17-⑮:復活の時
「アンリ先生、リトミナからの支援物資が届きました」
「ああ、取りに行くよ」
一月の中頃。友好国であるリトミナからも、人員や支援物資がヘルシナータに届くようになった。
「人手が足りなくて。すみませんがテスさんも手伝いに来てください」
看護師が言ったその言葉に、テスは微妙な顔をした。だから、アンリはすかさず言う。
「テスはいいよ。腰を痛めているのに素直じゃないから、平気な顔をして仕事をしているんだよ」
アンリは看護師に「馬鹿な人だろう?」と笑って同意を求める。しかし、アンリのその言葉は嘘だった。だが、テスは申し訳なさそうな顔を作り、看護師に頭を軽く下げた。
「ああ、実はそうなんだ。ごめん」
「そうだったんですか。無理しないで言ってくれたら良かったんですのに。後で湿布を渡しますね」
「すまない…ありがとう」
「じゃあ、行こうか。マナ先生が向うにいたはずだから、彼女に手伝ってもらおう」
テスは、目だけで感謝の気持ちをアンリに送る。アンリもこくんと頷くと、看護師の後について行ってしまった。
「ありがたい…」
テスはぽそっとつぶやいた。リトミナからは、行方不明者の捜索や瓦礫の片づけのために、騎士たちも派遣されている。もしかしたらセシルの知り合いの騎士に鉢合わせするかもしれないと、テスは病院の外へはあまり出ないようにしていた。
銀髪は、そこら中にある煤で汚して灰色に見せている。だが、もしもカイゼルやヘルクなど、セシルと付き合いの長い者が来ていて鉢合わせでもしたら、一発でセシルだと気づかれてしまうからだ。
「さて、俺は物資の整理でもするか」
彼らは救援物資を届けてくれるのはいいが、本当に届けてくれるだけで、中身を出して整理までしてくれるわけではない。だから、届くのに任せておけば、箱に入ったまま積み重なるばかりだ。
テスは、それらを荷ほどきしようと立ち上がった。その時、
「すみません。お医者様はいませんか?」
ふと、病院の入り口の方で声がする。テスは一息つくと、そちらへと向かった。看護師がその声に応対している声が聞こえる。
「瓦礫の山から足を滑らせて両足をくじいた、救いようのない馬鹿でも診てもらえますか?」
何だか聞いた事のあるような口調だなと思いつつ、テスは階段を下りる。
一階に降りると、玄関を少し入ったところに3人の男がいた。赤毛の男と灰色の髪の男の二人に、茶色い髪の男が抱えられている。情けない有様だなとテスが内心で呆れた時、テスの足音に気づいたのか赤毛の男がこちらを向いた。
「…っ…」
テスは息をつめた。それは相手も同じだったらしい。まるで幽霊を見たかのような目で、テスを見ていた。
「…レスター」
テスは、呆然とその男の名を口にした。それで、赤毛の男―レスターは、はっと我に返る。そして、レスターは、両足をくじいた哀れな茶色い髪の男―ロイを放り出して、テスめがけて駆けだした。
「セシル!」
レスターに抱きしめられた瞬間、戸惑うテスに関係なく、心の奥底で狂喜に近い感情が沸き起こる。狂おしいまでの愛しさの感情。すさまじい勢いで肥大化したそれは間違いなく、俺ではなくセシルの感情…
『…?!』
と思った時には、テスははじき飛ばされていた。水の奥底から水面を突っ切って、外界へと。
水面からはじき飛ばされる刹那、テスは確かに水底に、消滅したはずのセシルの姿を見た。
「レスター!レスター!会いたかった!」
「セシル!俺もだよ!もう会えないかと思っていたんだ…!」
しかと抱き合う二人の男女。それを泣きながら見る、床に放り出されているロイと、そっぽを向いて涙を隠すノルン。
『……』
―何が、起こった?
その状況を、テスは天井近くに浮きつつ、呆然と眺めていたのだった。