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メイド、双子に絡まれる

メイドの朝は早い。


まだ月が沈んでいない頃、私は目を覚ました。習慣というのはなかなか抜けないものです。王城の様に他のメイドさんと相部屋じゃないのが少し寂しいけれど、一人部屋の方がゆっくりと起きれるから楽。

まだ眠い目をこすりながらベットから抜け出し、身支度を整えていく。長い髪を軽く編み込んでからお団子状にリボンで結び、事前に渡されていたメイド服に袖を通すともう既に目が覚めてお仕事モードに切り替わる。


朝一番の仕事は、廊下のランプ全てに灯りを付けていく事。担当区域があって、私は自室から食堂の道のりをつけていくことになっていた。

食堂まで魔術で灯りを灯すと、今度は食堂のコックさんと兵士やレイヴン様達の朝食の準備をする。

食事の内容は違うのだけど作る場所は一括にしてあるんだって。王城だと王族専用のキッチンがあったな。

重たい食堂の扉を開けて、鼻歌を歌いながらキッチンの方へ顔を出すと、いきなり横を何かが通り過ぎていった。

何事かとゆっくりと後ろを振り返ると、後ろの柱に大きな包丁が見事に突き刺さっていた。

内心奇声を発しながら呆然と包丁を見つめていると突然肩を掴まれる。思わず条件反射でその腕を掴んで。


「いやっ!!」


「どぉわっ?!」


背負投をしてしまった。やった後で「しまった!」と後悔したが、すでに遅く、投げられた人物は包丁の刺さっている壁にぶつかり、頭スレスレの部分に落ちてきた包丁が刺さっている。

私は慌てて顔の横の包丁を抜き取ると、目の前の人物は不機嫌そうな顔で私を睨みながら立ち上がった。


「おい嬢ちゃん…」


「ご、ごめんなさい。つい条件反射で」


「条件反射で人を投げるか…たくっ。オイラじゃなきゃ危なかったぜ?」


そう言って彼は私の手の包丁を取ると、腰に付けている袋の中に収めた。そして腕を組みながら私を見下ろしてくる。


「んで、嬢ちゃんが城に一人で突撃してきた馬鹿娘か?」


「…たぶん合ってると思います」


うん、ぐさりとその言葉が胸に刺さった。でも顔に笑みを浮かべながら見上げると、本人は不機嫌そうな顔を横にずらし、ふんっと鼻を鳴らした。初対面だけど印象悪っ。

彼はどうやら獣人族らしい。見た目的に私より3つぐらい年上かな。顔はちょっと童顔で、髪の毛がふわふわした焦げ茶色。人じゃない証拠に、その頭髪から同じ色の大きな耳が生えている。

背中にも髪と同じ色の細めの尻尾がゆらゆらと顔を出していた。猫系かな。思わずじっと見ていたら、突然額を小突かれた。


「ふぐっ、いきなり何するんですか!」


「オイラの尻尾ばかり見て話聞いてないからだろバーカ」


「確かに尻尾を見てましたけど小突かなくてもいいじゃないですか」


「さっさと仕事に取り掛からなきゃならないのに呑気にしてる嬢ちゃんが悪い」


こいつムカつく…っ!思わず睨むと鼻で笑いながら頭をポンポンと叩いてきた。完全に子供扱いしてやがるこいつ。後で仕返ししてやるんだから。


「オイラの名はナザだ。見ての通り獣人で、魔王様の料理担当だ。よろしくな」


「ルーフェ・プルーブォです。先日レイヴン様の専属メイドに配属されました。どうぞよろしくお願いします」


丁寧に挨拶を返すと、ナザは少し目を見開きながら「おぅ」とだけ返事して私を仕事場に案内してくれた。








ナザや他のメイドさんと共に料理の下準備を終えると、私は懐に入れていた懐中時計を取り出す。

この世界にも一応時間の概念はあり、時計も存在している。もっとも時計はかなり高価で貴族か王族ぐらいしか持っていない。普通の人は朝と昼と夕方に鳴る鐘の音で一日の時間を確認している。


