18-⑨:オレを救えるのは、俺しかいないだろ(★挿絵あり)
「救いなら、ある」
「…?!!」
空に声が響いた。セシルははっとして顔を上げる。他の者も皆、驚いたように空を見上げた。
「ただし、今回は、な。次はあるかどうか保証はしないが」
女が魔方陣を足場に、宙に立っていた。肩まで伸ばした銀髪を風になびかせながら、セシルたちを見下していた。そして、その女の隣には、背の高い男がいた。
「誰だ!」
レスター、ロイ、ノルンの3人は警戒の色を深めた。彼らは、セシル以外の銀髪の者には、ロクな者がいないという認識をしていた。確かに、セシルを甦らせてくれた銀髪の少年もいるにはいたが、大体は敵とレスター達の中では相場が決まっていたからだ。だが、
「カイゼル…?」
セシルは男を見て目を瞬かせる。すると、名前を呼ばれた男―カイゼルは、「よお!」と声をあげて手を振ったのだった。
「セシル、久しぶりだな!見ない間に美人になりやがって。旦那にしこたま可愛がられてやがんなこの野郎!」
「カイゼル。再開の喜びは後でしろ。今は時間がない」
「ああ、そうだった。すまん」
銀髪の女に睨まれ、カイゼルは居住まいを正す。
「お前たちは、一体…」
「レスター、その問いの答えも後だ。ただ一言だけ言っておいてやる、セシル」
女はセシルを見ると、ふっと笑ったようだった。
「オレを救えるのは、俺しかいないだろ」
「…?……っ!」
訳が分からず首をかしげた数秒後、セシルはまさかと女を見た。すると、女は満足げにほほ笑んだ。そして、カイゼルを連れて飛んで行ってしまう。
2人が向かう先は、ホリアンサの中央。かつての爆発の爆心地。
「手はず通りだ、わかっているな」
女は移動しながら、カイゼルを向く。カイゼルは「ああ」と頷いた。
「俺は、この街の『神の涙』の魔力をすべて吸収して奪う。『神の涙』とは言え、ただの魔晶石。魔力を失えば、ただの鉱物に戻る。簡単なことだ」
「…どこが簡単だよ。普通にすれば、この一帯の動植物人間すべての魔力を奪い取って、根こそぎ殺しちゃうだろ」
「だからこそ原子魔法を組み合わせるんだ。『神の涙』という物質を指定すれば、それだけから選択的に魔力を奪える。一種類の物質を指定するだけだから、簡単なことだ」
腕を組んでどこか得意気に語る女。それをカイゼルは横目で見ながら言う。
「どこが簡単だよ。そもそも吸収魔法に指定ができたんなら、リザントで森1つ枯らしそうになることなんてなかっただろ…セシルの片割れさん?」
すると、女は腕を解いた。平然な顔をしているが、少し頬が赤い。
「…肉体は色々な原子が合わさってできているものだ。セシルとは言え、原子魔法を組み合わせても、魔物だけを指定して魔力を吸収することは難しかった」
「お前、セシルのおおざっぱさが招いた人生の汚点だって言ってたくせに、結局セシルに甘いんだな」
「……」
カイゼルは、女のその沈黙は肯定と見なした。一方、女は都合の悪い話をなかった事にするため、最初の話の筋に戻そうと口を開く。
「問題は、この世界にあらざるもう一つの物質だ。魔力を持たない物質だから、俺の魔法で魔力を吸収して崩壊させるなんてことは出来ない。それに、煮ても焼いても凍らせてもどうにもならない物質だ。だからこそのお前だ」
「頼りにしてくれるのはうれしいが、本当に俺の魔法で何とかできるんだろうな?その異世界の訳の分からない物質。リザントでは、あんなちょっとの量でしか試していないぞ。こんなにでかい範囲に広がったやつなんて、本当に消せるのか?」
「ああ、理論的には大丈夫だ。後は実践して、失敗したらその時はその時だ。…俺がその物質を指定する。だから、お前は段取り通りその物質の時間を操り、崩壊を早めろ。魔力は、俺が『神の涙』から奪ったものをお前に与える」
女は爆心地の上空まで来ると、カイゼルと共に下界を見下した。
「頼んだぞ。俺の目標は、『神の涙』。お前の目標は、『神の瞳』だ。そして、俺の除外対象は、セシル。あいつの体は『神の涙』を含んでいるからな」
2人は一息つくと、詠唱を始めた。2人の足元にそれぞれ魔方陣が出現し、広がり始めた。
「いくぞ」
「ああ」
2人は手をつないだ。すると、二つの魔法陣が重なり合い、合体し一つとなった。
それを確認すると2人は、がんと足で魔方陣の中央を踏む。
「「発動!!」」
その言葉と共に、魔法陣が広がっていく。やがてそれは、ホリアンサ全域をすっかり覆うと、輝き下界を明るく照らし始めた。
タイトルは、○魂完結編のあの人のセリフをもじったものです(笑)。
挿絵は、シンカワメグム様に描いていただきました!