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メイド、保護者になる

「……以上だ」


鉄錆の臭いが漂う街の外、避難場所として作られた急ごしらえのテントの中でこの場で最も尊い立場であるレイヴン様からの言葉が終わった。

代表として選ばれた砂龍の人々は砂地に両膝を付いたまま呆然としている。声を出してざわついているわけではないが、傍にいる人の顔を覗き込む者もいれば、信じられないものを聞いたように何度も首を傾げている者もいる。

鎖で拘束され兵士たちの列に隔離されている当事者達も似たような表情で、彼らの視線だけは真顔のレイヴン様ではなくその後ろに控えている私に向いている。

私?笑いを堪える為に仕事用のにっこりスマイルです。





時間はちょっと戻りまして宝物庫前。


お爺さんがお孫さん二人に慰められようやく平常心を取り戻した頃。何とも気まずい雰囲気を払拭するかの如く、ベストタイミングで慌ただしい足音が聞こえてくる。鎧の音から察するに城の兵士だろうと振り返れば、兵士達を先導する様に黒いローブが浮遊していた。


ローブに付いたフードを深く被り、両袖から覗く指先さえも黒で隠されている。唯一色があるのは足を覆う白い包帯と包帯が巻かれていない足先ぐらいだろうか。そして極めつけは顔面を覆うガスマスク様な仮面。

こんな格好をしている人を私は四天王である死神さん以外知らない。遠目から見ると死神というよりお化け屋敷に設置されている幽霊の人形にしか見えない。

ちなみに、私が初めて魔王城に来た時レイヴン様が被ってた覆面マスクは彼の私物だったらしいです。なんでそんな物持ってたんですかと聞いたら『趣味』と即答されました。


死神さんは四天王の中で最も城から外出をすることがない。正確には、重要な案件以外では研究室兼自室から出てこない。

自室でも煤汚れた黒いローブを着て顔にマスクの様な物を被っているのだが、訳あって素顔を出すわけにいかないらしく、私も詳しい事情は分からない。性別は本人が言っていたのと体の使い方が男性的だからそう思っているだけで、彼の素顔を知っているのは長年の付き合いであるレイヴン様ぐらい。(双子は顔は知らないけど事情は理解してるみたい)

そんな滅多に外出しない彼が現れた事に驚いていると、頭を抱えていたレイヴン様も気づいたのか、一度息を抜いて佇まいを正す。


「外の者は済んだか」


『皆も上。こいつも?』


どうやら彼を呼んだのはレイヴン様らしい。死神さんはレイヴン様以上に口数が少ない。しかもガスマスク越しのせいで表情も見えないから思考が読みづらい。流石に神様(本気モード)以下ではあるけど。

死神さんが鎖で縛られているお頭を指差し、レイヴン様が頷いたのを確認すると、彼はローブの下から人の頭ぐらいはある透明な球体を取り出した。水が入った水晶玉のようだ。お頭に近づくと、その球体をお頭の頭の上でころころ転がし始める。

転がされる度に表情が青白くなっていくお頭の頭を何度か往復すると、持ち上げて中を覗き込んでいる。が、球体は変わらず透明なままだ。


『合格。綺麗』


「上はどの位だ」


『29人中11人。もぐもぐ~』


「……半分もいかなかったか。ご苦労」


二人の言葉にほっと息を付いたお頭が、一瞬で顔が青から白になった。

血の気なくなりすぎてもはや白トカゲ。私にはただの謎の儀式にしか見えなかったし、合格という言葉の意味も分からない。球体を入れ直している死神さんに視線を向ければ、私の視線に気づいて『がぉー』っと誤魔化される始末。いや、がおーって何よ。余計に分からないんですが。


「後で説明する。その子供はどうする」


レイヴン様からの問いかけに私は引っ付いて離れない子供を見下ろす。

一番安全なのは神様に預けることだけど、それがこの子にとって良い事かは私には分からない。萎れかけている花に水をかけてあげることぐらいなら出来るが、過剰な水は花を内側から蝕む毒になる。花と違うのは、自分の意志と喋れる器官を持っていること。