私の場合、前世でジルから誕生日プレゼントで貰ったのを今も使い続けているだけ。結婚指輪や今までのプレゼントは異次元に手放すことが出来たのに、何故かこれだけは手放せなかったんだよね。勿論本人のいる前で使ったことはないし、家族にも見せたことない。血の染み付いた傷だらけの時計なんて見せた瞬間犯人捕まえに行きそうで怖い。犯人既にいないんだけど地獄まで行って締め上げそうな気がしてならない。

少し感傷に浸りながら傷の入った懐中時計を開くともうそろそろレイヴン様の起床時刻になっていた。

慌てて立ち上がり、野菜を切って汚くなった手を洗うとそそくさと食堂を出て行く。出て行く前にナザに「後でまた来ますねー」と伝えると、奥の方から「りょうかーい」という声が返ってきた。


食堂を出て、少し歩くと階段がある。その階段の先に最上階のレイヴン様の部屋がある。最上階全てがレイヴン様の執務室であり私室でありベットルームなのだ。

最上階の部屋の一つがベットルームで私はその部屋のドアをノックする。


「レイヴン様、朝でございます。入りますよ?」


「……どうぞ」


「失礼いたします」


数十秒遅れて聞こえてきた声は若干寝ぼけていて、中に入ると予想通りまだ眠そうに天蓋付きのベットに寝そべっているレイヴン様の姿があった。部屋のドアをゆっくり閉めながら足音を立てないように窓へ向かうとカーテンを思いっきり開く。もう既に朝日は登っていて、部屋の中に暖かな日の光が入ってくる。

その光に眩しそうに目を擦るレイヴン様。もぞもぞと布団の奥へ潜っていくのを布団を掴んで引き止める。不機嫌そうな目で睨まれるけど、私はニコリと微笑んで逃がさない。

ツッコまなかったけどレイヴン様は裸で寝るタイプみたい。白い肌に細マッチョってほぼ理想的な男性の姿だね。とりあえず目を閉じようとしていたので軽くペシペシと頭を叩く。レイヴン様の頭には魔族の証拠である角が2本生えているんだけど、そこの部分を重点的に叩く。お師匠様曰く「他の体の部分より少し敏感」らしい。その証拠に、叩くたびにレイヴン様の表情が更に不機嫌になっていく。今度起こす時は撫でてみよう。


「いい朝ですよーレイヴン様。起きてくださいましー」


「……眠り足りない」


「起きないと角へし折りますよ」


その言葉に勢いよく布団を蹴り上げるレイヴン様。あっ、ちゃんと下はズボン履いてる。若干表情が青いのは気のせいかな。


「…朝から冗談はやめてくれないか」


「私あまり冗談は好きじゃないんです」


「本気で折るつもりだったのか…!今度は気をつける」


ため息をつきながらベットから降りてくるレイヴン様。たぶん着替えるつもりなのだろう。

手早く着替えを手伝っていると、レイヴン様の長い黒髪が妙に気になる。着替える最中も邪魔になるし、身長的に、動くと私の顔に当たってくる。

最初は我慢していたんだけど、何度も当たってくるものだから最終的には着替えが終わってスケジュールの確認をしようとしたレイヴン様を無理やり椅子に座らせた。

意味も分からない様子のレイヴン様を他所に、私は予備で持っていたシンプルなデザインの髪飾りとブラシを取り出し、丁寧に髪を梳いていく。ストレートヘアなのか、数回梳けば綺麗に整うのだけれどそれで終わるのは面白みもないしと簡単な編み込みをして髪飾りで止める。前から見てみると、更に美男になってた。

スッキリとした顔だからか、少し髪型を変えるだけで印象が全然違う。髪を結う前は前髪や横髪で見えづらかった表情が編み込みをしたことではっきりとわかる。人間とは違う尖った耳にピアスかイヤリングを付けたら更にいいかも。


