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七殺星 流狼戦記  作者: たかもりゆうき
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第四章 衣津納   十二 月光

(おい)


 その時、俺の中でもう一人の俺が口を開いた。

 ああ、短い付き合いだったが、これでお前ともお別れだな。この野郎は命に代えても仕留めてやるから、最後まで見届けてくれや。


(ふざけんなクソが、何が最後だ。本気も出さねえ内に終わりになんかして(たま)るか)

 なに?

(俺を使え。今度こそ俺と本当に一つになるんだ)

 お前と一つにだと? それであいつに勝てるってのか?

(知るかよ。だが、やらなきゃ確実に負ける)

 自分に嘘は吐けねえか。ああ、その通りだ。で、どうすればいい。

(簡単なことだ。頭の上を見ろ!)

 上だと?


 俺はもう一人の俺に言われるまま、空を見上げた。

 そこにあったのは、天空に燦然と浮かぶ満月。

 その輝きを目にした瞬間、俺の頭の中は銀白の光で満たされ、それ以外の全てが消え去った。


 何も見えず、何も聞こえねえ……。

 だが俺の心に驚きはなかった。いつかきっとこの時が来る、それをずっと前から知っていたという事を、思い出しただけだ。

 ただ一つだけ、不可解な疑問が残った。

 今夜は満月、月はずっとあの空にあったはずだ。なのに何故、今の今まで俺はあれに気付かなかった……。


(それは、お前が無意識のうちに眼を逸らしていたからだよ。無論、昨日までのお前なら満月を目にしたところでどうってことも無かったはずだ。

 つまりはこれが、最後の封印ってことだよ)

 そうか……、そうだったのか。

(だがこれで、俺を縛っていたものは全て解かれた。さあ、今こそ(まこと)の自分に戻る時)


 光の向こうから、もう一人の俺がゆっくりと近づいてくる。

 俺はただ立ち尽くし、その時を待った。

 俺の前に俺が立つ。俺はそのまま歩を進め、俺と重なり……。

 そして一つになった。



「ウオーオーオーウルルルウォーオーー!!」


 胸の奥底から咆哮が迸る。

 体中の骨と肉がミシミシと音を立てて膨れ上がり、全身から灰銀色の剛毛が湧き出してくる。

 耳の先が尖り、手足の爪が鋭く伸びる。瞳孔が大きく開く。鼻先が突き出して行くのを感じる。

 俺は俺の全てを我が物とした。肉も、力も、封じられた記憶も!

 俺は自分が何者かを知った!


 血が沸き立つ!

 全てが蘇る!

 そうだ。俺は……、俺は……!


「うおおおおっ!」


 雄叫びと共に地を蹴る。

 俺は神速にも劣らぬ疾風の踏み込みで大猿に迫り、長く伸びた獣爪で奴の胸を掻き斬った。

 怯む暇すら与えず、火鏢を左肩に突き立てると同時に刃の如き牙で腕にかぶり付き、駆け抜けざまに喰い千切る。

 間髪入れず背中に廻り込み、後ろから首を狙う!


「ぬがああっ!」


 その時になってやっと俺の動きに追いついた大猿が振り向き、大太刀を振るって来た。

 俺は後ろに跳び退って逃れ、奪い取った大猿の左腕を剣のように構えた。


「へへっ、さあどうする」

「犬神よ、貴様もとうとう本性を現したな。ぐふふ、面白い」

「そろそろ決着と行こうぜ。

 片腕じゃ恰好悪いだろう。もう片っ方と、ついでに首も刈り取ってやるから、そこで大人しくしてな」

「ぐはは、何を言うか。儂の片腕なら、ホレそこにあるではないか」


 その言葉が終わらぬ内に、俺が持っている猿の腕がぐいと向きを変え、俺の顔めがけて襲い掛かってきた。


「うおっ!」


 慌てて放り出すも、その腕は宙に留まったまま、再び俺に向かってくる。


「くっ」


 火鏢で斬り付けようとすると、腕は小馬鹿にするようにヒョイと躱して地球王の所へ飛んで帰り、綺麗に肩口にくっ付いちまった。

 くそっ、やっぱりただ斬っただけじゃあどうにもならねえのか。

 だったら……。

 全身の気を奮い立たせ、火鏢に光を纏わせる。これならちょっとは効くだろう。


「む……」


 それを見た地球王も、油断なく大太刀を構える。

 野郎は俺よりも上流側。その背中の遥か彼方には、橙色に燃え上がる山々が見えていた。

 どうやら龍神を食い止めるのは仕挫(しくじ)ったようだが、ここでこいつを止めねえと、また何処かで悪さをしやがるに決まってる。


「さあ、行くぜ」


 再び突攻を仕掛ける!

 大猿は右手で大太刀を振り(かざ)し、左手で前を塞ぐ構えを取った。

 左腕は山頂でやった傷が癒えてはおらず、動きは鈍そうだ。あの大太刀さえ上手く捌けば、勝機はある。

 俺は躊躇なく正面から突っ込んで行き、大太刀が振り下ろされるより速くその懐に飛び込んだ。そして左手で大猿の右腕を抑えつつ右の鏢を突き出し、野郎の左肩を再び狙った。

 だが大猿は寸前で大きく跳び上がり、俺の頭を越えようとする。

 思わず上を見上げたその顔面を、大猿の右足がガツッと掴んだ。


「ぐあっ!」


 くそっ、流石は猿! 足まで器用に使いやがるか!

 すかさず鏢で斬り付けようとした俺の背中に、上から大太刀が襲い掛かる。

 俺は鏢で猿の脚を斬り付け、無理矢理体を捻って斬撃を避けようとしたが、逃れ切れず腰を大きく裂かれちまった。


「がっ……」


 地面を転がり、距離を取る。

 大猿は追撃を掛けて来ようとはせず、余裕の構えで俺を見降ろした。


「ぬはは、どうした。そんな事では本性を顕した甲斐がないぞ」

「野郎……」


 腰の傷は深かったが、血はすぐに止まった。

 マリモの血じゃねえ、これは犬神の力だ。と言うか、単に体が頑丈で傷の癒りが早いってだけだが。

 だがこれなら、ちょっとくらいは無茶が出来るってことさ。

 ようし、もう一丁。

 息を吐きながら立ち上がり、再び地面を蹴ろうとした、その時だった。


 地球王の背後で、山塊が緩やかに沸騰を始めた。




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