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メイド、尻拭いをする

服装は魔王らしい服装なのに、顔面が黒い覆面マスクで覆われているせいかシュールな姿の魔王様の登場に、思わず一歩後ずさる私。

反応に困ったというのもあるけれど、魔王から私を威圧するような魔力を感じるのだ。敵認定されちゃったかも。

それでも顔から笑みは消さず、静かに箒を床に置き、ロングスカートの端を掴んで淑女の礼をする。


「お初にお目にかかり光栄でございます、魔王様」


カツカツと私に歩み寄ってくる音がピタリと止まる。

頭を下げたまま目線だけで魔王の方を見ると、私の数m前で止まっている。どうやら話は聞いてくれるようだ。

少し安堵しながら姿勢を元に戻し、ニコリと仮面の笑顔を貼り付けたまま更に話を続ける。


「今さっき説明は聞かれていたと思いますが、私はお師匠様・・・ナコルル・アーヴァインに会いに参りました。彼女と話をしたいのですが、彼女はどちらに居られるのでしょうか」


以前手紙を貰った時には、確か魔王城に勤めていたはずだ。その前が、先代の魔王の後片付けのついでに私の家庭教師の仕事をしていた。

師匠は放浪者なのだ。理由は至ってシンプル。


魔王になるのがめんどくさかったから。


世襲制で魔王になれたというのに魔王の座を自ら捨てたのだ。人に命令するより、される側になってみたかったらしい。だからこそ放浪者になって各地を転々と歩きながら、お金稼ぎとして家庭教師やメイドをしている、と教えてくれた。マッチョなお父さんとは大違いである。

確か手紙には今代の魔王に呼ばれて仕事をしている、と書いてあったからここにいるはずなのだ。

すると、魔王は懐から何かを取り出すと私に近寄ってきて差し出してきた。

それは見る限り白い封筒だった。宛名には私の名前がある。

不思議に思いながら中身を開いてみると一枚の紙が入っていた。どうやら師匠から私に宛てた手紙のようだ。


『たぶんそろそろ会いに来る頃だろうから、置き手紙をしておきます』


予知能力者だったんですか師匠。


『実は今代の魔王に頼まれて、魔王に刻まれた呪いを解こうとしたんだけど』


魔王様呪われてるんですか。誰に呪われたのかは知りませんがご愁傷様です。


『ちょっと失敗しちゃってさー』


あらぁ嫌な予感しかしないよー。






『悪化しちゃって、魔王の顔面崩壊させちゃった♪』



「何やっちゃってくれてんですかお師匠様!?」




思わずツッコミを入れてしまった。いやそもそも呪いが悪化して顔面崩壊したってどういうことなの。

最初どんな呪いだったのか気になるんだけど、手紙には更に文章が続いていた。


『たぶんルーになら簡単に治せるだろうから後は頼んだ!私は旅に出る』


「人任せにしやがったこの人ぉおおおおおおおおおおお!!!」


師匠の無茶ぶりに愕然としつつ、とりあえず対応策を考えていると、トントンと軽く肩を叩かれる。

叩かれた方を見ると、魔王がマスクを片手で掴みながら「取ってみようか?」と仕草で問いかけてきた。首を縦に振ると、ゆっくりと魔王の顔がマスクから出てくる。思わず私は口を手で押さえた。


首から頬にかけて黒い蔓の様な文様があり、それ以外は全て火傷をしたように焼け爛れている。まるで顔に赤い花が咲いた様な症状だ。正直に言うと吐き気がするほどに生々しい。傷口からは血が微かに漏れ出しているし、口も目も焼け爛れて原型を留めていない。

気を落ち着かせながら私はすぐに行動に出た。異次元から必要そうな薬品を複数取り出し、巨大な桶を取り出す。その中へどんどんポーションや薬品を投入していく。


「魔王様、体にも顔と同じ症状が出ているんですか?」


その言葉に魔王は首を横に降る。どうやら症状は顔にしか出てないようだ。一応腕や上半身も見せてもらったけど、他の所は特に異常はなさそうだった。

診察を終えると私は異次元から、とっておきを取り出した。実はあの異次元には私が使っていた道具や防具、武器や魔法道具など前世で所持していた全てが入っている。

まさか繋がるとは思っていなくて最初は驚いたけど、今考えてみると助かった。

私は最後にとっておきを桶の中に注ぐと、ぐるりとかき混ぜ、ちゃんと薬品同士が混ざり合ったことを確認する。


確認が終わると腕まくりをして桶を抱え、魔王に近寄って。


「魔王様少し息止めてくださいねー」


「?・・・っ!?」


返事も聞かずに思いっきり桶の中身を顔面にぶっかけた。

いきなりぶっかけた物だから気道に入ったらしく、魔王は咳き込みだした。その頃になってようやく後ろの方で倒れていた魔将や四天王達が起き上がってくる。そして咳き込んでいる魔王を見てようやく状況を把握したらしい。遅っ!


『魔王様!?』


『貴様、魔王様に何をした!』


「治療ですけど」


『得体の知れん液体をかけるなど治療とは呼ばん!』


得体の知れない物ではないんだけどなーと思っていると、ようやく呼吸が落ち着いたらしい魔王がゆっくりと顔を上げた。その顔を見て、私も周りの四天王や魔将達も息を飲んだ。


魔王の顔からは先程の焼けただれた様な傷は消え失せ、西洋人の様に白い肌があった。

瞳は黒く、ずっと見つめていると飲み込まれそうな程綺麗だ。髪の色も黒なのだけど、それ以上に瞳は黒い。今はその瞳がきょとんと丸く見開いている。流石魔王、目の保養になるぐらいのイケメンだわ。


「・・・治ったのか?」


小さく呟く魔王に対して、魔将達が首を大きく縦に振る。四天王達は返事を返さずただ号泣している。人情味溢れてないか君たち。

そんな部下達を見ながら微かに微笑む魔王様。私はホッと安心して息を吐き出した。




フェニックスの涙とかエリクサーとか取っといてよかったぁあああああああ!!



今度お師匠様に会ったら、請求書叩きつけてやる。





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