スカートを掴む小さな手に手を重ね、目線を低くするために少し膝を下ろす。


「これからどうする?何かしたいこと、ある?」


君の意志を聞かせて、と。

私からの問いかけに何度もスカートを掴む手を握ったり離したりを繰り返し、曇っていた瞳が微かに揺れる。そして返事の代わりに返ってきたのは、腹の虫が鳴る音だった。口で返事するより判りやすくて結構。私も心を決めましょうか。


「まずはご飯。これからの事は、一緒にゆっくり考えましょう」


笑顔でそう言うと、瞬きと共に手が離れ、今度は私の手をしっかりと握ってきた。

私よりも幼い子供の小さな手を握り返すと、鎖を全て消して自由になった体を抱き上げる。普段から鍛えているから重さは問題ないけど、体格的にバランスが不安定になるので「しっかり抱きついてねー」と伝えると首が絞まるくらいしっかり抱きついてきた。腕細いから余計に首が締まる。

耐えられるけどちょっと緩めて欲しいなー?私以外だったら首の骨折れるよこの馬鹿力。


レイヴン様は私が何をするのか察してくれたのか、軽く溜息を溢すと「好きにしろ」と一言。優しい雇い主様で私は嬉しゅうございます。


「…お前の思考回路に慣れてきただけだ」


「自分でも非常識だと自覚してますのでご安心ください」


「自覚してるなら自制してくれないか」


「申し訳ありません。自制してたらあの神様の相手出来ません」


そう言ったら複雑そうな顔で納得されてしまった。仕方ないですよね、あのフレンドリーな神様相手に自制なんかしてたら胃どころか心臓が痛み出します。本気で心臓が死にかけた事が(前世から)何度あったことか…数えたくない位あるわ、うん。




そして現在。死神さんは城へ状況報告へと帰り、子供はご飯を食べさせて別のテントで眠っています。婚約者候補様も疲労がかなり溜まっている様子だったので仮眠中。その間にこの件を終わらせようとレイヴン様が盗賊たちと子供の処罰に関する説明をしたところなのですが。


『彼らを、犯罪者を従者にするとはどういうことですか!?』


『死刑が普通ではないのですか』


『しかもあの子供をそこのメイドが養うとはどういう事です?!』


いやー予想通りの反応が返ってきて面白い状況でございます。そう、私はあの子の保護者になろうとしている。

理由は簡単。知り合いでまともな教育をしてくれる様な人がいないからだ。

まずあの神様、自分の子供たちは勿論、身内に引き入れたモノには砂糖菓子を砂糖水で流し込むみたいに甘い。誘惑に負けて神様に依存し始めた人が、気づけば廃人と化した話が童話として語り継がれているぐらいにわ。調べてみたら実在の人物で、自分では何も出来ず神様に頼りっきりで最後は『餓死で亡くなった』とか書かれてて悲鳴上げましたよ。

戦争を子供の喧嘩とか言う神ですからね、価値観違いすぎます。でも貴方神様歴何年目でしたっけ?もうちょっと子供(人類)目線で考えてみて?と説教したくなる気持ち、誰かわかってください。

私は実際に説教しました。


そんな神様にまだ力加減も分からない知識もない無垢な子を預けたら、廃人または第二の神様候補です。私と親友そっくりの子が廃人やら神様二号とかやめて下さい未来人が泣きます。

預け先だけならお母様やお師匠様も考えたんですが、経験上、一般教育とは程遠い教育を施されるので除外。セレナや初代魔王は良さげではあるけれど、黒幕に子供の存在を嗅ぎつけられ誘拐されるリスクがある。それならばまだ自分がいるこの国で、私自身が守った方が良くない?と思いまして。


