クリスマスの悲劇
「クリスマス」。皆で楽しく夜を過ごし、子供達はサンタさんからのプレゼントを楽しみに待つ日。そんな楽しい日に起きた悲劇をお届けしましょう。
僕の名前は塩 光輔。ごく普通の家庭のごく普通の高校生。
そしてここは、僕が通う学校の屋上。
この屋上は、誰も入ってはいけなが鍵が壊れているので、誰でも簡単に入れてよく告白する場所と使われている。
僕も今日、このクリスマスに告白する為にここを利用している。
なぜ今日かというと、もちろんクリスマスだからである。
だが、クリスマスだからと言って簡単には告白する勇気はでなかった。
その勇気が出たのはこんなことがあったからである……。
クリスマス・イブ。または、クリスマスの前日のことである。
僕は、教室の窓側の席で雪を眺めていた。
すると突然、
「どうした光輔! 元気ないな~。もしかして、水溜さんのことでも考えとったか?」
と、陽気で聞きなれた声がした。
「ち、ちょ、ちょっと声がでかい」
僕は慌てて、貞哉君の口を塞いだ。
貞哉君は乱暴に僕の手を払い、
「いきなり口塞ぐな、ボケェ。息が出来ひんやろ」
「ご、ごめん」
僕は静かに席に着いた。
彼の名前は毛受 貞哉。幼稚園からの付き合いで、一番の親友。
彼の家庭は少し複雑で、今は一人ぐらいをしているが、それ以外は彼もごく普通の高校生。
貞哉君の口から出た水溜さんというのは、僕の席の斜め後ろの女子。名前は水溜 憂稀。
頭脳明晰で、運動もできて、可愛いというより美しい。黒くて長い髪を括っている赤のリボンがとても特徴的。
「ほんで、どうするん? 明日から冬休みやで。約2週間水溜さんと会えへんで」
貞哉君は楽しそうに聞いてきた。
こっちの気持ちも知らずに、楽しそうにいる貞哉君が羨ましい。
「どうするって何が?」
「はぁ~? 光輔、お前マジで言ってるんか? 情けない……。あんな、普通好きな人が出来たら告白するもんやで。しかも、明日はクリスマスという絶好のチャンスやのに」
貞哉君は呆れた顔で僕を見た。
「だって……」
僕は目を逸らした。
「もし、告白して答えがダメで、いまより関係が悪化したらって考えると、とても怖くて……。それに僕何かが、水溜さんと釣り合うはずないし」
僕は思っていることをそのまま言った。
貞哉君は、珍しく真剣な顔で僕を見た。
「あんな、だれしも、嫌われるかも、今までのような関係に戻れないかもって不安になる。それはしかたない。だって、相手の感情は分らん。未来なんかもっと分らん。けどな、みんなそんな不安に勝って、告白という人生で数少ないイベントに挑むや。そして、幸せを掴むんや。まぁ~中には掴めなかった者もおる。けど、それはそれで良い経験になり今後の人生に活かしてる。お前みたいに、グチグチ言っているヤツは幸せなんか掴めんし、変化すら起きひん」
貞哉君はすこし強気で言った。
「それにお前、水溜さんと釣り合うはずがない? それはお前が決めることちゃう。水溜さんが決めることや。もし、水溜さんがお前とは釣り合えるって思っていても、お前がそのように思ってるんやったら、釣り合うはずがない。後もう一つ言うなら、恋人って関係は釣り合う、釣り合わないって考えることちゃうで……。少し自分の気持ちに素直になれば? 告白しない言い訳ばかりを探すな」
貞哉君はさっきよりも熱く言った。
貞哉君がいうことはあっている。
僕もそうするべきだと思っている。
逆にしないほうが良い理由は本来ない。
全て言い訳だ。
……それなら、告白しても良いのでは?
けど……。
「告白するにはどうすれば……?」
僕は最後にして最大の難関のことを聞いた。
「それは任せな。俺が屋上に水溜さんを呼び出す。そして、光輔は自分の気持ちをそのまま伝えな」
貞哉君はあっさり答えた。
僕は少し嬉しく、恥ずかしくなった。
もう、迷わない。
告白して、幸せになる。
勝ち組という分類になる!
