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20-②:大昔から、世の中の男は変わらない

「…とりあえずは一件落着か…」

 テスはほっと息をつくと、ふっと銃口を吹いた。その手には、風の魔法銃が握られていた。

「森が騒がしくなったと思って来て見れば」

 テスはやれやれとセシルを見る。


「…お前。一体どうやって」

 セシルは、肉の塊と化した器を呆然と見ながら、テスに聞く。あの王妃の器を倒したのが、ただの魔法銃だなんて、すぐには信じられなかった。


「感染させただけだよ。風邪じゃない方のウイルスを」

 テスは剣を抜くと、肉を穿り返した。すると、中から、鉄の銃弾が現れる。テスはそれを2つ見つけると、拾って「ほら」とセシルに差し出す。


 セシルはそれをおずおずと受け取った。だが、首をかしげる。その銃弾の表面には、ウイルスが持つはずの魔術式は刻まれていなかった。先端にはちょこっとだけ、色の違う金属と魔術文字らしきものが見えているが。


「…お前が前に作ったあれを、応用したものだよ。…ただの火薬銃で弾を発射すると、石に突き刺さる程は威力を持たないから、魔法銃を改造して使った。後、ウイルスを魔法銃に直接入れたら銃自体も感染させられて御釈迦になるから、銃と魔術文字が触れないように銃弾をもう一つ金属で覆っている。先だけは魔術文字を露わにしているから、器や本体に侵入さえできれば、問題なくウイルスの効果を発動する」

「…」


「王妃の器は、幾つもの魔術式をかけた神の涙で維持されているもの。アメリアの肉体を得て不死身になれたところで、器内の魔術式を狂わされれば、器の維持が不可能になる。…そして、それは本体も同様だ。いくら石だとはいえ、元は肉体。ウイルスを打ち込まれれば、魔法は使えなくなる。ただ、今回は本体が割れて、銃弾が取れてしまう事態になってしまった。念のためにともう一発撃ちこんだのが仇となってしまったな。だけど、そいつがいたおかげで助けられたよ」

「…へえ」


 ウイルスにはそんな使い方もあったのか。セシルは感心に、頷く事しかできない。



『えへへ。お力になれて何より。だけど、僕一人じゃ太刀打ちできなかったよ。ありがとうお嬢さん、あいつの本体を割ってくれて。原理はよく分からないけど、すごいね、キミのその武器』


 少年は頭を掻いて照れた後、テスの武器を興味深々と目を輝かせて見た。セシルとテスはその少年の存在を改めて思いだし、緊張した。しかし、少年は『ねえねえ、それ触らせてえ』と、うきうきとしている。



「おい!何があった!」

「ロイ!ノルン!」

 その時、ロイが、転送魔法を使ったノルンに引き連れられて現れた。


「騒がしいと思って来てみれば。これは一体どういう状況ですか?」

 ノルンは地面に落ちる肉塊と、そして見慣れぬ―しかも銀髪の少年を見て、咄嗟に剣を抜いて身構えた。


『ぼ、僕、敵じゃないよ!』

 少年は慌てて両手を上げる。そして、助けを求めるかのようにセシルを見る。


「いや、その、何から説明をしたらいいのか」

 助け舟を求められたものの、セシルはどう言ったものかと、肉塊と少年とテスに、変わりばんこに目線をさまよわせる。


「…簡潔に言うと、王妃の天敵を見つけたのは良いものの、セシルがうっかり封印を解いてしまった。そうしたら、それを嗅ぎつけて王妃がやってきた。そして、テスとその少年が王妃を退けたという事だ」

 レスターがセシルに代わり説明をする。


「…王妃をテスが…?一体どうやって…。それに、という事は、この銀髪の少年が王妃の天敵という事ですか?」

『天敵って言われたら動物みたいで嫌だけど、まあそう言う事だね…と言うより、僕少年じゃないんだけど。女なんだけど』

「え」


 セシルは、まじまじと少年―少女を見た。一人称が『僕』だから、てっきり男の子だと思っていた。髪の毛は短い。確かに顔は可愛いが…胸は全くない。


 すると、その場にいた者達の視線の先に気づいた少女は、『何百年たっても、世の中の男どもは変わらないね。失礼しちゃうなあ』と胸を抱いて、頬を膨らませた。


「お前は一体何者ですか?」

 ノルンは険しい目をして、剣を少女に突きつけた。すると少女は、「あ~」と言いにくそうに頭をポリポリと掻いた。


『ホントはさ、もっと早くに正体を明かしたかったんだよ。だけど、キミ達はサーベルン人だったからさ。…口の軽い人たちじゃないとは思っていたけど、やっぱりリトミナの弱みをサーベルンに握られたらと思うと、話せなかったんだよ。だけど、あのバカ、自身が王妃だって明かしちゃったから、もう話すけどね』


 ごちゃごちゃと前置きが長く回りくどいのは、今もまだ話すのに迷っているからなのだろうと、セシルは思う。


『僕の名前、ジュリアン・フィランツィル=ショロワーズだって言ったら、信用してくれる?』

 少女は不安そうに小首を傾げて、ノルンの顔を見た。


「………は?」

 ノルンだけではない。その場にいる皆が、しばしの沈黙の後、首をかしげた。


「あなたは何を言っているんですか?それはリトミナの初代王妃の名前ですよ」

『だから、僕がその王妃だって言ってるの』

「はへ?」

 セシルは情けない声をあげた。


「冗談も大概にしてください。王妃はさっきまでここにいたでしょう?あなたがあなたの言うとおり王妃だとしたら、そいつは一体なんだというんですか?」

 ノルンの声にいらだちが混ざる。少女は、あからさまに不機嫌になったノルンの顔に、たじたじと身を引いた。


『…ごめん。そりゃ信用できないよね。だけど、僕も王妃で、あいつも王妃なんだよ』

「何を訳の分からないことを!」

 ノルンは怒鳴った。少女は『ひい』と小さくなる。レスターは、少女のその様子を可哀想に思ったのか、「まあまあ」とノルンを宥めた。


『…その、何と説明したらいいのか…僕がオリジナルで、あいつが僕の分身みたいなものなんだよ』

「分身?」

 セシルが疑問の声をあげた時だった。



「おい、大丈夫か?何があった?」

 息を切らせた掛け声がしてセシルが振り返ると、カイゼルとアンリが、雪を蹴散らしながら走ってきていた。


「セシル、何があったの?!激しい爆発音が聞こえたけど。テスだって、僕たちを置いて飛んでいくんだから」

「実は…かくかくしかじか」

 セシルは、アンリ達に簡単に状況を説明する。



「…この子が王妃の天敵…」

 アンリはとても驚いて、少女を見た。


「…そうなんだよ。それで、この女が自分は王妃だって言い張っているという、今の謎の状況に到る」

『謎の状況って…ひどいことを言うね、セシル。…まあいいや。とにかく何度でも言うけど、僕はリトミナの初代王妃、ジュリアンだ。そして、あいつは、僕から感情の負の部分が分裂し、権化した者』


「……?」

 しかし、その説明を受けても尚、その場にいる全員が訳が分からないという顔をしている。少女はそれも当然かと、ため息を一つつく。


『本当はあまり話したくないんだけど、信じてもらうためにも、昔話をしようか。…500年前の、本当の事を』

 少女は目を伏せると、口を開いた。


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