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メイド、苦労話をする

私が「ルーフェ・プルーブォ」として生を受けてから14年。

その中で一番辛かったのは3歳から10歳の頃です。

3歳の身内だけのお披露目パーティーに主役として参加した私は、この時貴族階級の強さと人間の欲深さに呆れを隠せなかった。(そりゃあ中身は100歳程度、見た目は3歳というのもあったけれど)ここまで酷いものかと自覚させられる出来事ばかりで記憶に焼き付いている。


お母様譲りの白銀の髪に小さなティアラを乗せ、ピンクの可愛らしいフリルたっぷりのドレスを身にまとい、家に来てくれた人々に拙い言葉で挨拶を交わしながら、私は同時に居心地の悪さを感じていたのです。

お母様側の親戚から私たち家族への嫌悪の視線が原因ですけどね。


私の家族であるお父様は、お母様の家系に婿入りをするまで普通の平民だったらしい。

貧乏な農家の家庭に生まれ、忙しい両親の代わりに弟たちの世話をしながら勉学に励んで国立の魔術学園に入り、主席で卒業。その成績が買われ、王宮薬師となった今でも田舎の家族に仕送りをしている。時々仕送りの御礼に大量の野菜が届くと、手紙を田舎の家族個人個人に書いているぐらいに律儀な性格です。


お母様との出会いは魔術学園で、お母様の一目惚れだとか。(お父様イケメンですものねわかります)

身分を隠し、友達として付き合い始め、卒業する手前に告白して恋人になったんだとか。「身分を隠し通すのは辛かったけれど、本来の姿だけを見て欲しかったから仕方なかったのよ」と笑いながら話してくれたお母様はとても素敵だった。(どこの恋愛漫画だ、と思ったけれど)

問題はお母様が中流貴族の出身だということ。(しかも代々王家直属の側近の家系)


平民であるお父様を婿入りさせるとか狂気の沙汰か!とお祖父様はおっしゃったらしい。そんなお祖父様をお祖母様が説得してくれて、結婚。今じゃそんなお祖父様は孫である私にデレデレです。

それでも親戚から疎まれることに変わりないんだけれど、本人たちは「幸せならそれでいい」と気にしていないようでした。

お祖父様もお祖母様もお母様も自分の評判なんて気にしない人たちです。親戚たちもそれをわかっているのか、彼らに対しては優しい。だけど、お父様とお父様の子である私は論外のようでしたね。


私が直接それを体験したのは、このお披露目パーティーが最初でした。

お母様に連れられて挨拶に行くのだけれど、私の存在は無視。無視はしなくてもお父様に向ける蔑んだ目で見てきたりする。お母様にその表情を見せないのが厭らしい。そして遠まわしにお父様と離婚して自分と結婚しないか?とまで言い出すのだから傲慢だ。

同い年くらいの子達もいたのだけど、私には近づかせないという徹底ぶり。子供が近づきたそうにしていても「あっちでお菓子でも食べてなさい」と食べ物で釣ったり、別の貴族の子に行ってこいと言ったり。

主役は私なのに私だけ疎外しているこの空気。お父様が同僚の人たちの元へ連れて行ってくれたり、お母様が傍に居てくれたりで私は平気でしたけど、パーティーが終わってお父様と二人きりになった時「ごめんね」と言いながら私を抱きしめて泣いたお父様を見て、私は幼いながら罪悪感に襲われました。



そして5歳の時に師匠と出会い、7歳の時私は公式のお披露目パーティーに参加しました。

師匠はこういうお披露目パーティーでの作法や女の戦いの仕方も教えてくれました。だからこの時も切り抜けられたのでしょうね。人間の貴族にとって、7歳は婚約者選びを始める時期なのです。

大体このお披露目パーティーで婚約者が決まるのが通例でしょうか。


私もこの時婚約者を探さないといけないだろうなと思いましたが、幼いながら、女同士の男の取り合い程みっともない物はないと感じました。

王族に群がる同性たちを遠い目で見ながら、私はのんびりと食事をしていると数名の男の子に声をかけられました。どれも皆私とお父様に対する批難の言葉でしたが。

親が嫌っているからこういう態度を取っているんだと丸分かりでした。が、師匠を蔑んだ言葉を言った瞬間怒りが止まりませんでしたね。その場は耐えましたけど、更に追い打ちを掛けるように女の子がこちらへ来て私に対して嫌味を言ってくるのですからまぁ……最後にはキレてしまいました。


持っていたジュースを思いっきりかけてやったのです。あの口をぽかんと開けて驚いていた顔は見ものでしたわね。私が今まで大人しかったので反論もできないような愚図だと思っていたのでしょう。私は王家の方々がいる前でみっともない喧嘩など見せないために黙っていただけなのですけど、やられっぱなしも性に合わないのでこの場からやり返すことにしたのです。