そして今にいたる。
僕は、今にでも沈みそうな夕陽を安全対策用のフェンスすらない風通しが良く、かなり冷えた屋上にいる。
約束の時間より、数時間も早くいるので体がとても冷えてしまった。
けど、貞哉君からは「早めに行くべき」と言われたので早くきたが、少し早すぎた。
そして約束の時間になった。
突然、風の音以外の音が聞こえてきた。
その音がした方向を向くと、水溜さんが扉を開けている姿が見えた。
その瞬間、心臓がいつもより早く鼓動を打ち始めた。
水溜さんは、扉を閉めて僕に近付いた。
そして僕に近付くと、
「あれ? 毛受君は」
不思議そうな顔で、風で靡く長い髪を抑えながら聞いた。
「貞哉君は来てないよ」
僕は平然をよそいながら言った。
「そっか~。毛受君から突然『話があるから屋上に来てくれ』って言われたけど、塩君はなにか聞いている?」
「いや、何も聞いてないよ」
僕はまた平然をよそいながら言った。
僕は今から水溜さんに告白する。
今がとてもチャンスだ。
予定通り、ここで告白すれば問題ない。
いける、大丈夫だ。
僕は、両手を握りしめ、深呼吸をした。
そして、
「水溜さん。話がある」
「なに?」
水溜さんは、少し微笑んで聞いた。
僕は、両拳にさらに力を入れた。
「僕とつき」
すると突然、強風が吹いた。
「あってください」
僕は大声で言ったけど、全て風の音でかき消された。
さらにその強風の影響で、水溜さんのリボンが飛んだ。
「あっ」
水溜さんは飛んでいるリボンを見た。
「塩君ごめん。さっきなにを言ってたのか聞こえなかった。後でもう一度言って」
そう言うと、水溜さんはリボンを追いかけた。
「え、あ、うん」
僕はそう言うと、僕も追いかけた。
リボンはだんだんと速度を落としながら、低いところを飛んでいた。
水溜さんは無我夢中でリボンを追いかけた。
そして、あと少しで手が届きそうになった。
しかし、そこは屋上の端で残り数メートル先は何もない。
「危ない」
僕はとっさに叫んだ。
しかし、水溜さんは聞こえてなくて、そのまま走り続けて、ジャンプした。
そしてリボンは取れた。
僕は安心した。
しかしその瞬間、水溜さんはバランスを崩した。
そして、そのまま屋上の向こう側に体が飛び出しそうになった。
僕は慌てて水溜さんを掴もうとした。
僕は何とか水溜さんの手に触れることが出来た。
しかし、視界がだんだんと低くなり、その途端、水溜さんがもっと先にいた。
そして、僕の視界から消え、突然だんだん暗くなった。
僕は目を開けた。
そこには、白い天井が見えた。
なぜ天井があるのか不思議に思った。
横を見ると、貞哉君と点滴が見えた。
「気がついたか?」
貞哉君が優しく聞いた。
「ここは?」
僕は何も理解できないこの状況を貞哉君に聞いた。
「病院や」
「病院?」
貞哉君に聞いてみたけど、やはりこの状況は理解できない
「お前は屋上で倒れていて、病院に運ばれて、今病室におる」
貞哉君はさっきよりゆっくり優しく言ってくれた。
その途端、水溜さんのことを思い出した。
「水溜さんは?」
「……」
貞哉君は答えてくれなかった。
「水溜さんは?」
僕はもう一度聞いた。
「……死んだ」
「……え?」
僕は全く理解で出来なかった。
僕は貞哉君の胸倉を掴んだ。
「どういうこと!? 水溜さんが死んだってどういうこと!?」
「……屋上から落ちて死んだ」
僕は、最後に見た水溜さんの光景を思い出した。
貞哉君が言っていることは、最後の光景と辻褄合う。
「う、嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」
僕はそのまま泣き崩れてしまった。
後から聞いた話によると、あの時水溜さんは空中でバランスを崩したらしい。
そして、そのまま屋上の外に出かけた水溜さんを僕が助けようと手を出した瞬間、僕は昨日の雪の影響で凍りついた場所があり、そこで足を滑らせ、助けるどころか逆に水溜さんを押し出したらしい。
その結果、そのまま押し出された水溜さんは落ちたらしい。
僕は、滑って倒れた時に頭を打って気を失う程度ですんだけど、水溜さんは……。
その後、僕は無事に学校に復帰できたけど、周りからの視線が厳しくて、それに耐えきれずに退学をして、家に引きこもった。
最初のころは、B君は心配して家にきてくれたけど、両親の離婚が原因で引っ越しをしてしまい、一人ぼっちになった。
もう僕は告白しないと誓った。
風通しの良い、水溜さんが亡くなった場所に毛受が立っていた。
毛受は左耳に見たこともない器械を付け、その機械を左手で抑えながら、右手は空中をまるでそこにモノがあるように手をスライドさせたり、押したりしていた。
「はいは~い。こちら毛受です」
毛受は笑顔で、電話(受話器にあたるものがみあたらないが)をしているようだ。
「…………はい。無事に塩プロジェクトがおわりました。どうやら、将来は結ばれる運命であるものでも、この世界の者ではない第三者の干渉があると、破局、結ばれない、もしくはもっと最悪な結果になるようです。…………はい。しかたありません。我々の科学の発展の為には光輔には悪いけど、必要な実験です。…………ふっん。そりゃ、もちろん彼らは知らんよ。この実験が25個目の実験とは。過去、24個の実験は76%の確率で30歳以内に死んで、残りは生き延びとるけど、決して幸せとはいえない人生を歩んどる。さて、25個目の世界ではどのような結末が待っとるんやろうな。…………はい。いつも通りに引っ越しということで。結末を見てから、そっちに戻ります、では!」
いかがですか?
この作品は、2014年に作った作品です。