メイド、元お頭の秘密を知る
100年以上も時間が経てば当時の常識が未来では非常識になっている事は歴史あるあるだけど、常識を変えたのが身内だと知ると変えた理由を察してしまい、複雑な気分になることが多い今生。確かにね、親友やらジルやら戦士やら(方向性は違う)常識を変えてもおかしくない変人ばかりだったけれど、まさか私の使い魔まで同類だとは思わないじゃないですかヤダー!気軽に愚痴が言い合える人が欲しいこの頃でございます。
アシェンが来た事により説明会は強制終了。私はレイヴン様の命令でテントを立て直してから気絶者を軽傷者が集められた簡易テントに運ぶことになった。怪我人が多くて人手不足だというのは理解しているんですけど、メイドや護衛というより雑用係扱いされてる気がする。
勿論ドラゴさんやアシェンもそれぞれの持ち場で動いている。ドラゴさんは兵を指示しながら遺体を埋葬し、アシェンは街の人と協力してテントの近くに仮住まいを建てている。今の街の状況だと衛生面が不安だということで、復興がある程度進むまで移住用のカーゴ(地球でいうゲルと呼ばれる家屋)を建てて暮らすことになったからだ。
正直アシェンが動くたびに街の人達が反応するからじっとしてて欲しいんだけど、反抗的な態度の人への牽制にもなっているので我慢してもらうしかない。雑用や書類仕事、魔物避け用の柵の作成や怪我人の軽い治療など重労働をこなしたり、街の子供相手に簡単な幻覚で遊んであげたりと、久しぶりに肉体的にも精神的にも疲れた。
「やっと終わったぁ…っ!」
最後の仕事を終えてみれば、外が夕方から夜になっていた。まだ季節は秋に差し掛かった頃なのに風が吹けば冬のように寒い。汗を吸った服が冷えて凍えてしまいそう。
寒さで震えながらお腹が空いたなぁと思っていると、照明代わりの焚き火の傍で丸まっていたアシェンが私に近づいてきて頬擦りをしてくる。鱗で頭が削れそうなぐらい痛い。
「痛いから。ごめんね、いきなり呼び出して働かせちゃって」
そう言って顎を撫でてやると、嬉しそうに喉を鳴らして更に擦り寄ってくる。だから痛いって。
そういえば突然アシェンが現れたことについては『奇妙な音を聞いてすっ飛んできた』ということになりました。流石にその説明じゃ納得しないだろうと思っていたのだけど、ドラゴさん曰くアシェンを呼ぶ時に使っている笛は龍族でも上の立場の人ぐらいしか知らない代物らしい。今上の立場の方々は軒並み気を失っているため確認しようが無いし、トップである婚約者候補様とお爺さんはレイヴン様が個別で話をつけて知っているけど知らないふりをしてくれるそうだ。(私が明日質問に全て答えることが条件ですが)
今のところ私が前世の記憶・能力持ちだと知っているのは使い魔を除いて、神様とその部下とアマナぐらいでしょうかね。初代魔王には前世の記憶があることしか喋ってませんし、前世を知ってるお師匠様やジルには「過去に似たような人がいたよ」と稽古中に言われた程度です。まさか中身本人ですとか言えない言えない。
アシェンの猛アタックをなすがままに受け止めていると、テントの影からひょこっと神様が顔を出した。今回は青年村人スタイルだ。来る予兆みたいなのがなかったから急ぎの用件かな?手招きしているのでアシェンと一緒にテントの裏側に回る。
「無事に保護できたようで何より」
「また唐突にお出ましですね、バレたらまずいですよ?」
「君達にしか認識されないようにしてるから問題ないよー」
「いやそっちじゃなくて部下の方に」
「デコイ置いてきたからだいじょーぶ。あの龍人の制限解除の方が大事だしね」
神様の言葉に思わず二度見する。私も神様から制限を掛けられている身だけど、他にも制限を掛けられている人がいたとわ。龍族だらけなので誰のことを指しているのか理解できていないけど、私の制限は普通の人より少し強い程度にまで能力が下げられていること(魔力の多さとか身体能力とか含めて)。3分の1しか力が出せないのはこれのせいです。『ルーフェ』の体が壊れないようにするのと、記憶持ちだとバレても簡単に『棗 香凛』に結びつかないようにする為の対処だとか。
