◆持ち主のいない部屋
薄暗い部屋に男が一人立っている。ベッドだけで半分ほど場所をとっている小部屋だった。わずかな面積だけ顔を出したフローリングの床には泥で汚れたスポーツバッグが置かれている。棚の上にある野球グローブは寂しげにほこりをかぶっている。中高生が暮らしていそうなマンションの一室、乾燥した冬の冷気がこもっている。
黒いスーツを着た男はがっしりとした体つきで、その格好もさまになった。
後ろで手を組みながら部屋のすみに置かれた勉強机へと彼はゆっくり向かう。柔らかな日差しが窓からさしこみ、宙を漂う糸ほこりを輝かせる。その光は淡い緑だった。彼はエメラルドグリーンの光を半身に浴びながら机を調べ始める。
小学生低学年向けの教科書、同じく参考書、絵本「ジャックとまめのき」どれもこれも子供むけの書籍が並んでいた。男はごつごつとした手を伸ばし、それらの中身を確かめていく。黒い瞳に冷たい光が浮かぶ。彼はそれらを調べ終えるとはじに寄せていた一冊のノートを手に取った。
A4サイズ、四十枚つづりのノートだけは、中高生の、部屋の持ち主のものに思えた。男はおそるおそるそれを開く。
それは日記のようだった。