メイド、予想外の再会
えーそんな訳で、レイヴン様からお説教を食らった私は力の限り思い出せる範囲で中庭を修復しました。
はい、一瞬で終わりました。魔術って便利~。一応使いやすい様にと訓練道具等を収める小屋やベンチ等も追加しときました。
そして、改めて自己紹介を始める勇者御一行と魔王軍たち。
「今代の魔王、レイヴンだ」
「…今代の勇者のシゼルと申します」
他のメンバーの挨拶もそこそこにして、話は連れてこられた理由の説明から始まった。
「最初に謝っておこう。お前の父上の病の原因は、我ら魔族にある」
レイヴン様の言葉に、殿下が硬直する。後ろで少年がギャーギャー騒ぎ始めたけれど、殿下の手が上がり口を閉ざした。
無言でレイヴン様を見る殿下。その態度を見てレイヴン様は話を再開した。
「正確には先代の魔王とその部下達が原因だと言える。今代の勇者に選ばれたお前たちは知らないだろうが、先代の魔王は勇者に倒されてはいない」
そう言って、レイヴン様は玉座から立ち上がり殿下たちへと近づいていく。警戒して身構える勇者御一行。しかしレイヴン様の手から現れた40cmぐらいはある太い角を見て、首を横に傾げた。
「これは、先代の魔王の角。先代を倒したのは…殺したのは、我だ」
先代ということは、推測が正しければレイヴン様のお父様が先代の魔王。そうなるとレイヴン様は父親殺しであり、同族殺しを行ったことになる。
いきなりの発言に私でさえ驚いていると、レイヴン様はその角を殿下の手に握らせた。
「我は先代の非道で愚かな行動を幼い頃から見続けたせいか、人間よりも、肉親である先代やそれに付き従う者たちを汚らわしい生き物だと認識した。最初からその行為が非道な物だとは理解できてはいなかったのだが…皮肉な物だ。当時汚らわしい生き物だと思っていた人間に気づかされたのだからな」
苦笑いを浮かべ、殿下を見るレイヴン様の目は懐かしいものを見るかの様に悲しげではあったけれど優しい目だった。まぁ見られてる殿下は目が点状態みたいですけど。
「簡単に言えば、我は人間が好きになったのだ。それを快く思わなかった先代は密かに我を“今までの魔王”にしようとした」
「今までの魔王?」
「過去に存在した魔王の精神を憑依させようとしたのだ」
「魔術でいう、『精神の入れ換え』が正しい」とレイヴン様は付け加えた。入れ換えるとなると、下手したら元の人格が消えてしまう可能性があるけれど、自分の子をそこまでして魔王にさせたかったのだろう。えげつないですね。
「その術は代々魔王の側近を務める一族に伝えられていたんだが、先代の側近を勤めていた魔族は先代を既に見限っていて協力する気がなかった。だから無理やり実行した。方法も曖昧なまま行ったせいで術は失敗し、逆に先代の身体に災厄の魔王が憑依したんだ」
「災厄の魔王って……もしかして初代魔王かしら」
囁く様なルエさんの言葉に、レイヴン様は肯定した。歴史書の中でしか見たことがないけれど、魔族という種族を生み出し虐殺を死ぬまで行い続けた残酷な魔王で、歴代魔王の中で最凶・最悪の魔王。
本当の名前は本人以外誰も知らないとされているって書いてあったかな。
「憑依した際に一度殺したのだが死なず、片角をへし折って地下牢屋へ鎖で繋げ、永遠に動けない様にその当時の勇者の剣で胸に杭をしていたのだが……」
「「10年前くらいに牢屋ぶち抜いて逃げ出したのー」」
「「「はぁっ?!」」」
いや、勇者の剣胸にぶっさされてて?魔族の弱点である角折られてて?鎖で繋がってたのに?
牢屋ぶち抜いて抜け出したぁあああああああああああああああ!!!!!?????
魔族は角を折られれば下手したら絶命する可能性だってあるのに、おぅ凄まじや初代魔王(精神)。
「ここ数年調査して、奴が人間の国に行っているというのは突き止めたが所在が今まで分からなかった。だが、今日その所在が判明し協力を仰ぐために諸君らを招いた次第だ」
「…初代魔王となれば、協力せざるおえない状況か。で、その所在は?」
「君の父上の薬師だ」
あらー予想してましたけど、やはり国王様の薬師様でしたか。「信じられない」と殿下が言うけれど、ちょっと前私が見た黎明の花の書類を魔女さんが渡すと、殿下は徐々に顔が青くなり、膝から地面に崩れ落ちた。傍に少年とルエさんともう一人が寄り添って立ち上がらせるけれど、立っているのも辛そうだ。
そりゃあ信頼してた人がまさかの元凶だったから仕方ないでしょうね。かなりのショックだったでしょう。
「…そんな…まさか…あの薬師が…?」
「事実だ」
「いや違う。絶対に違う。女性の下着姿を想像して涎を垂らしたり変な掛け声を発しながら治療を行ってたり犬に菓子を取られて号泣したりする奴が初代魔王なわけないじゃないか…っ!」
別の意味でのショックだったー!!!てか初代魔王形無しじゃないかおい!