一応この制限、ある術を使えば自分の意志で解除出来るようになっている。よっぽどの事がない限り使わない術で、その術そのものも17歳になるまでは使うなと言われているため当分このままです。でも解除方法ちょっと緩くないですかねー。
「今までで一番キツくしてるのに緩いって言えるのは君ぐらいだよ」
「窮地をスキルだけで乗り切ったこともありますし、知識とある程度の実力があれば問題ないかと」
「場数踏ませすぎたかな…」
「今更気づいても遅いと思います」
「げほん。まずは君が気にしてそうな事から言っていい?」
アシェンも私と同意見のようで、神様を見る目が若干生暖かい。この話題は気まずいのか咳払いで誤魔化されたけど、スキルも場数も沢山覚えた方が良いよと最初にアドバイスしてきたの貴方です。
「子供は君の傍が一番いいけど危ないと思ったら知らせて。龍…じゃなくて今は竜か、あれは体の成長を促すだけだから本人が望むなら飲ませても問題ないよ」
「耐えられるんですか?」
「耐えれるよ。でも、飲ませるのは受け答えがはっきりしてから。そうしないと危ないよ。君以上の耐性持ちだから薄める必要は無いし、人並みに成長するようになってきたら勝手に止めると思う」
うへぇ、あんな劇物を薄めずに飲めるんだ。味を例えるなら、血抜き処理がされないまま長時間放置された牛の肝臓を液体状になるまでペーストにして濾過したモノといった感じ。薄めればまだ吐きかけるまでで済むけど、あれは飲む物じゃないです。
当時は野良もかなりの数がいたし契約の為に飼育している人が沢山いたぐらいにメジャーだった竜が、今じゃマイナーを超えてレアな存在。しかも信仰対象とは…時代の移り変わりを感じますねー。
「今生きている竜はアシェン君とその教え子達しかいないよ。でも近いうちにあの頃の様に大空を翔ける群れが見れるようになるかも。アシェン君のおかげでね」
私の予想以上に危機的な状況だったぽい。思わずアシェンの頭をぎゅっと抱きしめる。私の小さな体では抱きしめるというより抱きついている形だけど、アシェンは顎を撫でた時より更に嬉しそうに擦り寄ってきた。拾った時は子犬ぐらいでずっと私にくっついて震えてたのに、そんな子が周りを守るぐらいに成長したのがとても嬉しい。
「君の雇い主である彼には若い竜と伝えておいた。でもアシェン君が竜の主だということは秘密に。龍族たちは本能で気づいてしまうから意味無いけど、普段から用心しといて」
以前は小さな龍の子と呼んでたのに今は『アシェン君』ですもんね。
リオン様にとっても相当気に入った存在という訳だ。
「それはともかくアシェンに何か変なこと教えました?」
1年前会った時よりアシェンの魔力量がかなり増えてるんですよ。魔力の量って魔術を何度も使って鍛えてようやく増えていく物であって、急激に増やすには魔術を使って死にかける事が一番なんですが神様ならそんなことせずに強化が出来るんですよね。前世ではその強化に助けられてましたがそれは私が異世界人だったからであって、今、アシェンに、強化を施す必要性を問いたい。
顔を逸らさないでくださいリオン様。
「君と契約した子達が望んだから教えてあげただけなんだけどなー」
「次回来た時おやつ抜きですね」
「酷いよぉー!ぐすん…そろそろテント行こうか…」
望んだからって素直に教えてるのがアウトです。あとアシェンだけじゃないんですね。時間がある時にきっちり聞かせてもらおう。
若干涙目のまま元お頭と神殺しの子がいるテントへと向かう神様。アシェンはテントに入れないからどうするのかと思ったら、疲れて軽く寝落ちしていた見張りの兵士を起こし仕草で交代すると伝えて入口付近に座った。兵士さん達がお礼を言って仮眠する場所に移動したけど、アシェンはただ人払いしようとしただけだな。周囲に人が来ないように警戒してるし。