「勝手な行動をして申し訳ありません。ですが髪が邪魔そうでしたので、応急処置として私の髪飾りで結ってみました。いかがですか?駄目でしたら元の髪型に戻しますが」


「いつか切ろうとは思っていたんだが…」


照れくさそうに編み込んでいない髪をいじるレイヴン様。どうやら悪くはないようだ。そのまま仕事に行ったし。

その後は朝食を用意して、仕事のお手伝いをして、昼食を用意して、午後からは自由時間を貰った。まだ初日だからお城の内部を把握しきれてないのよね。それで、相談してみたら案外あっさりと許可を貰えました。四天王の魔女さんには睨まれたけど。

人間だから信用してないのはわかるけど、あからさまに表情に出すのは宰相としては失格じゃないかな。





まぁそんなこんなで自由時間最初に訪れたのは、訓練場。人間の王城とさほど違いはなく、ちょうど昼休憩のようで誰もいなかった。私にとっては予想外の好都合。


周りを見回して誰もいないことを確認すると、軽く朝食兼昼食を摂って、異次元から愛剣を取り出す。全体で1mはある剣をゆっくりと取り出すと、鞘ごと片手で振り感触を確かめる。鍛えられた男でも持つことが許されなかった剣のしっくりと手に馴染む感触に懐かしさと呆れを感じながら、鞘に手をかける。

柄の部分に銀色の羽を模った剣は青の装飾品と相まって神々しいものに見える。鞘から勢い寄く引き抜くと、綺麗な音をたてて刀身は太陽の光を照り返し、数百年ぶりにその姿を見せた。


「錆びてないね。よかったよかった」


この剣は香凛の時に、ある鍛冶屋の人が特別に作ってくれた私だけの剣。素材は珍しい鉱石で作ったらしいのだけど、どんな鉱石が使われているのかはわからない。

ただ、作る際に私の血を混ぜることで、私以外を使用者として認めないように作られたのだけは知っている。あの時はもし魔族に奪われても大丈夫なように、ということだったけど、個人的に魔族より人間の方がこの剣を狙っていた気がする。傍から見ても高級品だってまるわかりだから仕方ないね。


でも魔族や魔物を殺す為に作られたのに、斬った数は人間の方が多かった気がする。私が担当していたのが汚れ役だったから仕方ないのかもしれないけれど、この子には悪いことをさせてしまったかもしれない。しかも今は魔族に味方している状況だし…なんと皮肉なことでしょうね。

ちなみに、あの子は『勇者』に『光の巫女』とか『聖女』なんて仰々しい二つ名がつけられてたけど、私の場合は『魔女』とか『殺姫』とか『最後の良心』とかつけられてたな。最後の良心って二つ名なのか疑問なところだけど。


軽く点検をした後に、久しぶりにぶんぶん振り回しているとどこからか拍手の音が聞こえてきた。

拍手の聞こえる方へ振り返ると、訓練場の端でこちらを見ながらニヤニヤ笑うカロンとカランがいた。

相変わらず服装が派手というか…ほぼ紐しかないような服装だことで…。内心呆れながら、剣をゆっくり収め、彼らに向けて頭を下げる。


「おはようございます、カロン様カラン様。大変お見苦しい物をお見せして申し訳ありません」


「「おはよー」」


「見苦しい物だなんて全然だよー」「むしろ見てて面白かったわー」


「お褒めの言葉ありがとうございます。それでは私はそろそろ仕事の方へ…」


そう言って逃げようとしたら、服の襟元を勢いよく掴まれた。そしてズルズルと訓練場の中心まで強制連行されて木刀のような物を渡された。

もうこの時点で嫌な予感しかしないんですが気のせいですかね。




「「ちょっと遊びましょう?」」




デスヨネー!言うと思ってましたよこんちくしょう!本気出したら殺っちゃう可能性あるからほどほどにしとかないとやばいかも。




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