脱走劇
時は十年前。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
闇夜の住宅街を少年たちが駆け抜ける。
「コラ、待て!! ガキどもが!!!」
そんな彼らを追いかけているのは、この暗い空と同じくらいの濃さの黒服の男たちである。
そして、少年たちは、曲がり角を右に、左に、また右に……と走って行く。
しかし、少年たちの体力も限界に近かったのか、段々と速度が遅くなり、黒服たちの距離も狭くなってきた。
(もう駄目だ……)
走りながらもそう考える者も出てきただろう。
しかし、その直後に右に曲がった彼らに奇跡が起こった。
ーーー
少年たちが右に曲がった時、茶髪のセミロングくらいのビニール袋を持った女性とぶつかったのだ。
『痛っ!』
一人の少年がぶつかり、その反動で彼は尻餅をつき、立ち上がれなくなった。
「……おい、大丈夫か!?」
「立てるか?」
その少年の周りに仲間たちが集まっていた。
「……俺のことはいい。それより早く行け!」
「……僕たち、大丈夫?」
その場の空気を静まり返らせてしまった女性は、その綺麗な手を差し伸べて、それによって少年が身体を起こした時に、黒服たちがとうとう少年たちに追いついてしまった。
「……お……追いついたぞ……ハァ……ハァ……さぁ、……ハァ……帰ろう……」
黒服の男は、息を切らせながらも、身体を中腰にし、少年たちに厳つい手を差し伸べる。
しかし、少年たちは女性の背に身を隠したまま出ようとしない。
「……ほら、早く来なさい!」
黒服の男たちが後ろへ回り込み、少年たちを捕まえた。
その少年たちが「嫌だ、嫌だ!!」と叫んで、暴れ出した。
「……嫌がってるじゃない」
女性はふてくそうな顔でその光景を見ていた。
「……あなたには関係ありませんよ」
「……ただの一個人としての意見を言ったまでよ。何ならその子ら全員預かりましょうか?」
「……!」
「実は、私、こういう者でして、この国が密かに妙なことを企んでいるという噂を聞いて、上からの命令でここへやって来たの。……その様子だと、どうやら本当だったようね」
彼女は名刺を黒服たちに見せびらかした。そこには、『FBI捜査官 リリー•ルフェビュール』と書かれていた。
「……外国が手を出すことではないだろう」
「……あら、公にしてもいいの?
だって、まだ機密事項なんでしょ? ……しかも相当な」
「…………」
「……ここ最近の殺人事件。あれの被害者は、みんな政府関係者でしょ? マスコミが随分と不妊だ何だって騒いでるけど、本当はそうじゃない。本当は、このことを世にさらけ出そうとしたから。……まだ、そこに至った経緯は知らないけど」
「…………」
「とにかく、この子達は預からせて頂くわ」
彼女は、子供達の手を取り合うと、後ろに振り向き歩いて行ってしまった。
黒服の男は、震えた手で持っていた銃をあの女性に向けた。
「ハハ……、馬鹿め……こんなことをするからお前もその政治家たちの二の舞になるんだ……」
その言葉と共に、男は銃を発砲した。……が、彼女は倒れていない。それどころか、こちらを睨みながら近づいて来る。
「なっ……、何故だ……。だって、ちゃんと……」
「答えはあなたが一番分かっているはずよ」
彼女は腰が引けてしまった男を見下し、そして睨む。その後ろであの転んだ少年が手を前に出していた。
「まさか……」
「そのまさかよ。その子が超能力で弾を抑えてくれたの」
彼女は、持っていたビニール袋からロープを取り出し、近くにあった電柱と黒服たちの手首を縛り付け、その後に警察に通報したのであった。
ーーー
翌日。
彼女の六畳の部屋には、十人以上の子供達が朝ごはんを食べていた。
その中で、一人、食べずに下を向いていた子がいた。
「どうしたの? ……食べないなら私が食べちゃうよ」
「……本当に、いいの?」
「……ん?」
「本当に、こんな変な能力を持たされた俺たちと一緒で、いいの?」
その言葉で、子供達の手が止まり、一瞬にして場の空気が凍った。
「……別に、気にしてないし。ていうか、その君のチカラが無かったら、私、死んでたんだよ?」
「……へ?」
「だから、感謝してる。だから、恩返しさせて!」
そう、彼女がニコッと笑うと一人、また一人と、朝ごはんを食べ始めるのであった。
番外編、その1です!
……誰の物語か分かりました?




