6.「Fカップ」
ステラちゃんは、ステラちゃんパットの自慢を続ける。
「ここを押せば登録者のステータスを見られますよ」
ステータスって……
ゲームみたいだなあ。
こちとら洒落で生きているわけじゃあないんだけど。
そうは思うが一応気になって開いてみた。
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登録者ステータス
名前:『セナ』
称号:女戦士
カップ:F
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……何の参考にもなりそうにないステータス欄であった。
つーか、ステータスというくらいだからレベルとかヒットポイントとか、そういうのじゃねえのかよ。
まあ、しかし。
それにしても。
Fかぁ。
「くっ。なかなかやりますね。少しだけ負けました」
と言って、ステラちゃんは自らの慎ましやかな胸を見ながら言った。
「どこが少し……」
とまで言ったが、彼女の瞳が涙目になっているのに気づき、俺はそっと口をつぐんだのである。
「こ、この称号ってのは何だ?女戦士ってなっているけれど」
俺は何とか話題を逸らせようとして、かろうじてステータスっぽい唯一の部分について触れてみた。別に興味も関心もなかったけれど、そこ以外に食い付こうにも食い付く部分がないのだから仕方あるまい。
すると、こちらの気苦労も知ってか知らでか、ステラちゃんはパアっと明るい顔を取り戻す。
「そうです、女戦士。それがセナさん、あなたの称号であり、職業であり、属性なのです」
景気よく説明してくれたが、説明になってんのか?これ。
そんなふうに言われても、よくわからない。
そう不平を言うと、ステラちゃんは逆に驚いたように言う。
「え?これ以上噛み砕きようがないくらい簡潔じゃないですか。何がわからないかがわかりません」
「とどのつまりさ、戦士ってのは具体的に何をすりゃいいの?」
「ああ、なるほど」
ステラちゃんは遠い目をして、溜息と共に言った。
「セナさんはよほど暴力に縁のない育ちをしてきたのですね」
「い、イイコトだろ?」
と聞くが、天使は軽く首を傾げて苦笑して、これに答えない。
「いいですか。戦士というのは武器を持って戦い、敵を殲滅する人のことです」
「だから、それくらいはわかるって。だけど別に、敵なんていねーし」
「でも、現に魔物を一匹殲滅しているじゃないですか」
「こ、これはほんの拍子って言うか、殺す気はなかったんだ」
我ながら何だか推理ドラマの犯人のようなセリフである。
「謙遜しないでください。単なる拍子であのように深く肉をえぐることはできません。それにあの時、私はセナさんの強い攻撃精神を感じました。ああして、がんばって魔物と戦い続けている限り、私はあなたの味方ですからね」
「刺すところ、見てたの?」
「ええ。カッコ良かったですよ」
結構ブザマに叫び散らしていた気がするけどなあ。
まあ、でも。
そんなふうに言われて、俺は少し考えこんでしまった。
そりゃあ、あの化け物、魔物に対してご機嫌な心持ちを覚えなかったのは確かである。
でも、自分がそんな積極的な意思を持っていたかどうかとなると、話は微妙な気がする。
しかし、逆に言えば魔物に対して敵意のないことを積極的に主張したいとも別に思わなかった。
そんな曖昧な心持ちは、曖昧であるが故に煮立った鍋に浮かぶアクのようにまとまりがなく、言葉として出ては来ない。
「女戦士セナさん。私、あなたには期待していますから」
だから、美しい天使がそう言って微笑めば、もう自分は一刻も早く魔物と戦わなければならない、というような気がしてくるのであった。