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21②-⑩:さよなら
荒れた山をいくつも抜け、テスはナギ山の山頂を目指す。
「ここが、俺の墓場か…」
テスは火口の上空に着くと、煮えたぎる溶岩のるつぼに目をやった。氷の結界を張っていても分かる、すさまじい熱気だった。
「前よりもひどい墓場だな…」
テスは呟いた。だけど、その口元には幸せそうな笑みが浮かんでいた。
―誰かを守るために死ぬ。それがこんなにも幸せな心地にさせるなんて
その幸せな心地に、テスはこみあげてくる笑みを抑えることができなかったのだ。
守りたかったモノを何もかも失い、孤独なままに死んだ前に比べれば、愛する者達を守って死ねる今は、十分すぎるほど幸せな臨終であった。
―セシル、イリス。元気でな
テスは心の中で、2人の幸せを祈った。そして、ふうと一息つくと、重力の魔法陣を消した。
テスは本来の重力に従って、落ちていく。
―さよなら
テスは、近づく溶岩の海を前に、静かに目を閉じた。