周りにいた大人も何が起こったのかわからないような状況の中、私は笑って言ってやりました。


「私への侮蔑の言葉や行動等、それらは受け入れましょう。ですが、必死に努力して今の地位にまで上り詰めた父への侮辱。私へ淑女の嗜みや礼儀、魔術や常識的知識を教えてくださったお師匠様への侮辱。それらは決して許しません。自分の立場も考えず、学ぼうともしない愚か者に言われる筋合いはございませんもの。今まではお父様やお母様の立場を考え口を慎んでおりましたが、社交界デビューも致しましたし王家の方々もいらっしゃいますので私はここに宣言致しましょう」



「大人であろうが子供であろうが貴族であろうが王家であろうが、私、容赦いたしませんから」



簡単に言いますと、『これ以上大切な人を傷つけるようだったら誰だろうと容赦しないからな。小娘だからって侮るなよ』という感じです。私は社交界で師匠の悪い噂が流れているのも知っていましたし、お父様の悪い噂も流れているのを知っていました。勿論噂を流した元凶の貴族たちも既にリストアップ済み。不正の証拠や浮気情報なんかもきちんと詳細に書類として保管していました。

勿論それを無視している王家のことも書類にまとめていたり。私個人が作り上げた情報網なので家族に迷惑は一切かからない。

たぶんこの時の私は怖かったでしょうね。諌めようとしたお祖父様や陛下までが硬直して私をまじまじと見ておりましたもの。「ざまぁ!」と言いながら貴族らしく高笑いでもしてやろうかと思ったけれど、自粛しました。首を切られる覚悟で発言したんですけど、1ヶ月の謹慎で許しが出ましたね。

これ以降私たち家族への虐めみたいな物は無くなりました。あくまで家族です。私だけが標的になっただけ。





10歳の頃に両親の通っていた魔術学園へ入ると、更に酷くなった。

上流貴族の方に虐められもしましたし、わざと孤立させられていました。私的には気楽に行動出来ますし婚約者もいない身でしたので、勉学に力を入れることが出来たので万々歳でした。ストーカーが出てくるまで。

この時、私に一人だけ友人が出来たのです。同じ中流貴族の女の子だったのですが、本性はまさかのストーカーで、部屋まで押しかけてきたことがありました。私を殺して自分も死ぬとまで言った彼女は、私に権力目的で近寄ってきた男にあっさりと殺されました。友人だと思っていた子がストーカーだと気づいたのは、犯人を捕まえ彼女の日記を見てからです。色んな意味で驚きましたね……内容が酷い酷い。


彼女を殺した男がこの日記を元に私に取り入り、あわよくば婚約者になろうとしてましたがそんな気なんて微塵もないので大人しく牢屋へお連れいたしましたわ。

暗殺者が送り込まれたり、呪術が飛んできたり、誘拐されかけたりと色々ありましたが全て証拠もなく始末しました。


それから2年で学園を卒業し、14歳の時に城へメイドとして奉公にきて、解雇され。


「現在にいたります。正直に申し上げると、私の判断基準は敵か味方かぐらいです。種族に特にこだわりなどありませんし働ければ何も問題は……って、何故周りの皆様も硬直しておられるのでしょうか?」


幼い時に本当に体験した話をしながら黙々と作業をしていると、気づけば私以外全員作業を止め、私を凝視していた。聞いてきた本人であるナザなど、青ざめた顔で私を見つめているし。何か不味いことでも喋ってしまっただろうか。


「嬢ちゃん…鋼メンタルか?」


「私のメンタルはガラス製です」


「絶対違う。断言する。絶対に違う」


同意するかのように周りのコックやメイドさんまで何度も頷いている。失敬な。私のメンタルは本当にガラス製なのに!正直に言うとやり返そうと思えばいつでもやり返せたし強い味方がいるし(神様筆頭、その他エトセトラ)軽い気持ちで行動してただけなのだ。


当時の頭の中では

『今世でもこういうのに巻き込まれるんかい!!』

とか

『王家とか貴族とか知るか!お母様やお父様傷つけるんだったら容赦なく敵にしてやるわ!!』

とか

『友人がまさかのストーカーで助けてやったんだから結婚しろ?冗談も顔だけにしろ!!』

なんて思ってたんだよ!?


(前世で)慣れてますもう勘弁してくださいが一番だったのだ。

実は似たような被害を前世の時体験しているし、尚且つ娘や息子も似たような状況になったことがある。どの時代でも貴族というものは面倒なものだと何度思い出してもしみじみとしてしまう。一番気楽だったのは勇者パーティーとして旅をしていた頃かもしれない。


「魔王様のところに来たのがなんとなく理解できるわ…」


「人に愛想が尽きてこちらに来たわけではありませんよ?お師匠様に会うついでに就職出来ればと思ったぐらいなので。ある程度金額が貯まりましたら、ここもいずれ「メイドちゃんいるー!?」…たぶん私のことですね。少々行ってまいります」


いきなり調理場に現れたカロン様の声に私の言葉がかき消され、最後まで言えなかったけれど、伝えるべき情報は伝え終えた。これで信用されなければそれはそれでいい。

そんな事を思いながら、私は一礼して小走りで入口に立っているカロン様の元へと向かった。









突然城を半壊にしたその日の内に、今まで専属のメイドを付けなかった魔王の専属メイドになった人間の少女を見送り、ナザは自分の胸の中に出来た不安が払拭されたのを感じていた。そして新たな問題が現れたことに戸惑いを感じている。

