21③-⑤:生きろ、いつも傍に居てやるから。
『お前達、親交を温めている途中悪いのだが…』
ナギが申し訳なさそうに言ったのに、前髪をセシルにつかまれたままのテスが、「ああ?!」と振り返る。
「この構図のどこが、親交を温めているように見えるんだ?」
『いや、その…。とにかく、私の話を聞いてくれ。セシルがあまりここに長居すると、下界に帰れなくなるのだよ。だから、そろそろ別れの支度をしてほしいんだ』
「…」
つかみ合っていた3人は、ぱっと同時に手を離す。
「もうオレ、テス達に会えなくなるのか?」
セシルは、「そんなの嫌だ」と泣きそうな顔で言う。そんなセシルの肩を、ジュリアンは何でもない事のように笑って叩いた。
『大丈夫だって。見えなくても、オレはいつもお前の傍にいるんだし。テス達だって、これからはお前の事を、傍で守っていてくれるだろうし』
テスも、くしゃくしゃの毛を片手で直しながら、開いた手でセシルの肩を叩く。
「そうだったな。俺の本当の仕事は、セシルの高次の自己として、お前を見守る事だった。…と言う訳だ、セシル。そんなに寂しがるな。これからは、いつもそばに居てやるから」
テスは、セシルにふっとほほ笑みかけた。
「だから、自信を持って生きろ。何があってもくじけずに、最後の最後まで、幸せを求めて生きる事を諦めるな。俺達が傍にいる事を忘れるなよ」
「…テス、リアン」
肩に置かれている2人の手から、セシルは心強さと勇気が心に満ちるのを感じる。
「僕だっているよ!僕もセシルの傍にいるから!他の皆の所にも遊びに行く!」
リアンが、ぎゅっとセシルに抱きつく。
「ふふ…リアン」
セシルは、わき上がる暖かい心地に微笑みながら、リアンの体を抱きしめた。
『…さあ、時間だ。セシル』
「ああ」
ナギの呼びかけに、セシルは力強く頷く。そして、3人から離れ、ナギの元へと向かう。
「さよなら、そしてこれからよろしく。テス、リアン。それともう一人の可愛いリアン」
セシルは、3人を振り返るとにこりと笑った。3人も口々に「元気でな」「ばいばい」と手を振る。
「ナギさん、よろしく」
『ああ。元気でな、セシル』
にこりと笑いかけたセシルに、ナギは愛おしむかのような目線を送る。そして、ナギは、セシルの頭の上に手をかざした。すると、ナギの手から、青白い光の粒子がセシルに降りかかり、セシルの体は薄く透けていく。
「元気でなあ!!」
セシルは元気いっぱいに手を振った。3人も一生懸命に振り返す。リアンに到っては、ぴょんぴょんと背伸びするかのように跳ね、両手を振っていたので、セシルは思わずぷっと吹いた。
そして、セシルは、吹いた笑顔を最後に残し、消えていったのだった。