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メイド、メイド兼護衛になる

魔王の呪いが無事に解けて四天王や魔将達が喜んでいる中、ふと外が騒がしいことに気がついた。

たぶん私が気絶させてた兵士たちが起きたんだろうなと近くの窓から下を覗いて、勢いよく後退りをした。

お父様の仕業だなあれわ。思わず頬が引きつる。


魔王達も外が騒がしいことに気がついたのか、外を見ている。何が来ているのかはわかってないらしい。


「すみません魔王様。ちょっと失礼してもよろしいでしょうか」


「戻ってくるのか?」


「あの馬鹿を捕まえたらすぐ戻ってきます」


箒を手に取り礼をしてその場から全速力で走り出す。全速で廊下を走り抜け、中庭で兵士を吊り上げて遊んでいるあいつを見つけると、更に加速して遠慮無しに顔面をぶん殴った。

顔が地面に埋まり、気絶した事を確認すると魔術で縄を作りぐるぐる巻きにする。唖然としている兵士さん達にはとりあえず苦笑いで返しておいた。

そのまま引こずって魔王の元へ戻ったら、引こずってきたものを見て後退った。彼ら魔族にとって、天敵でもあり宿敵でもある種族だからね。


「申し訳ありません。私の父の連絡係です」


『どこの世界に天使を連絡係に使うやつがいるんだよ!』


ここにいますが何か?

とりあえず引こずってきた奴の頭を叩くと金髪碧眼に白いローブを纏った彼は目を覚まし、簡単にロープを抜けてみせた。そして背中に巨大な白い翼を3対広げ、いきなり私を抱きしめた。


「久しぶり。元気にしてたかい?」


「あーはいはい元気元気。それでなんでわざわざ貴方が来たのよ」


私が適当にあしらうと、目の前の天使は頬を赤く染め蕩ける様な目で見つめてくる。

いつものあれをやれということだろう。思わず大きくため息をつくと、彼の頭を両手で掴み、額にキスをする。

キスが終わると、彼は嬉しそうに一度強く抱きしめ、私を腕から解放した。


「君の母上も私の母上も心配していたよ。流石に魔王城に来ていたのは予想できてなかったみたいだ」


「あー・・・お父様は?怒ってた?」


「いや全然。むしろ結婚相手見つけてこいよって応援してた」


「それでいいのか父親・・・むしろそこは恋人なんて作るなよでしょうが」


『話についていけてないんだけどー』


呆然とこちらを見つめていた魔王達を見て、ハッとなって彼から離れる。そして改めて彼の紹介を始める。


「紹介が遅れました。私の父の使い魔で大天使の」


「ジルベルト・クライスラーだ。今は彼女の護衛を任されている。よろしく魔族諸君」


そして、私の前世での元旦那でもある。ジルは私が死んだ後に功績を讃えられ、神の傍で仕える事を許されたらしい。そして天使に生まれ変わり、300年仕え続けている。彼は私が前世の記憶を持っているとは知らない。

教える機会は沢山あったんだけど、私はもう『棗 香凛』じゃないから自分から言おうとは思っていない。彼自身が気づいて聞いてこない限り答えるつもりはない。

ちなみに天使になった彼の上司兼母親には、私が転生者である事はバレている。転生する原因を作ったのが彼女と神だからね。


「彼女の父親に頼まれて伝言を伝えに来た。勇者が動き出したそうだ」


ジルがそう言うと、四天王達の表情が変わった。獲物を狩る目だ。そりゃあ殺らなきゃ殺られるもの。

ただ一人魔王だけがなにやら考え込む表情を見せた。たぶん『なんで今勇者が動き出したのか』がわからないからだろう。


300年前までは異世界から勇者を呼び込み魔王を討伐させていたのだけれど、自分の世界の問題は自分達で解決できるようにしようと親友が動いたおかげで、それ以降異世界からの勇者召喚は無くなり、国民の中で一番強い人物を『勇者』とする法ができている。今代の勇者は王族であり、私が仕えていた姫様の兄君だ。

でもあの人がなんで動いたのかはわかった。


「魔王様、勇者は王位継承権第一位でございます。しかし王は王位継承権第二位である妹君に継がせようとしています。勇者は魔王様を倒し、民を味方につけ王位を確実に自分の物にしようとしているのでしょう。王は病で残り少ない命です。先日医者からもって3ヶ月の命だと宣告されています」


そこで私は膝を折り、頭を垂れる。


「どうか私をお雇いください。私は元城仕えであり、勇者の弱点も知っております。そして何より・・・」


微笑みながら私は異次元の中から本を数冊取り出す。それを魔王へと手渡す。魔王は不思議そうに本の表紙を眺めると、パラッと中身を開いた。

中身を読み進めていくたびに、魔王の顔がどんどん真っ赤に染まっていく。その様子を見て、魔将が横から中身を覗くと、すぐに魔王から本を取り上げた。







「私は勇者の秘蔵コレクション・・・まぁエロ本ですね。その一部を管理しております。人質にもなれますよ」







『今さっきまでのシリアス返せ!』


『あらなかなかエロいわよこれ』『へ~・・・勇者の好みはこんな感じか』


『読み始めるなそこ!あぁ魔王様お気を確かに・・・っ』


今代の魔王は意外に純情らしい。顔を真っ赤にして玉座に走り、今はマントで顔を隠してガタガタ震えている。

その反応にドラゴンさんが慌てふためく中、他の四天王や魔将は興味津々で薄い本を読み続けている。

いやはや面白い光景です。今代の魔王はどうやらエロい方面には疎いというか純情だという事は理解しました。


「ルー、なんであんな物を持っていたのか説明してくれるのだろう?」


怖いですよージルベルトさん。私はただ単に姫様が勇者の部屋から盗んできた本を没収してただけですよ。私に非はない!






それから魔王が平静を取り戻すのに1時間ほどかかり、私は魔王城に務めることになった。

魔王様のメイド兼護衛だけど・・・。いや、普通のメイドでいいんですよ?こき使っていいんですよ?とは言ったんですが、魔王様に却下されました。ちぇっ。

ジルなら私にお説教をした後「定期的に連絡に来るから」と言って、すぐにお父様の元へ帰っていった。

満面の笑みの天使と握手する純情魔王というなんというか・・・不思議な光景を見ることは出来ました。


「そういえば魔王様のことはなんとお呼びすればよろしいでしょうか?」


「?・・・別に今のままで構わない」


「そうは参りません。私は魔王様ご自身にお仕えするのであって、身分にお仕えする訳ではありませんので。もし私に名を呼ばれるのが嫌でしたらそう致しますが・・・・・・」


前の雇い主である姫様は私に名を呼ばれるのは嫌だと断られたけど。しかも私は人間だ。魔族である彼にとって名前でも教えるのは嫌だろう。しかし魔王は少し悩むと聞こえるか聞こえないか微妙な声でポツリと呟いた。


「レイヴン・ヴォルク」


私はその声を聞き逃さなかった。思わず顔に笑みが浮かんだ。少しは信頼して貰えたのだと思うと嬉しかったのだ。


「どちらでお呼びいたしましょうか」


「どちらでも構わん」


「ではレイヴン様とお呼び致します。これからよろしくお願いいたします、レイヴン様」


「あぁ・・・よろしく頼む」


そうして私は、魔王城のメイドとして働く事になった。






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