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七殺星 流狼戦記  作者: たかもりゆうき
29/76

第二章 撫子   十二 襲撃

―*―*―*―


 その日の深夜……。


「む……」


 何かを感じたらしい撫子(なでしこ)が、暗闇の中に身を起こした。


「どうした?」

「来るぞ。敵じゃ」

「そうか。じゃあ出迎えの用意をするか」


 この村にとっては、四度目の襲撃。

 だが、俺にとっては初めての本格的な戦闘だ。今回はこれまでみてえな物見とは訳が違う、おそらく大勢が相手の斬り合いになるだろう。

 刀二本だけじゃ心許ねえな。三本を腰に差し、槍と、(ひょう)をたっぷり。もちろん火鏢もだ。そして弓矢。

 撫子はまたもや薪棒を、今日は両手に二本か。


「もう来るのか?」

「そうじゃな、近くまで来ておる。じゃが多いぞ、優に百は超えておる」


 百だと?


「そりゃ不味いな」

「やむを得ぬ。あれをやるか」


 撫子は本堂の外へ出ると、上を向いて大きく息を吸った。

 まさか、ここから大声でも出すのか?

 と思ったら、両手を組んでそれを祈るような形で額に当て、大声どころかそれ以上に大きな気を、思い切り放った。


(敵襲じゃ! 皆の者起きよっ!!)

「ぐあ……」


 頭の中で撫子の怒号が響く。

 脳みそが吹っ飛ぶかと思うくらいの物凄い衝撃に、俺は思わず頭を抱えた。


「うぶっ、気持ち悪りい……。お前、ちっとは加減しろよ」


 まるで、いきなり頭を鷲掴みされて無茶苦茶に振り回されたような感覚だった。眩暈と吐き気でひっくり返りそうだ。


「済まぬな。あれくらいでないと、遠くまでは届かぬのじゃ。じゃがあれでも、村の半分くらいにしか聞こえておらぬだろう」

「それでも大したもんだ、寝込みを襲われるよりはずっといいぜ。じゃあ、行くか」

「うむ」


 まだ頭がクラクラするが、そんなことに構ってる場合じゃねえ。



 ―*―*―*―


 俺と撫子は、村の外れで敵を迎え撃つことにした。

 村の方では既に家々に灯りが点され、大騒ぎしている声も聞こえてくる。あれなら不意打ちを食らう心配はなさそうだ。

 だが相手は百を超える軍勢、しかも死人(しびと)だ。百姓達がそれに気付いたら、それだけで大混乱になっちまう。

 何としても、ここで俺達が食い止めねえと。


「来たな」

「うむ」


 遠くの方から蹄の音が響いてくる。

 それも撫子の言った通り、十や二十といった数じゃねえ。どうやら闇にまぎれてこっそり近づこうなどという気はないらしく、地響きを立てて向かって来る。


 俺は道の真ん中に立って、弓を構えた。

 ただの弓じゃねえ、俺様特製の強弓だ。

 普通の大弓よりも小振りだが、弓柄は二回りも太く、並の力じゃとても引けるもんじゃねえ。

 だがこれには更に仕掛けがある。弦を普通に張るのではなく、弓の先端に穴を通して往復させてあるんだ。

 こうすると、弦を普通の三倍もの長さで張ることが出来、固い弓の力を存分に溜め込むことが出来るってわけだ。

 そして番える矢もただの矢じゃねえ。(やじり)の代わりに火鏢を付けて、火矢にしてある。

 例の帆掛けとは違って、こいつは何度も試しながら改良を重ねた自信作だ。


 先頭の姿が見えたところで火鏢に火を灯し、弓を思い切り引き絞って素早く放った。

 そして更にもう三本、続けざまに撃ち放つ!


