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七殺星 流狼戦記  作者: たかもりゆうき
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第三章 与一   二十一 頂

「蛍火はどうした」


 撫子に尋ねる。


「逃げられた。

 じゃが、そう長くは持たぬであろう。最後の頃には不死の力も切れたと見えて、急激に年老いてしまった様子であった」

「そうか……」


 そんな状態で、こいつの手から逃げられる訳がねえ。

 つまりは、お前が止めを刺さずに逃がしてやったってことだ。ったく、お前らしいな。

 見れば撫子も衣装はボロボロ、体中が血塗れだ。勝ったとはいえ相当激しくやり合ったんだろう。


「お前は大丈夫なのか?」

「なに、傷ならとうに癒えておる。摩璃桃姫ほどではないが、この程度なら自分で何とかできる」


 摩璃桃という名に、一瞬胸に痛みが走る。コト姉さん達は、無事に逃げ(おお)せただろうか。


「へえ、今度は女か。

 そいつも只者じゃなさそうだな。嬉しいねえ、ワクワクしてくるぜ」


 義経が太刀をブラブラ振りながら笑いかけてくる。


「何者じゃ、こ奴は?」

「源九郎判官義経さんだよ。大将と同じ死人(しびと)だ」

「ほう、義経とな」

「ぬははははっ! 巫女よ、儂の下へ辿り着きたくば先ずはその男を倒してみよ!

 義経よ、その女は強いぞ! 思う存分戦を楽しむが良い!」


 撫子がチラとだけ地球王に目をやる。

 義経もそれに釣られて一瞬視線を外した、その刹那。撫子の姿が忽然と消えた。

 神速!

 続いて、義経の背中で剣がぶつかり合う音が響く。

 なんて反応だ。背後から襲い掛かった撫子の一撃を、一瞬で太刀を回して受け切りやがった。ありゃあ、先に読んでたとしか思えねえぞ。


「ほう、なかなかやるのう。じゃがこれでは次の撃を逃げられぬぞ」

「どおおうりゃっ!」


 間髪入れず大将の鉄弓が正面から横殴りに襲い掛かる。

 義経は薄笑いを浮かべたままひょいとトンボを切り、撫子の頭を越えて背後に降り立った。今度は撫子が的になってしまう。

 だが大将は手を引こうとしねえ。

 当たった! と思われた瞬間に撫子の体が幻のように消え、鉄弓はそのまま義経のどてっ腹を殴り付けた。


「ぐわっ」


 義経の小柄な体がぶっ飛ぶ。

 その向かう先に再び撫子が現れ、棒剣を構えた。

 義経は寸前で地面を蹴り、横へと逃れる。

 そこへ先回りした大将が立ちはだかり、義経は二人の間で挟み討ちの恰好になった。


 よし、この隙に。

 俺は三人を残して頂上へ向かおうとした。

 こっちは二人に任せておけばいいだろう。俺は本命の地球王のクソ野郎をブッ飛ばしてやる!


「おい待て、この野郎!」


 義経が俺を追って飛び出そうとしたところへ、すかさず撫子が立ち塞がる。


「ちっ」


 再び三人が睨み合う。


「頼んだぜ!」


 その様子を横目に見ながら坂を駆け上がる俺の隣に、狼王が並んで来た。狼王は両目を閉じたまま、顔面を血糊で染め、それでも迷いのない足取りで地を蹴る。


「おい、大丈夫なのか?」

「ガウッ」


 狼王は心配するなとでも言うかのように、低く答えた。

 勘だけでここまでの動きができるか。流石だな。

 地球王は、山の天辺で傲然(ごうぜん)と笑い声を上げながら待ち構えていた。


「ぬは! ぬはははっ! 来るか、犬神の小僧よ。なれば存分にもてなしてくれよう!」

「クソがっ。山の皆の仇だ、覚悟しやがれ」


 おい気狂い犬、今度はちゃんと働けよ。

(うるせえ、てめえがクソだ)


 もう一人の俺が前をじっと見据えると、俺の目に地球王の体を包む結界がはっきりと映った。

 刀に気を込め、青白い光の遮膜を一気にブッタ斬る!

 月光一閃。結界は散り散りに消え去った。

 だが地球王は驚いた様子も見せず、余裕たっぷりの顔で俺を見下す。


「ほう、やるではないか」

「うるせえ、死ね!」


 一気に踏み込み、胴体の真ん中目掛けて横殴りに刀を振るう。

 だが渾身の一撃は、地球王の抜き放った大太刀に阻まれた。

 鋼同士が真っ向からぶつかり、火花を散らす。


「ちっ」


 地球王が、人の背丈程もある太刀をブンッと一振りする。

 俺は後ろへ飛んで逃れ、狼王は真っ直ぐ駆け抜けて地球王の背後を取った。


「よう、こないだみてえに気前良く斬られちゃくれねえのかい?」

「ふむ、今は蛍火がおらぬのでな。衣装を汚されるのはちと困る」


 ふざけているように見えるが、あの大太刀を軽々と振り回す様子を見れば、侮る訳にはいかねえ。

 頂上は、予想外に平らな台地になっている。戦うには十分な広さだが、その代わり利用できそうな岩や立木は見当たらねえ。

 闇雲に突っ込むのも芸がねえし、さてどうしてくれようかと思案していたところに、後ろから一頭の狼が姿を現した。

 それは狼王以外に残った最後の一頭。

 今まで戦いに参加せず、イヅナ兄さんを背負ってじっと様子を窺っていた白狼だった。

 イヅナ兄さんはその背中にぐったりともたれ掛かり、苦しそうに息を吐いている。


「兄さん、大丈夫か」


 さっきは元気になったと思ったのに、やはりあれほどの傷はそう簡単には直せねえか。

 それにしても、ちょっと様子がおかしい。


「ああ、なんとかな」


 兄さんは狼の背から降りると、気力を振り絞って地球王に向き合った。


「お前が盗賊の(かしら)か」

「ふむ。盗賊などではないが、まあ細かいことはどうでも良かろう。儂が地球王だ」

「河童の里の若長にして、龍神が十皇子(とおみこ)(みのたり)衣津納彦(いづなひこ)だ」

「ほう、龍神の皇子と。それは思いも寄らず御尊顔を賜り、恐悦であると申しておこう。ぬはっ」

「一つ聞かせて貰おう」


 兄さんがよろめきつつ、地球王を睨み付ける。隣に立つ白狼がそれを支えるように、体を寄せた。


「遠慮はいらぬ、何でも尋ねるがよい」

「何が目的で、こんな酷い事をした」

「なんだ、犬神から聞いておらぬのか。目的はただ一つ、儂の楽しみの為よ」


 ニタリと、下品な笑みを浮かべる。

 このクソ野郎が。




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