公表という名の演説
陽介たちのグループにいる雅は、陽介と同じく剣術を武器とする。
しかし、彼女は短刀を用いる。
理由は、彼女は他国の人間であり、そして、彼女の母国でも珍しい「忍者」という部族の一族と名乗っているからである。
彼女は母国で人を殺すことしかしてこなかった。
しかし、彼女はこの国に来て、考え方が変わり、人を救いたいと思うようになった。
そして、今いるこの場所は、人を救うことができる場所である。
彼女は幸せだと感じた。
―――
実は今、選挙が近づいている。
衆議院選挙だ。
ある衆議院議員が、選挙の前日の演説で、陽介たちにとって、とんでもないことを言い始めた。
―――
その日、陽介たちは、たまたま衆議院議員の演説をしているところを通りかかった。
彼らは少しだけそれを聞いた。
『私は、この国の経済産業をより良くするために……』
「どこもかしこも同じね」
雅が欠伸をしながら言う。
「……同意見だ」
誠護も無表情で言う。
「じゃあ、この人はバツ!」
そう言った真由美はニヤニヤしながら左手に持っている手帳を開き、目の前にいる衆議院議員の名前に大きくバツを付けた。
「オイオイ、そりゃ無いだろ」
陽介はそう言ったが、時既に遅し。
「さぁさぁ、次、行きますよ〜!!」
真由美はそう言うと度や顔をして、鼻の中心にあっただて眼鏡を右手の人差し指で鼻の上側へ戻す。
そして、陽介の手を握り、そのまま引っ張って走りだす真由美。
そして、残された二人は、
「「ハァ……」」
と偶然にも一緒にため息をついた。
―――
「この人もバツ! ……この人もバツ!」
次から次へとバツをつける真由美に対して、振り回される陽介はため息をつくなり頭を抱えていた。
そして、ようやく一人の人物に丸がついた。
―――
そして、真由美は相変わらず陽介の手を握り、走りながら、
「陽介さん、最後の一人ですよ!!」
と言う。
「もういいだろ……」
陽介の本音が漏れた。
―――
そして、最後の一人の演説する場所に着き、二人は車の上にいる議員を見ていた。
そこに、雅と誠護がハァハァと息切れしながら歩いて来た。
陽介は議員の隣にいる白衣を着た男には見覚えがあった。
「オイ、真由美!」
小さな声で話し掛ける陽介。
「何ですか?」
「議員の隣にいる白衣を着た男、見覚えがあるんだ!」
「……はい?」
「九条だよ、九条!!」
「えっ…………えぇえぇぇ!?」
「クソ!! なんであの男がここにいるんだ!?」
「まさか……手を組んでいた……とか?」
「いや……『いた』って言うより『いる』だろ……」
「そんなことはどうでもいいです……ていうか、陽介さん…………? どうしたんですか? 深刻そうに後ろなんか向いて」
「殺気を感じたんだ……。今までに感じた事が無いくらいの殺気を……」
「あたしもよ」
「俺もだ」
雅、誠護と続いて言った。
「えっ、感じていないのは、私だけですか……」
真由美はボソッと言う。
その後、陽介はその方向に向くと、
「俺、行ってくる」
そう言って、歩きだした。
「あたしも」
「……俺も行く。真由美はそこで待ってろ」
雅が続き、誠護もそう言って、二人は陽介の後を追った。
―――
陽介たちの視線の先には、少女がいた。
「あれが……神谷……陽介……」
そして、その隣には九条晶の双子の弟である九条新がいた。彼は彼女の耳元でささやく。
「そうだ。あれが神谷陽介。
君が命をかけて守る者を奪う相手であり、君が殺さなければいけない相手だ」
「神谷……陽介……殺す……」
「そうだ。……だが、今日は場所が悪くてね。戦うことができないんだよ。
……だから、君が殺す標的をその目でちゃんと見ておけ」
「…………」
「……おっと、向こうも気付いたようだ。ここで戦闘になっては困るからな……。行くぞ」
「…………はい」
少女と九条新はその場を去り、その後すぐ陽介たちがそこに着いた。
「……いない……か」
陽介はそう呟くと、後から来た二人を連れて、真由美の元へと戻っていった。
―――
「あっ、三人とも、お帰りなさい。……どうでした?」
「……気のせいだったみたいだ」
「そうですか……。
あっ、そうそう、この議員さん、今から重大発表するみたいですよ」
「どうせ、政治的な面の方だろ?」
誠護が言うと、他の二人もうなずく。
「それがそうでも無いそうですよ」
『私、○○は……』
「ほら、言い始めますよ!!」
真由美は足踏みをしながらそう言う。
『人類超能力取得計画を遂行することをここに宣言します!!!!』
「なっ……」
「なっ……」
「何だとぉ!!!???」
「あの男、ついに公表しやがった!!!!」
その後、周りがざわめき始めた。
そのざわめきは、数時間後にようやく収まった。
―――
選挙開票日。
『人類超能力取得計画』の遂行を約束した議員は当然、当選した。