流石にレイヴン様もショックを受けたようで、「そんな奴に負けたのか?」とこちらも落ち込む始末。
二次被害起きてますよ!?
「それって事実なのですか?殿下」
「事実です。確か恋人がいると聞いた覚えが……」
不安になって聞いてみたらこ・い・び・と・い・る・の・か・よ!!!歴史書に載ってた最恐・最悪っていうイメージガタ落ちですわ。
本当にそんな人が初代魔王なのか不思議である。
あーでも初めて会った時確か全力を出しすぎて劇薬を作ってたような…とそこまで思い出して、まさかと思った。恐る恐る手を上げて殿下に聞いてみる。
「殿下、あの薬師様は本気になればなる程問題を起こしてませんでしたか?」
「そういえばそうですね。本人が本気を出すと言った後はかなり荒れたような…」
「確か王様が病に伏せられた際に、『全力を尽くします』って言ってませんでしたか?」
私のその発言に何か思い当たる節があったのか、ハッとした顔で私を見た後、盛大に膝から地面に崩れ落ちた。「うぉぉぉおおおおお馬鹿じゃないのか僕わぁああああああああ」とか言ってる辺り、医師として推薦したのは殿下みたいです。ご愁傷様。たぶん初代魔王は行動が『裏目』に出る魔王なんだろう。それも全力を出せば出すほど全力で裏目る。ただの迷惑な人ですね、うん。
流石に同情しているのか、淫魔二人が肩をポンポン叩いて哀れみの目で殿下を見る。更にテンションがおかしくなる殿下。追い打ちかけるなそこの悪魔共!
殿下が元のテンションに戻るまで勇者パーティーは、とりあえず魔王城でお客として扱われる事になりました。服装も出来るだけラフな物に着替えて貰い、傍から見て勇者たちだと他の魔族に知られない様にしてもらいました。
客室への案内を任されそれぞれの部屋へと案内していくと、魔女さんがルエさんの部屋へ入り、少年の部屋に淫魔二人が遊びに行った。魔女さんはこれからの事について相談をしに、淫魔たちはどうやらお好みのタイプだったらしく、少年の部屋からははしゃぐ声と悲鳴が聞こえてくる。少年は犠牲(生贄)となったのだ。慈悲はない。
そして最後の一人を部屋へ案内し、部屋の説明を一通り済ませて元の職務に戻ろうとした時だった。
突如後ろから黒い手が伸びてきて私の腕を掴み、後ろへと振り向かせる様に引っ張られる。予想外の出来事に直ぐに対応が出来なくて、なすがままにされる。
柔らかい感触と温もりを感じてようやく自分が抱きしめられたのに気がついた。
「えっちょっ」
「ようやく見つけましタ…っ!」
まるで鈴の音の様なソプラノの声が頭上から聞こえてくる。驚いて顔をあげれば、抱きしめてきた人物がフードを外し感極まった表情で私を見つめていた。
光の加減で薄青から薄緑へと変わっているふわっとしたショートの髪に、太陽の様に明るいオレンジの瞳。その肌は少し黒く、少年の様にも少女の様にも見える。正直言うとかなりの母性本能をくすぐられるような顔です。
ここまでなら普通の人なのだけれど、この人は正しくは人間ではなかった。その証拠に、横髪から見える耳は長く尖っている。
この人、エルフだ。しかもかなり珍しいダークエルフ。普段ダークエルフは番人として自分の住む森や遺跡から出てくることは滅多にないらしいのだけど、やけにこの人フレンドリーじゃない?
「アレ、もしかして姿を見てもまだ分かりませんカ」
「私の知り合いにダークエルフはいませんが」
そう答えれば、ショックを受けた顔で大げさなアクションで床へと倒れた。なんなの今日は変な人によく会うな。
暫く倒れているのを変人を見る目で見ていたけれど、彼が顔を腕で擦り始めたとき、徐々に目を見開いて赤い宝石の付いたブレスレットをつけた方の腕を掴む。
見間違いじゃない、これは前世の時お母さんが作ってくれたビーズのブレスレットに私が安い宝石を付け加えた物だ。
「なんであなたがこれを」
「まだ気づきませんカ…あぁ、こう呼ばないと分からないですネ」
そして、目の前の人物は私の手を両手で包んでニコリと微笑んだ。
「お久しぶりデス、おばあ様。アマナですヨ」
………………無言の沈黙が数十秒続き、ようやく理解してきた。
紹介しましょう。
私の息子の息子であるダークエルフのアマナ・ナツメです。
はい。
私の(前世の)孫です。