 最初の一本は、先頭を走る馬の首筋に刺さり、馬はその場でひっくり返って、乗っていた奴を振り落すと同時に後続の数頭を巻き添えにした。

 ったく、これだから素人はよ。

 あんなに密集して来やがるから、避ける隙間も取れねえんだ。


 続く二本は、人間の方を(とら)え、二人とも馬上から叩き落とした。

 火鏢は普通の鏃よりもずっと重く、そのうえ相手がこっちに突進してくる勢いも加わるから、当たった時の衝撃は相当なものになる。

 人間一人くらいは、軽くブッ飛ばしちまうぜ。


 そして四本目。

 炎の尾を引いた矢が、馬上の男の胸のど真ん中に突き刺さる。

 次の瞬間、男の体が爆発した。


「おっ、当りだ」


 突然の惨事に、後続の馬たちは大混乱に陥った。

 見ると、暴れる馬を必死に抑えようとする奴等とは別に、一目散にその場から逃れようとする連中がいる。なるほど、あいつらが死人ってことだな。


「死人ばっかりかと思ったら、意外と生きてる奴も多いみてえだな」

「うーむ、そうでもなさそうだぞ。生者は前の方だけで、後ろは死人だらけのようじゃ」

「なるほど、そうか」


 死人は脳が(とろ)けちまってるみてえだから、生きてる人間が率いて来ねえと、まともに働けねえってことなのかな。


「だったら」


 俺は天に向けて弓を引き絞り、群れのど真ん中あたりを狙って火矢を放った。

 これで死人に火が付けば、周りの連中もまとめて巻き添えにしてくれるだろう。

 ところが、闇夜に火矢はやはり相当に目立つものだったらしい。

 空高く飛んでくる炎を目の当たりにした死人達は、蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出し、火矢は空しく地面に突き刺さった。


「あちゃ、失敗だ」

「失敗どころかおぬし、あれをどうするつもりじゃ」

「あん?」


 なんと、逃げ出した死人達は、その混乱のまま大きく散らばって、道と言わず畑と言わず無軌道に向かって来やがった。

 こりゃまずい。固まって来れば迎え撃ちようもあるが、こんなにバラバラになられちまったら、全員を狩るのは難しい。


「くらあっ、てめえ!」


 そうこうしてる内に、盗賊達が襲いかかって来た。


「おっと」


 弓を放り出し、槍を構える。


「文句を言っておる場合ではないの。仕方がない、やるとするか」

「そういうことだ」


 刀を振りかぶって向かって来る野郎のその腕を槍で切り付け、怯んだところに首を一突き。

 そいつの体をそのまま振り回して隣の奴に叩きつけ、よろけた所で胸を串刺しにする。二丁あがりだ。

 と思ったら、槍を抜いた途端、刀を振るって襲いかかって来やがった。しまった、こいつは死人か!

 間一髪で身を(かわ)す。

 空振りして体勢を崩した死人の顔面を、撫子が薪棒じゃなくて光の剣で殴りつけた。

 すると、死人の全身が薄桃色の光に包まれたかと思うと、その体が土人形のようにグズグズと崩れちまった。

 すっげえな。


「助かったぜ」

「無駄口叩いておる暇はないぞ」


 盗賊どもは次から次へと向かって来る。

 俺は槍を捨て、両手に刀を構えた。死人相手には突くだけじゃ駄目だ。きっちりブッタ斬ってやらねえと。


「おらあっ、来やがれ!」


 二本の刀を風車のように振り回し、取り囲んで襲って来る野郎どもの手足と首を片っ端から斬り落とす。

 撫子も、群れを成す盗賊達の間を縫うように走り抜けながら、その光剣で連中を次々と殴り倒していた。

 どうやら撫子の光は、死人だけでなく生きた人間にも効くらしい。

 叩かれると、死人はボロボロに崩れ落ちるが、生きている奴は雷に打たれた様に白目を剥いてひっくり返る。

 あれはもしかして、殺してはいねえのかも知れねえな。そういう所が、なんとも撫子らしいっていうか。


「はあっ、はあっ。撫子、大丈夫か」


 二人背中を合わせ、周りを睨み付けながら、息を吐く。


「ああ。じゃが、これは不味いな」


 既に何十人という盗賊を倒したが、それと同じくらいの者が俺達の横を通り過ぎて、村へと向かっていた。

 襲って来たのは、百人なんてもんじゃなかった。その倍以上の盗賊達が、次から次へと現れてくる。

 俺達も一刻も早く村へ向かいたかったが、すっかり取り囲まれてしまって、身動きが取れないような状況に陥っていた。


「くっそお、こんな所で足止め食らっていたんじゃ、村が……」



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