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10.「鼻」

 よし、一匹倒した。


 が、その勢いで身体が横向きに流れて倒れてしまった。

 練習とおりに立ってはいられなかったのである。


 しかし、それはそれで良かったのかもしれない。

 一匹目の首を刈ったことによって残りの二匹は怯んで逃げてしまうかもしれなかったが、俺が倒れ込んだのを見て、角のヤツはこれを好機と見てかノコノコと近づいてきやがった。

 俺は伏せて、何かしらのダメージを受けているかのように装いつつ、横目でそれを確認すると剣をしかと握った。


 果たして角のヤツが踊りかかってくる。

 その時、俺はとっさに剣をそちらへヌっと突き出したのだ。

 すると、敵から剣の方へ飛び込んでくれた形となり、即座に二匹目も殺すことができた。

 いくら角があっても有効にそれを活かせていないのは明白で、俺はソイツの角にだけ淡い感傷を覚えたのであった。


 さて、残るは男のイチモツが鼻になっているヤツである。


 コイツは他のヤツらよりさらに表情が読めない。

 ボーッと突っ立て、こちらを焦点の合っているんだかいないんだか分からないような瞳で見ているだけである。

 容姿が一層おぞましいだけに何かあるのではないかと深読みしてしまいたくなる。


 そう言えば俺は、鼻がこんなことになっているヤツということを、これまでも幾度となく想像して来た。

 まったく怖ろしい話だ。

 いくら今は俺の持ち合わせていないモノであるからと言え、鼻から生えるくらいなら生えてこなくて良いに決まっている。


 まったく。

 以前から、「そんなヤツを本当に目の当たりにすれば、俺はどれほど同情するか知れない」と想像しておっかながっていたものである。


 しかし、これが同情に値するためには、こういう容姿が何かしら苦になるような自我と社会性を持ち合わせていなければ成り立たない。

 自分の容姿が気になるのは、自分と言うものが何ほどか確立されている場合に限るだろう。早い話、重度のキチガイの感覚では容姿の良し悪しは問題にならんはずである。逆に、自我が強すぎると自意識過剰になりやすくなるだろう。

 あるいは、容姿が問題に上がるのは、社会というものがあるからとも言える。これは「美醜に絶対的なものはあるかどうか」という複雑な話が控えていそうで面倒だ。

 俺は、美醜に絶対的なものはあると思っている。でも、美醜に絶対の領域があるにしても、理性がそれを絶対的に捉え得るかどうかは別問題であり、そしてそんな能力は人間にも他の生物にもないに決まっている。

 少なくとも「自分の容姿」ということに関して言えば、他者との相対を持って観じえる他ないのは明白である。



 つまり、何が言いたいかと言うと、この鼻の化け物は、この鼻を別段苦にしている様子はないということだ。

 自分の鼻を苦にするような「自分」という意識も持ち合わせていなさそうだし、鼻がハンディキャップとなるような「社会」もなさそうである。


 そういうわけで、本人が別段苦にしていないものを同情するわけにもいかない。



 よく見ると、ソイツは俺を見ながらのんきに鼻水を垂らしていた。

 白濁の鼻水である。

 これは、俺に発情しているということか?

 ゾッとしない……


 俺は立ち上がり、剣を杖にしながらソイツの近くへ歩んで行く。

 リーチの中に入った。

 それでもまだ、その眼は俺をボンヤリ見つめている。

 ためしに剣を振りかざしてみる。

 すると、視線が宙にいった。なんのことはない。剣先が動いたのでそちらに目が行ったというだけのことだろう。


 コイツは本当にただ反射と反応だけで生きているようだ。

 そして、剣を振るうとワケもなくその首は胴から離れた。

 彼の反射と反応は終わりを告げた。




 一番弱かったのは最後の鼻であったが、一番おそろしかったのもまた最後のヤツであった。

 なんだか一番非人間的に見えて、一番人間っぽかった気がしたからであろう。

 とりわけ、元の世界の「一般市民」とやらの臭いに似ている気がした。






 かくして、魔物の狩りが終わると真後ろから声がかかる。


「すごいじゃないですか。いきなり三匹殺しちゃいましたね!」


 天使である。

 天使のセリフとは思えんけど。


「一匹殺るのも二匹殺るのも殺るのは同じだからな」


 俺は俺で、何だか連続殺人犯の供述のようだ。


「つーか、ステラちゃんって出たり引っ込んだり自在なんだね」


「あたり前ですよ。天使なんですから」


 知らんがな。


「それより、これで何ステラちゃんポイントになった?」


「ええと、ちょっと待ってくださいね」


 ステラちゃんは、タブレット……ではなくて、ステラちゃんパットを操作する。


「ってか、そのステラちゃんパットを俺にくれればいいんじゃね?」


「え、何を言うんですか……」


「だって、そうすればわざわざ何かあるごとに出てきてくれなくても済むじゃん」


「酷いです!それじゃあ、ステラちゃんパットさえあれば私の存在が必要ないとバレてしまうじゃないですか!」


「そ、そこまでは言ってないだろ……」


 何もそこまで自虐的にならんでもいいのに。

 なにはともあれ、今回倒した魔物のspは以下のようであった。



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名前:セナ

本日撃滅数3


みつ目ゴブリン(50sp) 1匹

双角ゴブリン(80sp) 1匹

鼻 (5sp) 1匹

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 鼻……すげー評価低いんだな。

 いや、でもこれで135spか。

 何だか生活が成り立って行くきざしのようなものが見える気がするぞ。




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