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19-①:ある日の夜のこと

「……」

 1月の寒い夜。カイゼルは物置の中で、扉を背にして固まっていた。

 床下収納の蓋が、ダン、ダンダンダンと音を立てている。まるで、中から誰かが出たがっているかのように。



 その日、カイゼルが帰宅すると、使用人たちが物置の前できゃあきゃあと騒いでいた。何だと見に行くと、誰もいないはずの物置から得体のしれない音が聞こえると、侍女たちが泣きそうな顔で見てきたので、カイゼルはアライグマか泥棒か何かが入り込んだのだろうと鍵を開けて物置に入ったのだ。しかも、格好をつけて、俺が退治してきてやるから安心して待っていろと、一人で。そして、今に至る。



「……」

 カイゼルの皮膚の表面には、はっきりと鳥肌が立っていた。しかし、自身は男だという矜持が、カイゼルにその場から逃げ出すことを許さない。それに、侍女に格好をつけた手前もある。


「…きっとでかいネズミが出たがってるんだろ。きっとそうだ、そうに違いない。それ以外の何があるというんだ」

 カイゼルは自身に言い聞かせるかのように、そう言った。しかし、それにしては不規則だし、音が大きい。それにこの床下収納は密閉空間であり、ネズミが入り込む余地などない。


―まさか、あの赤ん坊が


 先程から湧いては打ち消しているその疑念。また湧いたそれ―先程よりも強く沸いたそれを、カイゼルは首を振って打ち消す。そんなわけない、死んだ赤ん坊が生き返るはずなどない。


 だから、カイゼルは床下収納に恐る恐る近づき、その蓋に鍵を刺そうとして―



―どぱあああん!!



 蓋が内側から破壊され、吹き飛んだ。



「………!!!」

 カイゼルは悲鳴を上げることもできず、腰を抜かした。なんだか尻の下が温かくなるのにも、驚愕でカイゼルは気がつかない。



「……ああ、狭かった」

「……」


 床下から、髪がやたらと長い誰かが立ち上がるのを、カイゼルはあわあわと口を開きながら見ていた。


 その人物は、腰の下まで伸びた長い銀の髪をめんどくさそうにかき分け、顔を出した。すると体まで露わになり、カイゼルはその人物が女であることを認識した。

 しかし、異様なことに、その女の下半身は銀色の毛におおわれていて…しかも尻尾が生えている。この形態にカイゼルはよく覚えがあった。


「ま、ままままさか」

 自身の予測は当たっていたのだ。だが、何故。あれは赤ん坊だったはず…。


「……なんだこの姿は」

 その女も、どこか驚いた様子で自身の下半身を見た。そして、しばらくの間、何やら考え込むかのように、手から足先まで自身の体をまじまじと見ていた。


「おおお、お前は誰だ?」

 やっとの事で言葉を出したカイゼルに、女は今更気づいたかのように、セシルによく似た目をやった。そして、言った。


「すまないが、ハサミかナイフを貸してくれないか?髪が邪魔なんだ。後、服も」


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