表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/123

17-⑧:異世界の過去⑥

 彼女を失い、任地から帰ったテスは、ふらふらと呼び寄せられるかのように、かつての故郷を訪れた。そこには前とあいも変わらず、教会があった。


 しかし、中に入ると、祭壇の前に見知らぬ女が立っていた。ふわふわとした金髪を蔓草でゆるく束ねた、水色の瞳の美しい女性だった。


 彼女は泣きながら言った。『ごめんなさい。大切な人たちを救えなくて』と。

 テスはその言葉で、彼女が今までここにいた神だと気づいた。だからこそ、気づくなり、テスは彼女を責めはじめた。




 存在していたのならどうして救ってくれなかった

 ずっと見ていたのならどうして救ってくれなかった


 どうして町を救ってくれなかった

 どうして父と母を救ってくれなかった

 どうしてリアンを救ってくれなかった

 どうして彼女を救ってくれなかった

 どうして

 どうして

 どうして

 どうしてこんな腐った世界を創った

 どうしてこんな地獄を創った

 どうして

 どうして

 どうして

 どうして

 貴様は俺を救ってくれなかったんだああああ!!




 女神はうなだれながら、怨嗟の叫びとなっていくテスの言葉を聞いていた。

 何も言えずに、ただただ涙を流す女神に、テスは叫ぶ。

「貴様なんか神じゃない」

 テスは憎々しげに女神を睨みつける。そして吐き捨てた。


「こんな世界に、神などいない。居るはずなどいない。居るとしたら、貴様は神の役目を放棄したただの傍観者だ」

「……」


 ぐすっとしゃくりあげた女神を置いて、テスは教会を飛び出した。そして、彼がここに来ることは二度となかった。



**********


 それから数年後、テスが、自身が最期を迎える戦地に降り立った時、もうテスの国はほとんど原型をとどめていなかった。守るべき民も守るべき国土もほとんど何もかも失っていた。


 そして、テスのいた部隊は、敵の急襲を受け壊滅した。今更、上官下士官の差別なく、皆等しく物言わぬ死体となった。



「……」

 荒れた大地、辺りには物と成り果てた人間の体しかない中で、テスはぼんやりと目を開けた。いつの間にか夜になっていた。目を上げ空を見れば、今日はこんな地上の惨状に似つかわしくない、素晴らしい晴天の夜空だった。


 体中に銃弾を受けたはずなのに、それでもまだ生きている自分に呆れると、テスは唯一動く右腕をそれに伸ばした。そして、口元に持ってくる。


―これで、終わりか


 冷たい土の上、満天の星空は瞳に映っていても、もうテスの感情は何も動かなかった。


 無機質な感情で手榴弾の金具を噛み、一息にそれを引きぬく。やっと終われるという安堵のその後で、虚しい望みが一瞬だけよぎった。


「もういちど、会いたい…」

 リアンに、そして彼女に。

 死んだら終わりだから、もう無理なのはわかっているけれど。




 澄んだ静けさの中に、爆音が響きわたった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