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七殺星 流狼戦記  作者: たかもりゆうき
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第一章 狼   十四 秘薬

 河童の秘薬か。

 これが初めてじゃねえはずなんだが、なんかドキドキするな。

 などと思っているうちに、背中になにやらあったかいものがバシャバシャとかけられ始めた。

 うん? こりゃあ……。

 何だろう。てっきり塗り薬みてえなものかと思っていたんだが、これはやけに水っぽいな。

 それに熱いって程じゃねえけど、体が冷えているせいか妙に熱を感じる。

 (ぬる)めの湯のような……。て、あれ? でもこいつらって、湯なんか沸かせねえはずじゃなかったのか?

 はてな。


 なんてことを考えている間にも、薬は背中に続けてかけられている。

 それも、最初は気付かなかったけど、どうやら柄杓(ひしゃく)でバシャッという感じじゃなくて、水差しみたいなものでジョロジョロといった風だ。

 いったい何をやってるんだろう。

 俺は、ついさっき「見るな」と言われたこともすっかり忘れて、ヒョイと後ろを振り返った。

 そして、本当に見てはいけないものを、この目でしっかりと見てしまったのだった。


「あ」

「あ」


 マリモと目が合い、二人同時に声を上げる。

 振り返った視線の先で繰り広げられていたのは、俺の背中に跨り、下をむき出しにして小便をしている幼い娘のあられもない姿だった。


「狼さんの馬鹿あーっ! 見ないでって言ったのにーっ!」

「すっ、すまねえ!」


 俺は慌てて前を向いた。

 その間も、小便はジョロジョロとかけ続けられている。まあ、こればっかりは途中で止めようと思って止められるものじゃねえもんな。

 それにしたって!


「河童の秘薬って、これかよ!」

「へえ? 秘薬ってなんだい?」


 と、相変わらず暢気(のんき)そうなイヅナ兄さん。

 なんだいって、あれ? 俺が勝手にそう思い込んでいただけか?


「まあ、ちょっとやそっとの傷くらいなら、小便かけときゃ治っちまうだろう? 特に人間には、オイラ達の小便はよく効くみたいだしなあ」


 そりゃそうかも知れねえが。

 ちょっとやそっとじゃねえだろうが!


「まっ、まさか。俺の胴体もこれで繋いだってのか?」

「いやあ、さすがにそりゃ無理ってもんさね」

「じゃあ……」

「だからあん時はなあ、小便じゃなくて血を使ったんだよ」

「血だと?!」

「本当はマズいんだけどなあ。マリモが、絶対助けるんだってきかなくてなあ」


 小便を終えたマリモは、立ち上がると黙って俺に背を向け、顔を押さえてしゃがみこんだ。

 ホント、ごめんよ。


「そりゃあつまり、河童の生血(いきち)……」

「まあそんなとこだ」

「そうかい、そりゃ本当にすまなかったな。俺なんかの為に、兄さん達にそんなことまでさせちまったのか」

「あはは、オイラは何もしてねえよ。やったのはマリモだけだ」

「なんだと?」

「まあなんて言うかなあ、相性っていうのかなあ。オスの体には、メスのやつの方がよく効くんだよ。

 それでも狼さんのはちょっと酷かったから、マリモもけっこうな量を使っちまったよなあ」


 そうだったのか。


「知らなかったぜ、あんたらの血にそんな力があったなんて」

「うん、あんまり人間に知られちまうと良くねえんだけどなあ。

 なにしろ、血だけでもこれなのに、肉まで食うと不老不死になっちまうって話だからな。本当かどうか知らねえけど」

「河童の肉で不老不死? そりゃ初耳だな。人魚の肉が不老不死の霊薬だってのなら、聞いたことあるけど」

「人魚? ああ、海の河童か」


 はあっ?


「人魚が河童の仲間だと? なんだそりゃ!」

「えー、知らなかったのかい?」

「だって、人魚ってのは体の半分が魚なんだぜ。あんたらと全然違うじゃねえか」


「海っていうのは、オイラは見たことねえけど、山の向こうの向こうくらいまでずうっと続くでっかい沼みたいなんだってな。狼さんは見たことあるかい?」

「おう、あるぜ。山の向こうの向こうどころか、その向こうのずっと先まで、ぜーんぶ水だらけだ」

「へえ、すごいなあ。そんな水ばっかりの所にいるなら、そりゃあ魚みたいな格好の方がいいに決まってるよなあ」

「まさか、住む場所に合わせたっていうのか?」

「そりゃそうだよ。だからオイラ達山の者は、(おか)を歩くのに便利なように足を生やした訳だしな」


 ううむ、一理あるっつうか。

 でも、そんな簡単な話なのか?


「海かあ。オイラも一度、見てみたいなあ」

「マ、マリモも見たい……」


 後ろを向いたまま、ボソッと。


「そうかい。じゃあいずれ機会があったら、一緒に見に行こうか。

 長い旅にはなるだろうけどよ。なあに、この川をずっと下って行きゃあそのうち着いちまうからよ」

「ホント?!  狼さんの狼さん、連れてってくれるの?!」


 マリモが振り向いた。


「おうよ」

「やったー!」


 ホッ。どうやら機嫌を直してくれたようだ。


「それにしても、マリモちゃん」

「ん?」

「こんな俺なんかの為に痛い思いまでさせちまって、ホントに済まなかったな。改めて礼を言うぜ」

「えっ……、だってそんな……別に…、えへ」


 相変わらずの照れ屋っぷり。でもな、こんな程度じゃ俺の気持ちは収まらねえよ。


「いや、ホントにホント。

 マリモちゃんは命の恩人だ。この礼はきっとする。

 何でも言ってくれ」

「ほんと? やったー! じゃあ、狼さんのお嫁さんにしてっ!」

「………」


 えっ?


「ねっ!」

「……ごめん、ちょっと考えさせて」

「うんいいよ! やったー! やったー!」


 いやいや、だから俺はいいとは言ってねえってば。

 助けて。と、イヅナ兄さんをチラと見ると、


「ああ、そりゃ目出度いなあ」


 だと。勘弁してくれよ!


「さて、それじゃあそろそろ行くかね」

「うんっ、行こう行こう!」


 俺も、二人の後に続いて立ち上がった。


「う……んっ! 、と」


 体を伸ばしてぐるんぐるんと回すと、体のあちこちがバキバキッと音を立てた。

 うん、問題ねえ。完全に(なお)ったみてえだ。


 嫁さんはともかく、この二人にはいずれきちんと恩返しをさせて貰わなくちゃな。


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