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七殺星 流狼戦記  作者: たかもりゆうき
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第三章 与一   十一 対峙

(ろう)よ、おぬしはここへは一度来たことがあるのだったな。屋敷の中には入ったのか?」


 撫子が辺りに目を配りながら、尋ねてくる。


「いや、外だけだ。だが塀の上から見た限りじゃあ、かなり奥の方まで屋根が続いていたぜ。相当な広さだ」

「そうか、では入ってみぬことには何も判らぬな」

「では行こう」


 那須の大将はズカズカと庭を突っ切り、寝殿の前に立った。


「気を付けて下さいよ」


 あの中が以前のままだとすれば、途轍もない瘴気が渦巻いているはずだ。だが果たして……。

 大将は先程門を破った時と同様、鉄弓を片手で振り上げると扉に向かって無造作に振り下ろした。

 薄い扉はその一撃で粉々に吹っ飛び、屋敷の中が丸見えになる。そしてやはりと言うか、そこも(もぬけ)の殻だった。


「こないだ来た時は、この部屋には中の様子が見えない程に真黒な瘴気が詰まってやがった。

 今となっちゃあれが魔修羅石(ましゅらせき)のものだったんだろうってことは判るが、それらしい物は何も見当たらねえな」


 それでも部屋の中には、残り香とも言うべき瘴気が漂っているのが感じられる。これだけでも並の人間には相当堪えるだろう。


「撫子、お前は何か気配を感じぬか?」


 と、大将。


「いや、何も感じぬ。これは逃げられたやも知れぬな」

「しゃあねえ、とりあえず何か手掛かりでもねえか、探ってみるか」

「ふむ……」


 そこは結構な大広間だった。

 大将はズカズカと中へ進むと、奥の障子を開いた。弓で叩き壊すのでなく普通に手を使った分だけ、慎重になったと見える。

 そしてその奥もこちらと同じような空っぽの大広間だった。

 更にその先の障子を開くと、そこもまた同じような空き部屋だ。


「狼よ、そちらを開けてみよ」


 撫子に言われて右手の戸を引くと、やはりそこも空っぽ。撫子が開いた左手も同じだった。


「ふむ。尋常の寝殿の造りなればここは(ひさし)になっておるはず、そしてその奥には北の対が臨めるはずであるが」

「別に何が何でも決まり通りに作らにゃなんねえってこともねえだろ」

「まあそうだの。

 見よ、床が妙に荒れておる。これは何か重い物を動かした跡のように見受けられるぞ。それも部屋中じゃ」


 撫子はしゃがみ込むと、痕だらけの床板をそっと撫でた。


「これは、鉛じゃな」

「鉛?」

「この傷痕の黒ずみは、鉛が擦れてできたものじゃ」

「てことはつまり……」

「うむ、間違いない。魔修羅石を詰め込んだ鉛の樽であろう」

「どれ程の大きさかは知れねえが、鉛の樽ともなれば重さは相当なもんだろう。それを千個も運び出したってのか」

「盗賊共がどこへ消えたのかも、読めてきたようじゃな」


 床の上を、無数の黒い筋が川底のように奥へと続いている。俺達が目指す物もその先にあるってことか。


「ふむ、こんな所で時を過ごして逃げられてしまってはつまらん。少し急ぐとしよう」


 大将がそう言って次の間に向かおうとした、その時だった。

 突然の大音響と共に正面の障子が吹っ飛び、稲妻が襲ってきた。


「むおっ!」


 直撃を喰らったかのように見えたが、大将は咄嗟に鉄弓を掲げてその雷撃を受け止めていた。

 稲妻は大将の気を纏った弓に弾き飛ばされ、散り散りになって屋敷の中を暴れまわった。


「うおっ、危ねえ」


 思わず飛びのいた俺の足元に青白い閃光が突き刺さる。

 床と言わず壁と言わず、飛び散った稲妻が部屋中を焦がし、そこ彼処(かしこ)から火と煙が上がった。


「あーあ。おおい、早く消さねえと屋敷が丸焼けになっちまうぞー」


 ポリポリと頭を掻きながら雷の飛んできた方に向かって声を投げ掛けると、立ち上る黒煙の向こうから、思いのほか穏やかな返事が戻ってきた。


「案ずることはない。ここはもはや用済みゆえ」


 涼やかに響く声と共に姿を現したのは、あの白拍子一人だけ。側に地球王の姿はなかった。

 こいつ一人で俺達を待ち受けていたのか。


「よお、久しぶり。化け物オヤジの姿が見えねえようだが?」

「王は忙しい。虫けら共に(かま)けている暇などありはせぬのだ」

「へえ、何処へ行ったんだい?」

「知ってどうするのか」

「決まってんだろ。碌でもねえ事にならねえうちに、野郎を止めてやるのさ」


 俺が歯をむき出しにして笑いかけると、白拍子はすいと右手を上げ、手にした扇子でこちらを指した。


「相も変わらぬ粗暴な口ぶり。

 先頃は王への無礼なる振舞いの報いと村へ一軍を遣わしたが、よもや返り討ちとは思いも寄らぬことであった。まずは褒めて遣わそう」

「へへっ、そりゃどうも。なるほどね、ありゃああんたの仕業だったのか」

「なれど此度(こたび)はそうはゆかぬ。貴様等ごとき羽虫が如何ほど群れようとも、(わらわ)がいる限り我が(あるじ)には指一本触れさせはせぬのだ。

 虫けら共め、我が神雷の餌食となりてこの場に屍を晒すがよい!」


 言葉と共に、向けられた右手が青白い雷光を纏う。

 再び稲妻が放れようとした寸前、那須の大将が電光石火の踏込みでその懐に飛び込み、鉄弓で横殴りに打ち掛かった。

 だが白拍子は顔色ひとつ変えずその殴撃を左手で受け止めると、扇子を大将の顔面に突き付け、雷撃を撃ち放った。


 耳をつんざく轟音が屋敷を揺るがし、同時に大将の巨体が閃光に包まれる。

 大将は全身から炎を上げ、声もなくその場に倒れ伏した。



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