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16-⑦:クリスマスイブの朝に絶望の物《ブツ》を投下《おと》そう(★挿絵あり)

 そんなアンリの看病の甲斐あってか、次の日の朝を迎える頃には、テスの熱もすっかり下がっていた。


 もう別に帰っても大丈夫と言うテスに、マナは「まだここにいた~い」とふぬけた様子。テスがその顔面を一発殴ってやろうかと思った時、

「おはようございます」

「あら、アンリ先生」

 部屋にアンリがやってくるなり、マナは見るからに嬉しそうに駆け寄っていく。そして、テーブルへと座らせ、そそくさとお茶を入れる。


「……」

 昨日の夜、下の食堂で友好を深めていたらしい2人。医者同士気があったのか、テスがこっそりと覗きに行った際には、延々と医療技術や学会の最新の研究について話していた。マナはそう言った事には真剣だしちゃんとしているのに、どうして仕事に対する姿勢だけはああなのだろうかと思う。


「いい天気ですね」

「ええ、ほんとに。雪が降ったのが信じられないぐらい」


 12月24日。今日の朝は、3日前の天候など嘘のような晴天だった。積もっていた雪も、解けて地面が見え始めていた。窓からは明るい日差しが差し込んでいる。


「後10日もしないうちに、新しい年になるのねえ」

 テスは、「今年も飛ぶように過ぎたわ」と言うマナの隣に座りつつ、「歳を取ったせいじゃないか?」と言うと頬を思いっきりつねられた。素直に痛いが、悲鳴を上げたら負けになる気がするから、テスはこらえて平気な顔をしておいた。


「ほんっとに可愛くない子。聞いてよアンリ先生、この子、可愛いのは顔だけなのよ。叱っても、屁理屈ばかりたれるし。どこぞの研究者かってみたいに、肩っ苦しいし」

「へえ、そうなんですね」


 話を振られて、アンリは苦笑しながら相槌を打つ。するとそこから、マナの機関銃的テスについての愚痴トークが始まり、アンリは半ば目を回しながら聞いていた。そんな彼を、テスはすることもないので、興味深そうに観察していた。


 昨日医学の研究やらについて話していた時も、マナは今ぐらいのスピードでしゃべっていたが、アンリは普通に聞いていたはずだ。それどころか、アンリもまた白熱した論議をしていて、食堂にいた他の人々が引いて、そそくさと出て行ったぐらいだ。


 この男は、女と言う生き物の、愚痴という種類の会話に関しては、経験が浅いか耐性が無いという事なのだろうか。




 そうこうしているうちに、半時間があっという間に過ぎる。半ば呆けてマナに愚痴を聞かされるがままになっていたアンリがふと、はっと意識を取り戻し、慌てて立ち上がった。


「すいません、僕そろそろいかないと…」

 アンリは11時半から次の仕事があると、懐中時計を探してごそごそと懐を探る。


「あれ、時計はどこに行ったんだろう?」

 それを見て、テスは呆れのため息をつき、自身の懐中時計を懐から出した。


「医師足るもの、忘れ物をするなんて情けないぞ。いざという時に、必要な道具が無かったらどうするんだ。俺が医者だったとき…じゃなかった、俺が医者だったら、街中を歩く時も野原を散策するときも、どこへでも医療道具を持っていくぞ。…とにかく時間は、11時2分だ」


 テスはついうっかり、『馬鹿真面目ね。だけど、医者の鏡だわ』と言われていた時分の事を話しそうになり、ごまかしに訂正しつつそう言った。


「あはは…実は僕、そんな人知ってて、真似をして医療道具はちゃんと肌身離さず「ほとんど11時なんだから11時でいいじゃない。細かい所を見るのねえ」

 アンリが自身の鞄を指差し、苦笑いしながら言う言葉が終わらないうちに、マナが呆れと面倒くささの混じる息を吐きながら言った。


「マナ、その発言は大問題だぞ。医者は正確性が大事なんだ。普段からのおおざっぱさがいざという時に患者を殺すんだ」

「ねえ聞いてよアンリ先生。この子、なんだか自分なりの医者の心得(ポリシー)?っていうか、理想の医者像ってのを持ってるのよ。看護師なのに、まるで本物のお医者さんみたいだって前々から思ってるんだけど」

「へえ、そうなんですか」

 再び話を振られて、アンリが疲れた笑い混じりに相槌を打った、

 その時だった。



 窓の外が光った。青白い光が、窓から差す。

 明らかに、先程まで部屋の中を照らしていた日差しではない。それに、部屋の中が明るく照らされる。


「「……?」」

「…これ、まさか」

 テスは以前、よく似た光景を見たことがあった。だから、ぽかんと窓の外を見る二人の前に飛びだすと、氷の結界を張った。その次の瞬間、



挿絵(By みてみん)



―……!!!



 轟音と地響きに続き、すさまじい爆音と爆風が3人を襲う。足元の床から、何もかもが崩れて飛ばされていく。飛ばされ絶えずかき回される視界の中、何も見えない。悲鳴すら轟音と爆風で何も聞こえない。


 そんな中でも、テスは必死に結界を張る。氷の球体の中、ごろごろと3人でもみくちゃにされながらも、魔法の発現に意識を向け続ける。


―まさか、この世界にも、()()ができたということか…?


 テスはふとそう思うが、よく考える余裕などなかった。やがてテスはゴンと頭を、マナの体かアンリの体かそれとも自身の結界にか、したたかに打ち付け気を失った。

挿絵はシンカワメグム様に描いていただきました!

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