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20②-③:女という生き物

 その日以来、クロエは、何かとリアンに付いてきた。そして、皆の前でリアンをサポートするようになった。

 リアンの王妃としての出来の悪さを周囲に晒すとともに、それを自身が助ける事で、周囲に自身の有能さを示していったのである。


 そうして、クロエは、出来の悪い王妃をサポートする存在という事で、周囲からの賛辞と支持を得ていった。

 そして、打って変わってリアンは、それまで『戦いの女神』と称えられていたのが、情けない役に立たない王妃として、周囲から憐れみと蔑みの目で見られるようになっていったのである。


 皮肉なことに、ヘルシナータを取戻し、リトミナに平時が訪れたことで、その状況が生じることになった。

 なぜなら、戦姫としての役目がなくなってしまったリアンは、今度は王妃としての本来の役割をこなさなければならなくなった。しかし、リアンには、それに必要な教養と嗜みが全くなかった。

 だから、リアンが平時の王妃となれば、次第にその事が問題となるはずだった。


 だが、その事に目を付けたクロエの謀のために、その問題が急速に、更に目立ってしまったのである。




―クロエ様が王妃だったらよかったのに

―元々クロエ様が陛下のご婚約者だったんでしょう?なのに、どうして陛下は、あんな山猿みたいな女を王妃になどしたのでしょう

―可哀想ね、クロエ様も。ご自身がヘルシナータで苦労されている間に、あんなどこの馬の骨とも知れない女に、婚約者を奪われたんですから

―あの女の神経を疑うわよね。ご婚約者がいる身の陛下の、しかも正妃になるなんて。畏れ多いと思わなかったのかしら。自分の身分の事を弁えてもいないし、下賤な身分の者には遠慮というものがないのね



 次第に周囲は、リアンを蔑み、クロエを推す言葉ばかりを言うようになった。

 彼らがそう呑気に陰口を言いあえる平和を、誰が取り戻してくれたかなど、誰も考えなかった。


 リアンはそんな陰口を耳にする度、心を痛めた。そして、自身を貶め、自分が王妃にふさわしい人間だという事を周囲の人間に示すことが、クロエの策略だという事を知った。そうして、王妃の地位はもちろん、テスファンの事を手に入れようとしていることも。


 リアンは、あんな女の策略に負けるものかと、自身を鼓舞した。そして、いくら馬鹿にされようが、平然とした態度をするようになった。

 だが、クロエはそんなリアンの態度が気にくわなかったのか、次は息子のシリルの至らないところまでを、皆の前で晒すようになった。



―シリル様は、この年でまだ楽器の1つすら弾けないらしいわよ

―本当なの?

―本当よ。前にクロエ様がシリル様を合奏会に誘った時、琴を前におろおろとした挙句、泣き出したんですもの

―お母様の教育が悪いのね

―いいえ、きっと下賤な血が混じっているからですわよ。それに弾けもしないくせに、よくも合奏会に、のこのことやって来られたものよね。恥を知らないのかしら。さすが下賤な血よ

―それに魔法は使えても、武術がまるで駄目らしいですわ。クロエ様が苦労しながら教えてらっしゃるのを見ましたもの

―きっと、母親似なのね。珍しい魔法は使えても、剣の方はイマイチってクロエ様から聞いていますもの



 クロエのせいで皆から嘲笑を受けるようになったシリルは、見る見るうちに憔悴し、部屋へと閉じこもりがちになった。

 そして、リアンもまた、部屋にこもりがちになった。一歩部屋の外へと出れば、自身の悪口どころか、息子まで嘲笑される状況に、心が痛み、疲れ果てたからであった。

 それにリアンは、部屋の外へと出れば、必ずクロエが傍に付いてくることをよく分かっていた。


 だが、相も変わらずクロエは、「どうしたのですか?籠ってばかりでは、更にご気分が塞ぎますわよ」と気の利く風を装い、リアンを外へ連れ出そうとした。そして、相も変わらず皆の前でリアンの至らなさを示しては、自身の有能さを示した。



 リアンは何度か、テスファンに、そんなクロエの仕打ちを相談した事があった。

 しかし、テスファンは、「お前達を教育してくれているだけだ。ありがたいことだろう?」と言って、取り合ってはくれなかった。「そんなはずはない」とリアンが必死になって言っても、テスファンは「クロエがそんなことをするはずがない。付き合いの長い僕にはわかる」と軽くあしらうばかりだった。


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