ナザの目的は『いきなり現れた人間の本当の目的を知ること』だった。

ナザの上司は少女のことを人間からの刺客だと言っていたが、最初の出会いからしてそれは無いなと判断していた。刺客ならばあそこまで堂々と自身の情報を曝け出すはずがない。まして、あの双子とあそこまでやれる人物を彼は知らなかった。


そして、今先程の少女の過去。嘘にしては生々しい壮絶な過去は、聞いている身としては強烈なものだった。しかもそれを話している本人は自分の表情に気づいていないようだった。

身内の話をする際は優しく微笑み、本心から笑っているんだと目に見えて分かる。しかし敵とみなした相手の話をすると一瞬で変わる。笑み自体は変わらない。だが瞳がまるで狩人のように鋭く、その瞳がこちらに向けば射殺されるのでは?と錯覚する程に、恐怖心を酷く煽られた。久方ぶりに背筋に寒気を感じるほどに。自分たちが硬直しているのに気づいた少女が年相応の表情を浮かべると、内心ホッとしたものである。

それ程までのことがあったのに、少女の目的は「働いて稼ぐこと」と察した瞬間、故郷に帰りたいと思ってしまったのは気のせいだと思いたい。


『ナザ、あの娘、敵対心、持ってない』


「あの目見りゃ分かる。オイラたちの事は味方だって思ってくれてるわけだろ」


『家族、殺された、話、同情、見えた』


「普通の人間だったら同情もしねぇもんな。あぁ、元に戻っていいぞ」


『今、コック。ナザも、一緒』


ナザはそう言われ、自分が今どんな格好でここにいるのかを思い出して苦笑する。そして調理場にいた本物のコックたちに礼を言い、部下と共に調理場の外に出て行った。

調理場の外へ出ると、ナザは身にまとっていた調理着をその場に全て脱ぎ捨てた。下着姿になったナザを確認した部下がその背に覆い被さると、徐々に部下の形が変わっていく。


溶けている、というのが正しいのか。人型だったものが徐々に溶け、端から銀色に変わっていく。それがナザを包み込み、徐々にその顔すら銀色の液体が覆っていく。

まるで取り込まれるかのようなこの光景に、あの少女がこれを見たらどんな反応をするだろうかと、ナザは思わず笑っていた。








ナザを取り込んだ銀色の物体が新たに形を変え、まるで鎧のような形を取ると、それはゆっくりと起き上がった。小柄の少年を飲み込んだ鎧は長身になった自分の体を見渡し、そしておもむろに兜に手をかける。兜が鎧から外された瞬間、中から出てきたのは先ほど飲み込まれた少年とは全く違う男だった。

後ろに適当にまとめられた髪は雪のように白く、肌も健康的な人間に比べると若干青白いとも言えるだろう。閉じている瞼が開かれると、金色の瞳が憂いをみせる。男の髪には髪と同じ色の動物の耳がピコピコと動いている。

端整な顔に憂いの表情を帯びているその男をルーフェが見たならば、「男らしいイケメンなのに女性っぽいってどういうことなの!?」と叫んでいたかもしれない。

それ程までにこの男の見目は格好良かった。


だがしかし。次の行動を見ればその考えも失せただろう。


「あーっ!なんで俺がこんな仕事しなくちゃいけないんだよ!」


男はそう言って持っていた兜を廊下に叩きつけた。叩きつけられた兜からは『痛い』という言葉が聞こえてくる。その表情は今さっきのあの憂いを帯びていた男性と同一人物だとは思えないほど、眉を顰めている。あからさまに分かる、苛立っているのだ。


「これ報告したら、絶対主怒るだろうなーめんどくせー」


『報告、義務』


「んなこと知っとるわ!でもあの人嫉妬深いだろ?婚約者に監視付けるほどだしさ」


『命令、守る』


「こんなの報告したら魔王の旦那も怒るぞ。俺、主より旦那を怒らせる方が怖いわ!」


『女、たぶん、少女、殺す』


「だよなー。意地でも殺しにかかるぞ…旦那の二の舞とかあんな子にあわせたかねぇぞ」


男はブツブツと言葉を発しながらウロウロとその場を歩き続ける。そして何かを思いついたのか、転がっていた兜を持ち上げ、意気揚揚と走り出した。


「旦那に指示仰ぐか!主には嘘の報告でもしとけばいいしなー」


『…、…、賛同』


「お前も同じなら尚更だな。さっさと報告して、チロに会いに行こうか」


『チロ、少女、同室、友達、なりたい、らしい』


「…余計嘘の報告しなくちゃならなくなったな。よーしさっさと行くか」


ルーフェが行動していた裏でこのような会話があったことなど、彼女自身知らないまま、のんびりと月日は流れ。




気づけば、1年の歳月が過ぎていた。






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