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20②-⑧:でっちあげ

「…ん」

 リアンは、ぼんやりと目を開ける。いつも通りの部屋の天井。しかし、何だか圧迫感がある。それに、やたらと布団の中が温かい。そして、


「…?」

 頬に、ふっと誰かの吐息が吹きかかる。リアンは醒めきらない頭で横を見る。すると、クルトの顔が目の前にあった。よく寝ているようだ。


「…なんだ、クルトか」

 リアンはもう一度目を閉じると、二度寝をしようとした。しかし、頭のどこかが、疑問の声をあげ始める。


―なぜ隣にクルトが寝ているのか

 リアンは目を閉じながら、その疑問の声に、『これがきっと夢だからだ』と答えた。


―それにしては、密着している肌の感触とか、自分の頭の下の腕枕の感触とか、妙に現実味があるけど

 うるさいな。もう一度目を開ければ、夢から覚めているはず。


 リアンは目を開ける。そこには相も変わらず、クルトの顔。


「……」

 リアンの頭の中が、疑問符で占めはじめる。だから、『夢だよね』と思いながら、体を起こす。すると、自身は下着姿と言う、あられもない格好をしていた。


「……」

 リアンは自身の頬をつまんでみる。痛い。次はクルトの頬をむにむにとつまんでみる。すると、パチッとクルトの目が開いた。

「え」

 そして、クルトは間の抜けた声をあげた。



「あれ…?」

 クルトは、痛む頭を抱えながら体を起こし、辺りを見回した。


「リアン様、なんで…、あれ?ここはリアン様の部屋…どうしてこんなところに」

「……」

 しかし、リアンは、クルトのその不思議そうな問いを、全く聞いていなかった。リアンは、唖然とクルトの体を見ていた。クルトも下着を身に着けただけの姿だった。


「…クルト、なんでそんなかっこで、僕の隣に寝てるの…?」

「え…?」

 クルトは、今更気づいたかのように、自身の体を見下した。そして、驚きに目を見開く。


「えっ、えっ、ええっ?!」

 クルトは驚愕に胸を抱いて、飛びずさった。


「なな、なんで!」

「なんでって、キミ覚えがないの?」

「覚えがあるもなにも、私は部屋に戻ったところを、後ろから誰かに殴られて…」

「……」


 それを聞いて、リアンはこうなる前の状況を思い出す。薬を盛られたと思って、吐こうとしたはずだった。


「…まさか」

 リアンは、はっと気づく。そして、慌ててベッドから飛び降りた。


「クルト、さっさとベランダから逃げて!絶対あの女が仕組んだ事だ!」

 こんな事をするのは、あの女以外に思いつかない。こんなところを誰かに見せて、あらぬ誤解を真実にするつもりなのだろう。リアンは、クルトをベランダから逃がそうと思った。


 だが、遅かった。クルトの腕を引いた時、ノックもなしに部屋のドアが開いたのだ。



「……リアン」

「……テス」

 リアンは絶望のままに、テスファンを見た。テスファンは目を見開いたまま、唖然とした表情のままで固まっていた。しかし、それも数秒の事で、すぐに冷ややかな目をすると、淡々とした言葉をリアンに放つ。


「…クロエに、お前の部屋にクルトが入るのを見たと聞いたから、まさかと思って来てみたんだが……本当にこう言う事だったんだな」

「テス!違うんだ!これは」

「何が違うんだ!」

 テスファンは、そこで初めて声を荒げた。


「そんな格好をして、部屋に男女二人きりで、それ以外に何をすることがあるんだ?!言ってみろ!ああ?!言えるもんならな!」

 テスファンは、づかづかとリアンの前へ来ると、その喉をつかみあげた。


「陛下!説明いたします。私たちは…つっ!!」

 テスファンは止めに入ったクルトを、空いていた手で殴り飛ばした。


「何を説明するんだ?『私たちは、実は愛し合っていました』って説明すること以外に、まだ何かあるのか?」

「テス…僕たちは、クロエに嵌められたんだよ…」

 ぎりぎりと首を締め上げられながらも、リアンは必死になって言う。


「この期に及んでそんな言い訳か!」

「言い訳じゃない…」

「言い訳だろ!!」

 テスファンは叫ぶと、リアンを勢いよく突き飛ばした。


「リアン様!」

 クルトが慌てて、突き飛ばされたリアンを受け止める。そしてクルトは、咳込むリアンの背を撫でる。

 そんな二人を、テスファンはますます憎々しげに思いながら、睨みつけた。


「…お前ら、2人とも覚悟しておけよ。クルト、貴様は王の妻を寝取ったんだ。ただ殺されるだけで済むとは思うな。リアン、お前だって王妃だとはいえ、ただでは済まさない」

 テスファンは吐き捨てると、部屋を後にする。後には、勢いよく閉じられた部屋の扉を、呆然と見続ける2人だけが残された。


**********


 リアンとクルトの事について、テスファンは周りに口外しなかった。それは、王家の恥となることを避けるためであった。リトミナ建国の象徴たる王妃リアンが、浮気沙汰を起こしていたとなると、それは国家の威信にまで関わることになるからであった。


 しかし、だからと言って、テスファンは2人に対する罰を取りやめる事はなかった。


 まず、リアンは、北の離れに幽閉される事となった。表向きの理由は、精神的に病んでいるから、その療養のためという事であった。


 そして、それから数週間後。クルトは派遣先で、夜盗に襲われて死亡したことにされた。

 しかし、その実は、クルトは魔力封じを施され、魔晶石の鉱山で、捕虜や犯罪者たちと共に、死ぬまで重労働を課せられる事となった。



 城の人々は、クロエへの嫉妬で、リアンが精神を病んだのだろうと疑わなかった。そして、国王はそんな彼女を疎ましく思い、日当たりが悪く、環境の良くない北の離れに厄介払いしたのだろうと、言いあった。

 さらに、城の人々は、リアンがクロエをいびっているという風に認識していたから、これでクロエが心置きなく暮らせると喜んだ。



 テスファンは、本当はリアンの王妃の位をはく奪し、追放したかった。だが、そうすれば周りからその理由を疑問視されるだろうし、民衆の心が離れてしまうと思っていたからしなかった。それに、リアンを追放などすれば、サーベルンへの抑止力がなくなる。


 だから、テスファンはリアンを、息子はおろか誰にも会わさず、陽の光すら見えない所へ閉じ込めることを罰とした。


 そして、国家での催しがある際には、病気治療中であることを理由に、王妃は欠席としていた。



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