こんな気持ち初めて
ポニー舎に前のベンチに先ほどの老人の霊が座っている。司はポニーのほうを見ている。
司と飼育員が何かを話しているが遠くて聞き取れない。祐二は、さらに近づいた。
「マツさんは半年前事故でお亡くなりになりました。」
司の声がかろうじて聞き取れた。
「そうでしたか、残念です。この子も悟ったんですかね。」
飼育員はポニーを見つめる。
「おねえさん、このメガネであそこのベンチを見て。」
祐二は飼育員に霊視メガネを差し出した。飼育員はメガネをかけてベンチのほうを向くと、涙を流し始めた。
「それ、幽霊が見えるんだ。会話はできないけど。」
祐二は飼育員と司の二人に聞こえるように説明した。
「マツ爺が来てたんですね。ポーちゃん、気づいてたんだ。」
このメガネが人の役に立った。あきらめかけていた祐二にとって、初めて手ごたえを感じた瞬間だった。もう少し頑張ってみようという気持ちになれた。飼育員からメガネを受け取りながら、今度は霊と話しができる霊話器でも作ろうかと考えていた。
「ありがとう。私、司。君、すごいね。」
突然の司の言葉に、祐二はドキッとした。
「ぼく、祐二。」
十五年前に戻ったような感覚だ。
(『夢の印税生活ー死者の原稿ー』を参照)
互いの連絡先を交換して別れた。すでに十五年前とはメールアドレスもSNSアカウントも変わっている。