で情報を集めればいつか姿をみせる確率は高かったかもしれない。

 迂闊だった。僕は息を飲む。


「その反応を見れば充分わかった。見つかってもタウルスの住民に感謝されるだけだ。いちいち逃げ隠れする必要はないぞ。だが、俺は弟の知り合いを売るつもりはない。これまで名乗り出なかったんだ。注目を浴びたくなかったんだろ? 坊主が公開するその時まで、俺も沈黙を貫くさ。また矢が欲しくなったら、いつでも寄ってくれ」

「……ありがとうございます」


 矢をもらった時よりも気持ちを込めてお礼を言った。

 回収できなかった矢は三本どころか、実際には持参した全ての矢が使い物にならなくなったためオークジェネラルの討伐を途中で諦めた。

 まさかあの矢を手がかりにぶたのおっちゃんにバレるとは思わなかった。


 ぶたのおっちゃんが黙っててくれると言ったからには、きっと黙っててくれると思う。おっちゃんにもそういうところがあったから何となくわかる。

 それに『気が付かなかった』と言い張ればいいだけだし、そこまで無理な話じゃない。


 冒険者ギルドのギルドマスターか……。

 会った事はないが、できれば会いたくない。会えば根掘り葉掘り聞かれる可能性がある。



 急に冒険者ギルドに行きたくなくなった。

 行かなければミラが悲しむだろうが、仕事が終わればどうせ僕の部屋まで訪ねてくるだろう……。


 冒険者ギルドは新規クエスト受注とクエストの報告の関係で朝と夕方に混む。

 明るいうちに仕事をするのが一番効率がいいからだ。


 昼過ぎで冒険者ギルドにいる奴は長期の依頼を終えて休暇を楽しむバカ騒ぎ組か、依頼がうまくいかない駆け出し組だ。


「ミラひゃ~ん、おれにおしゃくしでよ~」

「それぐらいにしておかないと、ギルドから叩き出されますよ」

「ミラひゃんが、おしゃくしてくれたら、おれはしずかにするも~ん」


 ギルド内をこっそり覗くと、ミラが酔っ払い男に絡まれて困った顔をしている。相手が誰か分かっているところをみるに、いつもミラの列に並んでいる冒険者の一人だろう。


 ギルドのすぐ脇には冒険者向けの安いお酒が飲めるコーナーがある。その品数は豊富で爆弾酒と言われるアルコール度数の高い酔うためだけのお酒から、女性でも美味しく飲めるフルーツのカクテルまで備えていると聞く。


「わたしにお酌して貰いたかったら……そうですね……【ラビットアイ】でも持ってきなさい」

「【ラビットアイ】だ? あんなの野ウサギを千体狩ろうが出やしねーじゃねーか!」


 酔っ払い男はミラの要求に酔いが少し覚めたようだ。回らなかった呂律が回るようになった。

【ラビットアイ】ってそんなにレアドロップだったか?


「んじゃ、この【ラビットアイ】で今晩お酌でもしてもらおうかな?」

「ごしゅ、イルさん!」


 二人の間を隔てているカウンターに置く。

 ミラが突然の登場に驚きの声をあげた。

 絶対『ご主人様』って言いかけたよね?


「一枚じゃ足りないか? 何枚必要だ?」


 ポシェットを開けてレアドロップのカードを集めた束を出す。

 ミラ経由でドロップカードを売る約束をしたが、売りたくない品はやはりある。もちろんミラも了承済み。だが、それらはミラには見せていなかった。


「ほらっ! ほらっ! ほらっ! ほらっ!」


 二枚目が飛び出た時点で空気が変わったが、気にせず【ラビットアイ】を並べていく。


「えっ? ちょっと。イルさん?」

「こ、これ全部本物なのか……? 本当に本当に【ラビットアイ】なのか?」


 カールに出会うまでは毎日山で野ウサギ狩りをしていた。


 さすがに千体とは言わないが確かに【ラビットアイ】はなかなか出なかった。そのため売れば高いだろうなっとは思っていたが【ウサギの肉】を冒険者ギルドに売るだけで普通の暮らしはできていた。

 つまり、この【ラビットアイ】は僕の勲章たちだ。


「ちょっ、ちょっと。イルさん、ストップしてください」


 二〇枚を超えたところでミラが我に返って止めてきた。


「イルさん、こんなの見せびらかしたら、強盗に狙われますよ」


 ミラが冷静になって忠告してくる。

 強盗に狙われるのは考えていなかった。


「竜に単身で挑んで勝てる奴がいたら、かかってこい!」


 最後に今日手に入れたばかりの【火竜の牙】【火竜の鱗】【火竜の角】を並べる。


 それを見てとうとう酔っ払い男が卒倒した。

 さすがにやりすぎたか?


 カードを回収後、休憩室に連行される。

 ミラがカンカンでございます。


――――――――――


 昼過ぎのギルド内。


 ミラ様がいつものように酔っ払い冒険者の対応をしていた。

 そろそろ華麗に手助けをしようと立ち上がった時、入口から一人の男が入ってくる。

 あいつは確か三ヶ月前にギルドマスターを呼びつけた田舎冒険者。なぜかあれ以来ギルドマスターはあいつの事をよく調べている。


「Dランク冒険者のくせにしゃしゃり出やがって……」


 ミラ様の伝家の宝刀『無理難題』が披露された。

 今回は【ラビットアイ】という野山に行けば誰でも狩れる野ウサギのドロップカード。

 だがこれが如何せん、超が付くほどのレアドロップでギルドに勤務していても滅多にお目にかかれない。

 俺自身も前回見たのは数年前だ。


 ところが……。


「んじゃ、この【ラビットアイ】で今晩お酌でもしてもらおうかな?」


【ラビットアイ】に値を付けるとしたら一八万ジェニーは下らない。高い時は軽く二〇万ジェニーを超えてくる。

 あり得ぬ……。あのDランク冒険者はいったい何を考えているんだ。

 一杯のお酌にそれほどの額を支払うだと?

 売れば何ヶ月と豪遊できるだろうに……。


「一枚じゃ足りないか? 何枚必要だ? ほらっ! ほらっ! ほらっ! ほらっ!」


 あり得ぬ! あり得ぬ! あり得ぬ!

 あろう事か【ラビットアイ】をトランプカードのように並べていく。遠くから様子を見ていたため自分の目では確認できていない。それでも酔っ払い冒険者が一枚ずつ目で確認しているから偽物が置かれているとも思えない。



「あり得ぬ……。【ラビットアイ】を二〇枚以上も所持しているだと? どういう事だ?」


 ミラ様が途中で止めてしまったから詳細はわからぬままだが……。

 奴はいったい何者なんだ?

 そうだ、いい事を思いついた。この情報を流して奴を消すしかない。そうすれば奴ももう終わり……。

 報酬はなくとも、三六〇万ジェニー以上のドロップカードを持っている事は間違いない。

 クックックックックッ。


「竜に単身で挑んで勝てる奴がいたら、かかってこい!」


 奴は宣言しながらカードをカウンターに叩きつけた。


「竜に挑むなどあり得ぬ。絵本の読みすぎではないのか? 田舎冒険者が粋がって……でも、最後の三枚のカード……。あれはいったい何だったのだろうか……」


 奴は危険過ぎる。

 早急に消すしかない。

 ミラ様に相応しいのはこの俺だ!

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