表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/123

21②-⑨:ありがとう

「ひどいよ、テス。自分を犠牲にしてまで、世界なんて守らなくてもいいのに…」

 アンリもぼろぼろと涙を流していた。テスは苦笑しながら、アンリを見る。


「やめろ、みっともない。大の男が泣くな」

「男でも泣くときは泣くよ…。…ひどいよ。友達に何の相談もなしに、勝手に一人満足して逝こうとするなんて…」


 ぐすっとしゃくりあげるアンリに歩み寄ると、テスは背伸びしてアンリの頭をなでなでと撫でた。


「お前と友達になれてよかった。お前のおかげで、俺は医者らしいことができた。そして、昔の医者としての志も思い出すことができた。お前がいなかったら、この世界でもやさぐれながら生きていたと思う。お前と出会えて、友達になれて、本当に良かった。ありがとう」

「テス…」


 アンリは、テスをぎゅっと抱きしめた。その背に手を回しながら、テスは幸せそうな顔をした。そして、誰にも、アンリにさえ気づかれないような、息のような声で呟く。



―今度は医者になれてよかったな



 セシルはもちろん、何よりもこの()の事を守りたかった。今度こそ。

 だから、こんなことをした。あんな酷い世界のように、彼女が苦しめられた世界のように、この世界がならないために。

 だから、もう悔いは何もない。



 テスはアンリから離れると、レスターを振り返った。

「レスター、セシルの事を頼む」

「ああ。だけど、その代わりに一言言わせてもらってもいいか?」

「…?なんだ?」

 何を言われるのだろうと少々不安になったテスに、レスターは微笑むと手を差し出した。

「前と同じことを言うけど…セシルとの縁をつくってくれてありがとう。俺はセシルに出会えたおかげで救われた。前世の俺と友達となってくれた君のおかげだよ。ありがとう」

「どういたしまして」

 テスは、ふっと笑ってレスターの手を握った。


「カイゼル」

 テスは、カイゼルを振り返る。

「……」

 カイゼルはというと、今にも泣き出しそうなのをこらえて、ぐっと唇を噛みしめていた。

 だから、何も言葉を発せられなかった。言葉を発せば、涙がこぼれるのが分かっていたからだ。


「お前には多少ひどいことをしたな。色々と我儘も言ったし、暴力を振るったりもした。…お前と一緒にいると、前の世界での親友といるかのような気分になってしまって。つい馴れ馴れしさが出てしまった。ごめん、それとありがとう。なんだかんだ言って、俺と一緒にいてくれて」

「テスううぅ」

 カイゼルは、だぱあと涙を流した。そんな情けない男に、やれやれと言いながら、テスはカイゼルの頭をよしよしとする。


 その間にも、テスの体はひび割れ続け、最早いつ爆発してもおかしくない状況となっていた。


「じゃあ、そう言う事で」

 テスはなんてことはないような軽い調子で言うと、ナギ山に向けて飛び立とうとした。

「待って!」

 そんなテスの腕をつかみ、セシルが引きとめる。セシルは幼子のように、ひどく心細そうな顔をして、泣きじゃくっていた。


「オレ、もう一人は嫌だ。お前がいなくなったら、怖くて生きていけない。もし、また不幸がやってきたら、もうオレ、生きていけない…」

 ぐすっ、ひくっと泣くセシルに、テスは仕方ないなあという顔をすると、セシルの頬を両手で包んだ。


「お前はもう一人じゃないんだ。お前にはレスターがいる。それにみんなだっている。お前が不幸になろうと、誰かがきっと助けてくれる」

「だけど、だけど…!!」


 セシルはテスにしがみついた。テスは、セシルの事を慰めたかった。しかし、自身の体はもう一刻を争う状態だった。だから、テスは寂しげな顔をした。そして、

「…うっ…」

 セシルの鳩尾に拳を沈めた。

 がくりと崩れ落ちるセシルの体を受け止め、レスターに託すと、テスは空へと飛び立った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