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七殺星 流狼戦記  作者: たかもりゆうき
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第三章 与一   十九 狂雄

 武者と刃を交わしたまま狼王の背を蹴り、地面に降り立つ。

 着地と同時に、武者が後ろへ飛び退った。

 その背後から狼の一頭が襲い掛かる。武者は振り向きもせずに身を沈めて牙を躱すと、自分の上を飛び抜けようとする狼の腹を一振りで切り裂いた。

 なんという身の(こな)し! なんという剛腕!

 狼はその一太刀で真っ二つになり、血飛沫を撒き散らしながら地面に転がり落ちた。


 時を置かず、今度は二頭が左右同時に飛び掛かった。

 武者はその僅かな隙間を華麗にすり抜けながら再び太刀を振るい、一瞬にして二頭の首を宙に飛ばす!

 何だ、あの技は。

 撫子や蛍火の神速とは明らかに違う。目にも留まらぬという訳ではねえが、まるで重さを感じさせねえ風のような体捌きと、紙一重の間合いを自在に操る。

 こんな恐ろしい剣術は見たことがねえ。


「ぬううりゃっ!」


 すかさず那須の大将が鉄弓で打ち掛かる。

 ガッ!

 武者の太刀が、それを真正面から受け止めた。

 体格はそれほど大きいとは言えねえ、むしろ小柄だ。なのに、あの剛力を平然と受け切るとは。

 いったい何者なんだ……。


「ふふ……、久しいな与一宗隆。暫く見ねえ間に随分と変わっちまったじゃねえか」


 武者が那須の大将に笑い掛ける。


「なに?」

「どうした、この顔を忘れたか?」


 その言葉に、大将の目が驚愕に見開かれる。


「あ、貴方は!」


 大将が剣を払って飛び退った。


「九郎殿っ!」

「なんだと?!」


 俺も思わず声を上げた。九郎ってまさか!


「ふふふ……。こうしてまた(まみ)えることができるとは、嬉しい限りじゃねえか。

 地球王に感謝だぜ」

「何故、貴方が……」

「何故って、お前と同じだよ。俺も墓場から蘇らせて貰ったのさ」


 那須の大将に刃を向けながら不敵に笑う。

 この男が、源義経。


「そんな……、貴方ほどの御方があのような輩に味方など」

「味方も敵もねえよ。あいつは、兄者殿に討たれた俺を再びこの世に呼び戻してくれた。戦場も用意してくれた。何とも有難え話さ」

「死の安らぎから無理矢理引き戻され、盗賊の傀儡(くぐつ)に堕とされて、嬉しいと申されるか」

「ああ、嬉しいね。嬉しすぎてじっとしてなんかいられねえや。そらよっと!」


 義経が一気に間合いを詰める。

 大将は鉄弓で上段から打ち掛かるが、義経はその剛打をも片手で軽くいなし、薄笑いを浮かべながら大将の腹のど真ん中に太刀を突き立てた。


「うむっ……」


 大将が腹を押さえて下がる。

 義経は一瞬の隙も逃さず、大将の首筋に刃を走らそうとする。その刹那に!

 そこがお前の隙だっ! 俺が(ひょう)を撃ち放つ!!


「ちぃっ」


 義経が太刀を返して鏢を弾いた。直後、裏に隠れたもう一本が義経のこめかみに突き刺さる!


「ぎゃあっ!」


 義経が声を上げてひっくり返る。

 必殺の影撃ちだ! ざまあ見やがれってんだ。

 すかさず那須の大将が打ち掛かるのをクルリと躱した所へ、更に狼王が追い打ちを掛ける!

 今度こそ避け切れねえ。狼王は体当たりをかます勢いで肩口にかぶり付き、(もつ)れ合って地面を転がり回った。

 あの牙から逃れられる訳がねえ、とうとうやったか。


 だが先に立ち上がったのは、義経の方だった。


「ガウッ! ギャウッ!」


 狼王は両眼から鮮血を迸らせながら、のたうち回っている。

 義経も肩と頭からドス黒い血のような何かを垂れ流しながら、それでもその顔に歓喜の表情を張り付かせていた。


「ふふははは……嬉しいねえ、嬉しいじゃねえか。これだよ、これが戦場だ!」

「九郎殿は、鎌倉殿に恨みを晴らすためにこの世に戻られたのか」


 那須の大将が苦々しげに声を掛けた。

 こっちも死人(しびと)の体、腹の傷も大して(こた)えちゃいねえようだ。


「恨む? 兄者殿をか?

 ははっ、馬鹿なことを言うなよ。戦は負けた方が悪いに決まってんだろ」

「だが九郎殿は、平家打倒の一番手柄であったにもかかわらず、謀反を企てたなどと有らぬ罪を言い立てられ、挙句にあのような無残な仕打ちを……」

「相変わらず真面目だねえ、与一さんは。そりゃあ有らぬ罪なんかじゃねえよ。謀反は本当の事だ」

「なんと!」

「そりゃそうだろ。憎い平家をやっつけちまったら、もう戦う相手がいねえ。となりゃ一番強え奴を狙うしかねえだろう?」

「まさか……。そのような話、俺は一言も聞き及んでおりませぬぞ」

「お前さんは生真面目だったからさ、どうせ乗ってこねえだろうと思って誘わなかっただけだよ。くくっ」

「く……」


 言葉もなく歯噛みする大将に、馬鹿にしたような笑いを投げ掛ける。

 これが義経か。噂通りの、いや噂以上の戦狂いだ。


「恨んでなんかいねえけどよ。

 せっかくこうやって生き返らせて貰ったんだ。もう一辺やってみようかって気にもなるじゃねえか」

「では九郎殿は、もう一度戦を起こそうという御積りか」

「ああ。なにやら地球王が天変地異を起こしてくれるらしいからよ。

 そうなりゃ国中が大混乱だ。兄者殿が慌てふためいている隙に兵を上げて、一気に鎌倉へ攻め込む。

 既に兄者殿に恨みを持つ者達には渡りを付けているし、死人(しびと)の兵隊も貸してくれるってよ。

 なんとも有難えこったぜ。ははっ」

「ぬうっ……」


「ぬは! ぬははははははっ! はっ! はっ!」


 突然、頭上から耳障りな笑い声が降り注いで来た。


「面白い! 実に面白い見世物であったぞ!

 犬神の小僧よ、よくぞここまで辿り着いた! 来たからには歓迎しよう!

 貴様も儂の力と技の成果を篤と楽しむが良い!

 ぬは! ぬは! ぬはははははっ!」

「地球王!」

 


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