テントの中に入ると中央の檻の中で盗賊たちが雑魚寝していて、子供は1m程檻から離れた隅の方で眠っている。
「君はそっちの彼を。子供はこっちで起こすから」
「あの人なんですか…すみませんちょっと起きてください」
強固な檻の柵に腕を通し、周りの人を起こさないように神様が指さした人物-元お頭の体を揺らす。彼は眠りが浅かったのかすぐに目を覚まし、私と神様を見て柵越しに小声で話しかけてきた。
『ありゃあ誰だ?やたら強そうに見えるが…知り合いかなんかか』
この人一目で神様を強者だと見抜いた。レイヴン様や殿下でさえ翼を出さなきゃ強いかどうかすら分からなかったのに。これは予想以上に良い人材を保護出来たかもしれない。
「私が勝てないと思う程の実力者であることは確かです」
『アンタにそう言わせる人物ってだけで恐ろしいんだが』
「上には上がいるんです…大事な話をするので一度出てください」
そう言いながら魔術で筋力を強化してゆっくり柵を曲げていく。元お頭が通れるぐらいにまで曲げると、彼の腕の手錠に魔術の鎖を掛ける。不思議そうな顔をしているけど大人しく檻の外に出てくれたので柵は元に戻して、ついでとばかりに安眠の魔術を掛けておく。これで部下の人たちは朝までぐっすり。
『オレらについてはもう決まっただろ。それ以外になんかあんのか?』
私は知らないので神様の方を指差す。ちょうど子供を抱き抱えようとして、目が覚めた子が私の方に駆け寄る様に逃げたので更に落ち込んだ御様子。てか神殺しの子なのに近寄って大丈夫なんですね?
「今の状態なら全然問題ないよ…今日は散々だなぁ…」
「どんまいです。それで?彼の制限ってなんですか」
「半分は君の意地悪のせいだ。…部下に呼び出されそうだから手早く言うけど」
「竜の力を得るか捨てるか決めてないんだよ。それで魔力上限に制限が掛かって、人型に上手くなれないわけ」
『は?』
「君と君の妹さんはアシェン君の教え子が生んだ、竜と龍族の間の子なんだよ」
神様の言葉に外にいるアシェンが肯定するように鳴いた。
「妹さんは生まれてすぐ力を捨てたからただの龍族だよ。君の場合、父親の親戚から母親を守るために竜の力が必要そうだったから幼い体で竜の力が暴走しないようにしてあげたら、魔族としての素質も一部制限が掛かっちゃってさ」
元お頭の過去もサラリと暴露されたけど、それ以上に話がでかすぎじゃないですかね。何故かというとこの世界では魔物が人や亜人と子を作った場合、子供は必ず魔物でハーフは生まれません。しかもこれ前提が人型の魔物だから成立するわけで、動物型の魔物とはそもそも子供が出来ません。
でも、その前提を崩せそうな魔術を私はよく知っている。
「解除方法と詳しい説明は紙に書いといたから。それじゃ!」
良い笑顔でそう言い放ち紙を残して忽然と姿を消した神様。そして残された私と子供と元お頭。呆然とする元お頭と話が理解出来てない子供を置いて、私はテント越しにアシェンに声を掛ける。
「リオン様から幻術教わった??」
返答はとても情けない声だった。
幻術とは、私がよく白い動物を作ったり鎖を作る時に使う幻覚の更に上の術で、外見・質感だけではなく内臓までも再現出来る。つまり内部構造をしっかり把握して尚且つ常時魔力を維持することが出来れば理想の動物を生きた状態で作れたり、体ごと別の種族の別人にすることを可能にする術です。その分失敗するとかなり危険な魔術ですが使えれば人生が一変する程に魅力的で、大抵の人が憧れる代物。代償にごっそり魔力を持っていかれるし頭も使うので、私は幻覚までしか使いません。
「もう一つ。この人のお母さんも?」
この質問にも「はい」の情けない声が返ってきた。
情報量が多すぎてこんがらがっているけど今言えるのは、神様に対する恨み言だけだった。あの神のことだろうから幻術を使っても余裕がある魔力を与えただけなんでしょうけどね、それだけの干渉で人生破滅コースになる事をあの神はいい加減自覚してもらえませんかね…。