「既に執行は終わっている。終わった者達をどうするかを決めるのは、お前達ではない」


『し、しかしそれでは魔王様の体裁が悪うなります』


「今更気にしてどうする」


そう言いながら私を指差さないでください。かなり自由行動が許されてるのは自覚してるんで。

今日は反省することが多すぎて自己嫌悪で泣いてしまいそう。

私が心の中で自己反省をしている間も発言はどんどん過激になっていく。最終的には私を辞めさせろやらレイヴン様への不満話になってきて、横で聞いてたドラゴさんの眉間に皺が寄っていく。レイヴン様は半分ぐらい聞き流しているようだけど、無礼な言葉づかいの発言の度に手が反応している。この人わざと言わせておいて最後に確実に叩き潰す気だわー。

10分以上は経っただろうか。一触即発の雰囲気が漂う中、それまで返答せず押し黙っていたレイヴン様がぼそりと呟く。


「いい加減煩いな」


聞き取れたのはすぐ傍にいた私とドラゴさんぐらいだろう。

レイヴン様が顔だけこちらを振り返り、唇に人差し指を一瞬当てて合図を送ってくる。その動作でドラゴさんが私の前に立ち、私は異次元から横笛を取り出す。


『こやつらを黙らせるほど強く吹いてやれ』


「承知しました。かなり耳に痛いと思いますので、塞ぐ準備を」


『気合で耐える』


気合で耐えれたら忠告しないです。どうなっても知りませんよ?

自分用に耳栓を取り出し耳にセット。掌に収まる横笛を口元に構え、苦しくなるまで息を吸い込むと勢い良く笛を鳴らす。今世で初めて使った時よりも荒々しく、そして独特な甲高い音が咆哮の如く鳴り響く。例えるなら、黒板を爪でゆっくり引っ掻き続けて鳴る甲高く耳を突き抜けてくるような音。耳栓を着けていても少し耳が痛い。

時間にして30秒ぐらいだったけれど、吹き終わって平気そうにしていたのは耳栓を着けていた私を含め4人程度しかいなかった。他の人達は耳を手で押さえながら地面に伏している。

レイヴン様やドラゴさんは平気そう…じゃないですね。険しい顔で睨まれております。とりあえず耳栓と笛を異次元に投げておこう。


「……お前……もう少し加減出来なかったのか」


「思いっきりやれと言われたので。それよりレイヴン様、急いでこの場から離れましょう」


「何故?」


「さっきの吹き方、緊急事態が起きた時に吹くやり方なので」


下手したらもう来ますと続けようとしたその時、外から叫び声と翼を打つ音が聞こえてくる。


これ以降はそれはもう酷いで済まされない事態になりました。仮設置のテントが風圧で吹き飛ぶわ、砂嵐が起きるわ、何人か吹き飛ばされる始末。慌てて更に暴れようとするアシェンを落ち着かせ、簡単に事情説明すれば砂龍の民全員に向けて尻尾で威圧飛ばして数十人気絶させるし。飛び起きた婚約者候補様やお爺さんですら震えて平伏させてしまった。

聞けば砂龍や炎龍といった龍族は、アシェンの様な【完全なる龍】である竜族を畏怖しているらしく、信仰の対象にする程らしい。だから宝物庫に宝として保管されてたのかー。


いや、それよりも重大な事があった。300年前は細かく分かれてなかったし、どちらかと言えば人の姿に近い龍の方が竜より立場が上だったはずなのに逆転していらっしゃるし、いつの間に「銀龍のアシェン」から「銀竜のアシェン」にクラスチェンジしてるんだお主。

え、仲間と一緒に頑張って成り上がった?トップを叩き伏せた?お前が原因かーい!!

レイヴン様はこの事実を知っていたのか、笑いすぎてお腹を抱えております。横でドラゴさんが意識飛んでますけどいいんですか!?


この騒動により一応砂龍の人々は納得(別名:脅迫)し、お頭を含めた元盗賊12人と神殺しの子供は表面上レイヴン様の管理下に置かれることになりました。

書類上は私が保証人であり、大雑把に言うと私に養子と部下が出来た感じです。これから忙しくなるぞー!




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