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21②-②:模倣

「どうなった…?」

 やっと風が収まり、セシルはテスと共に、吹き飛ばされたテントの下から這いだした。


「…!」

 そして、セシルは目にしたものに、驚愕した。


「…どうやら、俺たちのあれを、完全に真似することに成功したみたいだ…」

 テスは忌々しげに、ぐっと唇を噛んだ。




 2人の目に入ったのは、銀色の毛並に、長い尻尾を持つ、30メートルほどはありそうな大猿だった。大猿は首を回して、何かを探している。おそらくテスを探しているのだろうと、セシルが思ったところで、大猿がこっちを見た。

「…ッ!」

 セシルは、まずいと息を飲んだ。それと同時に、大猿が牙を剥き出した。


―うおおおおおお!!


 大猿は吠えると、地響きを起こしながら、こちらに向かって駆けだした。



「でかくなったのは良いものの、言葉を話す知能もなくなったんですね」

「脳はそのままのサイズで、頭蓋の容量だけ増えたんだろ。要するに脳味噌スカスカ」

「…ノルン!ロイ!」


 セシルとテスの前に、庇うかのようにノルンとロイが現れた。


 ノルンは手を振った。緑色の光の粒子が、大猿に向かって放たれる。

 大猿は、それを避ける動きも見せない。光を受けた大猿は四肢を切断されて、駆けていた勢いのままに、地響きを立てて倒れた。


「さあ、今のうちに!」

 ノルンはテスを立たせ、ロイはセシルの腕を引き、止めを差すように促した。その時、

「…な!!」

 化け物は一瞬にして、手足を再生した。そして、切断された手足を拾うと、口を蛇のようにばかりと開け、一口で飲み込んだ。


「あいつ…!」

 ノルンが驚愕する。そんなノルンに、大猿は馬鹿にするかのように目を細めると、腕を振り上げた。化け物の背に、大量の氷柱が現れる。大猿が腕を振り下ろすと、4人に一斉に、つららの雨が襲い掛かる。


「…くっ」

 テスは3人の前に飛び出ると、氷の結界を張った。しかし、あっという間にひびが入りだす。

 セシルは慌ててテスの結界を補強するが、さらに追加された氷柱の雨が襲いかかった。それを受けるなり、一瞬にして結界は砕けた。


―もう終わりだ


 セシルがそう思った時、視界に金色の光が瞬いて、氷柱の雨がすべて消えた。


「セシル!!」

「…レスター!」


 後ろを振り返ると、レスターがアンリに支えられながら立っていた。その隣では、リアンがカイゼルを支えている。


「ごめん、遅れて。飛ばされた時に足を怪我しちゃって…」

「…ッ」


 セシルは、思わず口に手を当てた。レスターの太ももには、折れた角材が刺さっていた。出血は多くはなさそうだが、それは角材が刺さったままであるからで、抜けば大出血となることは目に見えていた。アンリもレスターの怪我を、深刻な顔で見ていた。

「ちゃんとした処置が必要だ。だけど、今はそれどこ「セシル!下!」「…!!」

 ノルンの声にセシルがはっと地面を見たのと、重力魔法の魔法陣が展開されたのは同時だった。

 大猿は吠えた。それと同時に、過重力が一同に襲いかかる。


「発動!!」

 レスターは地面に剣を突き立て、叫んだ。それと同時に金色の魔法陣が展開され、一瞬にして大猿の魔法陣は消えた。だが、

「…!!」

 次に展開されたのは、巨大な吸収魔法の魔法陣だった。無効化魔法など使えば、足元から爆発して、皆死んでしまう。逃げなければと思う間もなく、蔓草がそこかしこから生え、レスター達に襲い掛かった。


「…う!!」

 蔓草はセシル達の体に巻きつき、拘束して動きを奪い、魔力をも奪い始める。セシルとテスは、何とか魔力を吸収し返そうと抵抗するが、全く歯が立たない。逆に、仕返しと言わんばかりに蔓草に棘が生え、棘は皮膚を突き破って魔力を吸収し始める。


「うああああ!!」

 その場に居た皆が、激痛にのたうちまわった。相手は一瞬にして魔力を奪えるはずなのに、あえてじらして吸収し、嬲り殺すつもりなのだろう。


「…っ」

 ロイが白目をむいたかと思うと、地面にばたりと倒れた。ノルンもそれに続いて倒れた後、しばらくは悶えつつ抵抗していたものの、やがて地面に頭を落とした。2人とも、まだ痙攣をしている所を見るに、生きてはいるようだった。


「…くそっ」

 レスターは、せめて魔方陣の一部だけでも破壊すれば弱まるはずだと、魔法に意識を集中させようとした。しかし、それを見透かしたかのように、レスターへの拘束が強まり、魔力の吸収も加速化した。レスターは苦しげに呻いた後、地面に崩れ落ちた。


「…レスター!!」

 セシルは駆け寄ろうとしたが、拘束がそれを許さない。それどころか、セシルの魔力の吸収も加速した。


「う、あああ!!」

 セシルは、激痛に地面を転げまわった。せめてレスターだけでもと、必死に伸ばす手を、蔓草は無情にも絡め取る。


「セシル…」

 レスターも、セシルに必死で手を伸ばそうとする。しかし、後もう少しのところで届かない。


 そんなセシルとレスターの様子を見て、大猿はぎゃっぎゃとあざ笑っていた。



『ふざけるな…』

 リアンは、セシルとレスターから視線を外すと、込み上げてくる怒りのままに大猿を睨んだ。


『愛する者を必死で助けようとする彼らを見て、嘲笑うまでに落ちぶれたか』

 リアンは、自身を拘束する蔓草を、引き剥がしつつ掴んだ。そして、詠唱を始める。


『発動!!』

 リアンは、大猿の魔法陣に重ねるようにして、魔方陣を張った。そして、大猿の魔法を吸収し返す。


『くそがあああ!!』

 圧倒的な力量差のある魔方陣を、リアンは怒りのままに吸収する。驚愕の表情をする大猿の前で、皆を絡め取る蔓草が消え去り、魔方陣も弱々しく光った後、掻き消すようにして消えた。


『…セシル!大丈夫!?』

 リアンはセシルを抱え起こす。セシルは我に返ると、慌ててレスターに駆け寄った。レスターもまた、よろけながら立ち上がり、飛び付いてきたセシルを抱きとめる。


『…』

 リアンはそれを見て、ふふっと笑った。しかし、それは一瞬だけで、すぐに目の前の敵に向き直る。


『僕はもう、キミを許さないよ』

―ヘエ、ユルサナイトイウノナラ、ドウスルトイウンダイ?


 大猿は獣のような声しか発しなかったが、心の読めるリアンには、奴がそう言っているのが分かった。


『キミを止める。僕の全力をもって』

―デキルワケモナイクセニ、ソレニ

 大猿は赤い舌を出しながら嗤った。

―コレデモデキルトイウノカイ?

 大猿は、両手を天に向けて掲げた。まさか、とリアンが思うが早いか、どおおんという音と共に風が吹きだした。

 リアンは、すんでのところで氷の結界を張って、皆を衝撃から守った。


『王家の最悪の事態だ!みんな、逃げて!』

 その叫び声に、まだ意識のあったカイゼルとアンリはよろよろと立ち上がり、倒れているロイとノルンを肩に担いだ。比較的ダメージの少なかったテスは、重力の魔法陣を張ると、皆をその中へと入れ、浮き上がる。風が吹き込むように変わる直前で、一同は空へと舞い上がった。


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