20②-⑦:甘栗
それからはリアンの元をテスファンが訪ることはなく、部屋を出ることを禁じられたまま、3ヵ月ほどが過ぎた。周囲には、リアンは病気療養という事になっていた。
リアンは毎日部屋で一人、運ばれてくる食事を食べては、窓からぼうっと景色を眺めているだけと言う生活を送っていた。クルトはもちろん、母に会うことを禁じられているのかシリルの訪れもなかった。
「これじゃ、あの頃と何も変わりはないね…」
山の洞窟に閉じ込められていた頃と。今は人間らしい部屋で、人間らしい食事をしているだけましなのだろうが。…とその時、部屋がノックされた。
返事をすると、良い香りのするお盆を持った侍女が、入ってきた。
「陛下から差し入れです」
差し出されたそれは、リアンの好物である、甘栗を使ったパイであった。
「……」
気が向いて、気遣う気になったのだろうか。多少やさぐれた心地でリアンはそれを受け取ると、口にした。
食べ終えると、リアンは再び窓の外の景色を見る。今日も良い天気だなと思ったその時、視界がくらりと揺れた。視界も霞んでくる。
その霞は目をこすっても治らず、すぐに眠気と変わってリアンを襲う。
「…?」
陽気が起こす眠気にしては、やたらと暴力的だ。リアンは何かおかしい、と思う。
―まさか、薬…?!
リアンは胃の中の物を吐こうとした。しかし、眠気がそれを許さない。リアンは椅子から立ち上がるなり、床に転げた。
「…テス…」
リアンは、暗闇に沈んでいく意識の最後で、助けてくれるはずもない男に、助けを求める事しかできなかった。