20②-①:狂い始め
『そして、僕はリトミナ建国の時に、テスと結婚し王妃となった。…北の地に居た頃は、考えたこともなかった未来だったよ。僕が、一国の主の妻になるなんてこと。…本当に人生って分からないものだよね』
リアンは遠い目をして、空を見上げる。
『…結婚して、すぐに子供ができたよ。男の子で、名前はシリル。セシル、キミなら知っているだろうけど、リトミナの2代目国王だよ。顔はテスによく似ていたけど、銀髪と目の色は僕から受け継いでいて、可愛らしくて優しい子だった。テスも、それはそれは目の中に入れても痛くない程に可愛がって』
リアンは、その光景を思い出したかのように、ふふふと笑った。
『それに、なぜかシリルを産んだことがきっかけになって、僕は歳をとり始めた。背も伸びた。僕はうれしかったよ。これでテスと共に、人生を歩んでいけるって』
だが、そう言った後、リアンは暗い顔になる。
『…そして、シリルが十の年になった時、ついにヘルシナータも取り戻したんだ。テスはとても喜んでいたよ。これで、自分がいつか死んだ時に、あの世で親兄弟に堂々と会えるって。僕も嬉しかった。これでやっと戦いの日々を終えて、家族3人で穏やかに毎日を暮らすことができるって。……だけど、それがきっかけだった。…何もかも狂い始めたのは』
リアンはぐぐと拳を握ると、唸るかのように声を出した。
『あの女が、僕たちの幸せを、みんな狂わせたんだ』
「あの女?」
セシルが問う。すると、リアンはふうと一息ついて、気持ちを落ち着けた。そして、平静を保った声で説明を始める。
『…ヘルシナータをサーベルンの支配から解放した時、ヘルシナータに置かれていたサーベルンの統治機関からある女性が救出されたんだ。彼女の名前はクロエ・ハートフィール。テスのかつての婚約者だった』
「…」
『テスは彼女を哀れに思って、城に引き取った。僕はちょっと複雑だったよ。だって、夫の元恋人のような女性と、同じ場所で暮らすようになったんだからね。テスは、面倒を見るだけで、側室にする訳じゃないから安心してくれって言っていた。実際、テスは彼女の事を妹のように思っているだけだったから、僕はすぐに安心したよ。…だけど、彼女はそうじゃなかったんだ』
「そうじゃなかったって…」